現代人の松永さん
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家の前につくと私は先に降りて部屋をあらかた綺麗にした。
もともと物が少ないので時間はかからなかった。
夜中ということもあり、掃除機を掛けられなかったことは残念だった。
お湯を沸かし、ご注文のコーヒーを準備する。
それに合わせて松永さんがベルを鳴らした。
「遅かった?」
「いいえ、準備出来てますよ」
小さなテーブルの上にティーカップが2つ。
小さな黒いプールは湯気を上げて揺れていた。
私の小さな部屋を物珍しげに見ながら着席し、何やら感嘆した風にため息をついた。
まだ熱湯の入ったカップに口付けて、ようやく彼は口を開いた。
「ゆきさん……。いや、ゆきちゃんと呼んだ方が我輩としてはしっくり来るか」
「何の話ですか?」
「いや、自分の彼女を名字で呼ぶのも変かと思ってな」
「慣れるまでは「佐藤」で構いませんよ」
「我輩が呼びたいんだよ」
にっこりと微笑むと、私の手を引いて胡座をかいた自分の脚の間に乗せた。
向かい合うようにすっぽりと収まった私はどうするべきか分からなくて硬直してしまう。
その隙に松永さんは後頭部に手を滑らせて私を鼻先が触れあうほどに抱き寄せた。
心臓が止まるかと思うほどに、急な展開に私は目をぱちくりさせた。
「ゆきちゃん、我輩は我慢ならん。
けど明日も仕事があるし、体力は温存したい。
が、ここまで来たしどうせなら楽しんでから帰りたい。
我輩はどうしたら良いと思う?」
「楽しむ……?
お話だけじゃダメでしょうか……?」
「いやいや、分かってる癖に。
しかし安心したまえ、我輩は紳士だから決して君に何かさせたりはしないよ。ただ……」
「ただ……?」
私が繰り返し呟くと、松永さんはいたずらっ子のようにニヤリと笑った。
その瞬間、視界の真ん中に天井があった。
唇に柔らかな温もりを感じた。
キスだと気づいたのは数秒後だった。
「松永さん……?」
「言っただろう? 我輩も君を気持ちよくさせたいと」
「言いましたか?」
「うん。言ったさ。昨日な」
そう言うと息を塞ぐようなキスをされた。
呼吸の術を奪われたようなその施術に私はぼんやりと意識を遠ざける。
舌が気道を塞ぐ。
私を貪欲する静かな熱情を感じた。
私はそれに身を任せて、全てその手の為すままに委ねた。
深い口付けを終えると、胸一杯に空気を取り込んだ。
肩で息をして、自分に精一杯だった内に彼は下着ごと衣服を奪っていった。
ため息が聞こえた。
「やめて、松永さん……恥ずかしい」
私は酔いの最中にいるかのような錯覚の中で、ほんの少しの羞恥を彼に伝えた。
彼は少し意地悪するように小首を傾げると、焦らすようにゆっくりと覆い被さって来た。
「んん~? ここまで来てそれは無いだろう。
申し訳ないが、いくら婦人科の医者といえど男だぞ?
君はもう我輩のものだ。諦めなさい」
優しく諭すような口調だった。私は少し身構えた。
けど抵抗の意思はなかった。
「どう……するの」
「安心したまえ。君に気持ちよくなって貰えれば、我輩は満足して帰る」
にっこりと微笑んで、少し冷たくなった掌を内腿に添える。
私は震えた。松永さんの吐息が、敏感な場所に当たる。
「君のを見るのは二度目だね。
しかし、毎日の事だからあまり覚えて無くてな」
そう言うと彼はまじまじと見つめる。
慣れた手付きで襞をめくり、中の方まで観察する。
左右に広げられると、奥の空洞に温い空気が入り込んで来た。
「君の処女膜を破ったのは一体誰なのやら……妬けるのう」
「恥ずかしいです。そんな見られたら」
「大丈夫だよ。こっちは慣れっこだから」
それから、私の脚の間にゆっくりと唇を寄せた。
彼の舌の温かさを感じた。
帰ってきて間もないから、風呂に入っていないのだがこんな事をさせて良いのだろうか。
でも、そんな事を考えていられる時間も僅かなもので直ぐに浅く早い呼吸が始まり、脳を溶かしていった。
何度か小さく叫んだ。
こらえきれずに漏れ出てしまった。
隣の部屋に聞こえないか不安になったが、直ぐにまた声が溢れて来た。
さざ波の中にいるようだった。
「松永さん……。やだ、やだっ」
「何が嫌なのかな? 気持ちよくて?」
「うん……」
「指も入れよっか?」
私が戸惑っていることなど無視して、彼は中指を舌で潤していた。
クリトリスを舌で転がしながら、入り口を一気に貫く彼の指に私は悶えた。
「あぁ……!」
不覚にも極めた。
収縮し、きゅうと彼の指に下の口がキスをしている。
震えていると彼と目が合った。
見世物を見る目で私を見ていた。
「気持ちいいだろう?」
私は頷いた。
診察の時はただ痛いだけだったのに、あれは何だったのだろうか。
今は指だけでよがり狂えそうだ。
「意地悪……」
「それはどういう意味かね」
「患者さんにも優しくして。こんなに上手なのに」
「あぁ。内診の事。
痛かったか、ごめん。
でも医者に気持ちよくされたら、嫌だろう? TPOってやつ? 」
「私……もう、限界なのに」
「うん。それは良いことだ」
さらりと言ってのけた彼はラストスパートをかけるために、指の出し入れを早める。
彼は起き上がり、私を上から眺めていた。
角度を付けて良いところを見つけようとしているのか、ただ恥じらう私を見たいのか。
心理的にも身体的にも責め縛られて感度はさらに増していく気がした。
「いく」
限界が来て、吐息と一緒に呟く。
ピクピクと、触れられる度に震える。
しかし彼は止めるどころか、益々私の中身をほじくり回しては無言のまま反応を探っていた。
その度に無意識に痙攣が始まる。
目を閉じても何も変わらないのに、固くつむって、唇は噛み締めた。
「いくよ」
「あぁ」
呟いたらそれに返事をされた。
薄目を開けたら丁度時計が見えた。
時間にしたら、まだ三十分ほどしか経っていなかった。
こんな短時間で気を遣るなんて、とも思ったが今さらだった。
男の人の体はどうして私より太く、あるいは長く逞しいのか。
松永さんの股間に鎮座するものも大きかったが、指も長く、当然ながら私より大きい。
普段の自慰では届かない場所も松永さんのなら簡単に届いてしまう。
男女は相性とは言うものの、自分の指で満足出来るくらい優秀な壺で有れば良かったと快楽にさらわれながら思った。
居住まいを正して、彼に入れ直したコーヒーを渡した。
彼は終始満足そうに微笑んでそこに座っていた。
私は少し恥ずかしくてうつむいていた。
「可愛かったよ、ゆきちゃん。これは明日が楽しみだ」
「キャンセルって出来ませんか」
「むふふ。我輩にクーリングオフ期間はないのだ」
「エッチな笑い方をしないでください、先生」
「嫌だね」
紳士な成りとは凡そかけ離れているその幼稚な口調に私は苦笑した。
午前一時を回った頃に彼は帰っていった。
帰り際に「愛している」と囁かれて顔が一気に熱くなった。
そんな事を言われたのは久々だったので、部屋に戻ってから柄にもなく身悶えた。
自分にまだ乙女らしさが残っていることにとても驚いた。
*
昨夜は眠れなくて、結局起きたのが十時を過ぎてからだった。
今頃松永さんは来院する患者の胸や股ぐらを見ては診断を下しているのだろうか。
私には分からないが、ただ今日は約束の日である。
しかし頭が働かず、暫くぼうっと何の準備も成さぬままに時間は過ぎ去る。
動き始めたのはそれから三十分も過ぎた頃だった。
最低限の身嗜みとしてシャワーを浴び、新しい下着をお守り代わりに身に付けて確認する。
それだけで少し動きが軽快に成り始めた。
鏡の住人は私に笑いかけている。
曲線の出る、流行りのトップスと、デートの装いに履き慣れぬ明るめのスカートなどはいて、いつもとは違う少し派手目に女らしい化粧など施せば、途端に全体が媚びた印象となる。
仕上げに、赤よりオレンジに近い紅を差せば雑誌が謳う「最新の顔」というやつになる。
口角を上げ、目を開き、時に細めて笑顔をしたり、口をすぼめて怒って見せる。
見慣れた自分がくるくると表情を変えて行く様は、他人から見れば面白いだろうが本人は至って真剣であり真面目である。
魅せる努力というものがある。
何故なら鏡に映る自分が己の一番美しい貌らしい。
意図せずとも鏡の前では自分を意識する。
故にこれの前では図らずとも人は嘘をつく。
それをありありと映し出すのが正に若い女である。
己を着飾り、顔を整え、若さという何にも優秀な武具を携え、黙っていればさも美しく見える。
しかし、その美しさに翳りを落とすのが鏡を失った時だ。
本人とて着飾る段階で己を貶めたりはすまいが、鏡から離れればその人の在り方が見える。
所作、口調、礼儀など品格の類いは決して一朝一夕に作られるものではない。
故に私はこういう特別な時は、真剣であり真面目なのだ。
手を抜けない。
いくらでもシュミレーションする。
若さしかない小娘だった頃に比べて、己が熟し始めて来て初めて至った考えとも言える。
表だっていないだけでこの私にも皺という年輪が刻まれている。
それゆえ毎日の習慣とは何より恐ろしいのだ。ある日突然私の前に突き付けられる。
特に見えないものほど顕著であると言える。
何十年か先、ただの婆と言われるか、マダムと言われるかその差は歴然であるのだから、表情にさえ念を入れるのは至極当然の事のように思えた。
私はこのように説教じみた高説を己の脳味噌に一通り語りかけたあと最後に胸元にコロンを一吹きして携帯の画面を見た。
着信あり 松永久秀
留守電に彼の音声が録音されていた。
「佐藤さん、おはよう。いや、もうこんにちはの時間帯かな。
昨晩はよく眠れたかね? 私は実はあまり眠れていないんだ。
仕事がたまっているというのも一つだが、君とやっと正式にデート出来ると思うと年甲斐もなくおじさんははしゃいじゃってね。
まぁ、そう言うわけだから楽しみにして良い子で待っててくれよ。
あと一時間もしたらそっちに行くから。では」
私は時計を見る。13:50
土曜日の大概の医療機関は三時には閉まる。
一部例外も在るが松永産婦人科はそうだったはずだと診察券を探した。
窓の外には緑が生き生きと茂っていた。