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私の名前は、なまえ。
今日から乙女学園の生徒を体験入学として2名迎えることになりました、とクラス担任の西川先生が言った。入ってきて~という声に入ってきた、ふたり組の女の子。
ひとりは背丈は普通で、水色の長い髪を降ろして目と眉の間で綺麗に揃えられた前髪パッツンが印象的な、美少女という言葉が本当に似合うような子。自己紹介をして、ニッコリと笑えばクラスの男子ほぼ全員がザワザワしていた。
もうひとりは、私が目を疑うぐらい、いや、クラス全員が目を疑うような凄く顔の整った背が高い子だった。女の子だよね…?と疑問に思ってたけど、その子が名前を言えば女の子だと確信出来た。でも、その辺にいるボーイッシュな感じの女の子とはまた違う、恐ろしい程に顔面が整った子。オレンジ色のポニーテールは、とても綺麗にまとめあげられている。私含めて、クラスの女の子全員がその子に見惚れてしまっていた。
でも私は、見惚れてしまったなんて簡単な言葉だけでは言い表せないぐらい、心臓がドキドキしていた。
人生で初めて、同性に恋をした瞬間だった。
この氷帝学園で、一番綺麗でかっこいい人と聞かれれば、誰しもが必ず生徒会長の跡部景吾だと答えるはず。でも私のなかで、その概念は覆された。確かに跡部くんはかっこいい。私だって、跡部くん見たさに放課後は自分の部活もサボって応援に行くぐらいだ。特にテニス部が大会に出る時とかは。
偶然にも、その子はもうひとりの子と隣同士の席に座った。その斜め左後ろの窓際に、私の席はある。案外近い席になって、また心臓がうるさくなる。どうしよう、想像以上に、顔だけ見れば男の子だ。知り合いだったのか、向日くんがふたりに話しかける。斜め前に彼がいるから、愛音ちゃんの横顔が必然的に見られた。鼻高いし、睫毛も長い。長いポニーテールが少しだけ揺れる。ほんと、一体何者なの…。
「なまえ!ご飯食べよー!」
「うん!食堂行くー?」
隣のクラスからやってきた幼稚舎からの親友とそんな会話をしていると、廊下にはぞろぞろと他のクラスや学年からやって来たであろう生徒が溜まり始めた。どうやら目的は、体験入学に来た真里亜ちゃんと愛音ちゃんのようだった。あまりの可愛さとかっこよさに釘付けになっているようで、私みたいな人は沢山いるんだ、とちょっと嫉妬したというかなんというか。
実を言うと、私は女子テニス部に所属している。男子と比べれば弱いし、人数も少ない方だけど、ちょくちょく全国大会には出場してた。でもふたりもテニス部だってことは、実は今日初めて知ったことだった。部長のあさみちゃんが、3日間だけ一緒に練習することになったとみんなに紹介する。あとのふたりは違うクラスだから今が初対面だけど、どっちも可愛い感じでびっくりした。妃香琉ちゃんは世話焼きなお姉さんって感じで、梓ちゃんはおっとりしてる、大和撫子って感じだった。みんな実家はお金持ちだし、可愛いしでちょっと羨ましくなった。
練習の最初は、必ず準備運動から始まる。
私の友達が恐る恐るふたりに、良かったらストレッチから始めませんか、と声をかければ、真里亜ちゃんが凛とした声で喜んでた。ストレッチなのに、組み立て体操とか言い出して、なにと勘違いしたんだろう…。
10月の体育祭の時には、愛音ちゃんは大活躍だった。
色別対抗リレーでは赤組のアンカーになり、最下位だったにも関わらず、見事なごぼう抜きで1着でゴール。私も驚きとそのかっこよさにはもうキャーキャー騒ぐしかなかっし、私の周りにいた女の子もみんなキャーキャー騒いでた。しかもMVPにも選ばれて、跡部くんが悔しいそうな表情を見せてたのも、遠くから見ててわかった。
「愛音ちゃんかっこよかったねー!」
「はぁー、あれが男の子だったら絶対告白してた」
「いいじゃん同性でも!1回告っちゃいなよ~!」
「ええ~~流石に遠慮するかも。見てるだけで、いいかなって…」
「わかるわかる。そう言えば、今度男子テニス部のレギュラーたち、テニス世界大会の強化合宿に参加するらしいよー来月から。2ヶ月くらい帰ってこないって」
「…、嘘でしょ?ねえ嘘でしょ?」
「嘘じゃないよ、跡部くんとあさみちゃんが話してるのさっき教室で聞いちゃってさー」
と、いうことは。
しばらくは愛音ちゃんにも会えなくなるということ。まだ直接お話したこともないのに…!と悔しくなった。
今のうちに少しでも会話しておきたいと思ったけど、一体何を話せばよいのやら。
初めまして?こんにちは?
それってただの挨拶だからと、私の独り言を聞いて親友が突っ込んでくる。じゃあ一緒にご飯食べよって声かけてみる?と友達に助言をもらいそれだ!とひとり閃いた。
そしてそれから少しして、突然その時はやってきた。
それはとある、数学の授業中のこと。
書き間違えたところを消そうと筆箱を漁っていたら、消しゴムがないことに気がつく。そう言えば昨日、友達と学校帰りに寄った雑貨屋さんで可愛い猫のペンケースを見つけて、それに入れ替える時に恐らく入れ忘れたんだと気がついた。どうしよう、隣の子に借りようか、それともえんぴつで上から斜線でも引いておこうかと考えていたら、ふいに斜め前から手が伸びてきた。その手のひらには、新品同様の消しゴムが。その手は愛音ちゃんの手だ。外の景色が気になって横を見た時に、私が消しゴムを探して困ってるところが見えたらしい。
「これ、使いなよ」
「えっ、あ、ありがとう愛音ちゃん…!(き、気が利く…!)」
「それあげる、持っておきなよ」
えっ…。
えぇぇ!?
もらっていいのこれ!?
まさか、消しゴムをくれるとは思わなかった。
逆に愛音ちゃんが困るだろうと思い数学終わったら返して、購買部へ買いに行こうかと思ってたから。
ほんの些細なことだけど、それだけでも会話出来たことが凄く、凄く嬉しくて、親友にめちゃくちゃ自慢してやった。
=END=
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