恋煩いのコンテ集
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朝飯時、久秀さまは頬を米でいっぱいにした状態で言った。
「かぁ~っ、まったく、朝っぱらから信長の顔を見んといかんとは今日は何て日だ!」
「そんなこと言ったって殿様なのだから従わないと。ねぇ、柳生殿?」
「そうだよ~。俺だって松永殿の顔なんか朝から見たくないけど、一緒にいるじゃない」
家来の私と柳生殿は顔を合わせて「ねー?」と言うと、殿様の松永殿は「ぐぬぬぬぬ」と言って箸で指差した。
「何が「ねー」だ! 我輩はあやつの顔を見るたびに可愛い九十九茄子ちゃんを差し出した日を思い出して腹が立つのよ。
あの丸くて小さくて可愛い形。
あんなに大事にしてたのに信長の奴め。
あぁイライラするっ!」
「あんまり怒ると血管切れちゃいますよ。
まだ家にいてこれだと、城に着いた途端倒れちゃいます」
それに、差し出したお陰でしぶとく生き残っているのだから逆に悪運に感謝しないと。
それでもぐちぐち言いながら、朝食を召される久秀さまに呆れながら私はお茶を差し出した。
ふと湯飲みを見ると茶柱が立った。
「ほらほら、今日はいいことが有るかも知れないですよ」
「おや~、本当だ。松永殿~、文句言わずに行ってみなよ。
なんなら俺も一緒に行こうか?」
「ほら、柳生殿がいれば心強いです。
ダメなら私も付いて行きましょうか?」
すると、久秀さまはじとーっとした眼差しで私達を見た。それからゆっくりと吐息した。
「行かないとは言っとらん。
子供扱いするでない。それから、こま」
「なんですか?」
「お主はお留守番だ」
それから、嫌だ嫌だと言いながらも礼服に着替えて仕度していた。
毎度「動きやすいから」と言う理由で南蛮人のような衣服を身に纏っているが、今日ばかりはきちんとした和装だった。
爽やかな青で、とても素敵な装いだ。
しかし目が慣れていないせいなのか、似合わないなと思ってしまうのは何故だろうか。
柳生殿が呟いた。
「似合わないねェ…」
「悪かったな」
「松永殿、いつもの服で行きなよ。あの派手な奴」
「我輩が斬られても良いのか」
「まぁまぁ」
せっかく着たと言うのに、また脱ぐはめになった久秀さま。
何が悪いんだ、と少し不機嫌になって私を呼んだ。
「こま」
「はい」
柳生殿にお茶を出してから久秀さまに従う。
手招きされ奥の部屋に入り、襖を閉める。
着替えるために久秀さまが背を向けた。
私は彼の脱いでいく着物を預かり、物干しに掛けていく。
何度見ても、とても素敵な色合い。
なのにどうして似合わないのか不思議だった。
「やっぱり悪党が爽やかな色を着るからダメなのかしら。
試しに黒か紫にしてみたら良いのでは?
ほら、大好きな蜘蛛の服もその系統でしょう」
「ちっ。お主まで言うか。そう言うの偏見って言うんだぞっ!
若い頃はこんなのばっか着てたの!」
「あら若い頃は大層お似合いだったでしょうに。
年を取るってかくも残酷ですね。
もう若くないのですから意地を張らないでください」
「悪党は年をとらないんです~。
永遠の二十歳(はたち)なんです~。
それより今我輩を年寄り扱いしたろう。
おじさん怒っちゃうぞ、ぷんぷんぷんっ」
それでも再度着替えて仕度する。
柳生殿が「今度はまぁまぁだねェ」なんて言うから夫婦みたいだな、なんて思った。
久秀さまが嫁で、柳生殿が旦那役の想像をしてたら、あまりの面白さに彼らの後ろで思わず吹き出してしまった。
柳生殿はポカーンとしているし久秀さまは怪訝そうだ。
「急にどうしちゃったんだい? こまちゃん」
「いや…なんでもありませんよ」
「嘘をつけ。なんでもなければ息なり吹き出したりすまい。
だから我輩にこっそり教えてみよ、何を考えたのだ?」
興味津々だろうが教えられるか、そんなこと。
「そんなことより久秀さま、私よりもご自分でしょう。
早く行かないと大嫌いな信長に首を切られちゃいますよ」
言いながら、首を掻き切る素振りをする。
そろそろ屋敷を出ないと間に合わないのだろう。
久秀さまが途端に眉間に皺を寄せた。
「まったく。賢しらな小娘め。我輩を試すなんて…コワイ!」
「さぁさ、早く仕度してください。
柳生殿、面倒だけど久秀さまのことお願いします」
「まぁ任しといてよ」
「こま、帰ってきたらお仕置きだからな!
我輩にそんな態度取ったこと後悔させてやる~!」
まるで犬の遠吠えのように久秀さまは言うと、柳生殿を連れ立って屋敷を出立した。
私は手を振って応えた。
「お仕事頑張って下さいね~」
「いーだ! やなこった!」
良い年したオッサンが思いきり舌を出してあっかんべーをする様子に私の心境は苛立ちよりも心配の方が勝っていた。
「本当に大丈夫かしら…あの人」
案ずるより産むが安しとの言葉もあるが、何となく不安が残った。
「まぁ…大丈夫よね」
心配は何か起きてから考えよう。
20171223