生徒交換
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氷帝学園での生活も3日目。
今日で女子テニス部との合同練習も終わり、いよいよ本格的に男子テニス部との練習に切り替わろうとしていた。そんな日の朝、風咲家のリビングでは、ふたりの姉妹が朝から和食を食べていた。氷帝学園の制服と、見慣れない緑を基調とされたセーラー服を着た女の子。彼女の名前は由佳、梓の姉である。乙女学園とは別の学校に通う、高校2年生だ。梓とは正反対で、活発的な性格をしている。
「どう?氷帝学園ってところは?」
「うちとあまり変わらないんじゃないかしら?みんな元気よ?」
「元気がない学校なんて怖いでしょ…その様子じゃ、部活も順調そうね?」
「ええ。今日から男子と合流して練習が始まるわ」
「えっ、そうなの…?有り得なさそうな展開だけど。あ、もうこんな時間じゃない!私出るわね!」
「行ってらっしゃい。……お父様、私もそろそろ出るわ」
「わかった。私も出るとしよう。車を出すから、待ってなさい」
姉は電車で乗り換え無しの15分。
梓は父親の送迎で、氷帝学園には20分程で到着する。乙女学園までなら、歩いて10分程とそれほど遠くはない。車の後部座席に彼女を乗せて、父親は車を走らせた。いつもなら到着地である乙女学園の前を行き過ぎると彼女は少し寂しい表情を見せ、まるでホームシックにでもなったかのような気分だった。
その頃の時党家。
愛音が行ってきますと、玄関を開けようとすると、『にゃーん』と後ろから猫の可愛い声が。アメリカンショートヘアーの雄、名前はアツム。彼女はいつもあっくんと呼んで可愛がっている。見かけによらず、彼女は無類の猫好きなのだ。あまり外に出したく無いせいか、自分の足元にアツムが来て尻尾を足に絡めてくるので焦っている。
「コラあっくん、外に出ちゃダメだっていつも言ってるだろ、お部屋帰って」
『にゃおん(ゴロン)』
「あ、寝転がるな~」
「あら、またアツムついて行こうとして……」
「お母さん、あっくん退けてよ」
「アツム、愛音は今から学校に行くから、帰ってきたら遊んでもらいなさい」
『うにゃん』
愛音について行こうとするアツムを、母親がだき抱えて阻止する。愛音がアツムの頭を撫でると、アツムは嬉しそうにもう一度鳴いた。彼女が家を出ると、ちょうど前から真里亜が走ってやってきた。昨日に引き続き元気いっぱいで、朝からうるさいのが嫌いな愛音は軽くシカトを決める。しかし真里亜はとてもポジティブな性格なので、そんなことでめげることはない。
「ちょっとぉ!無視しないでよ!」
「してない。遅刻するから見て見ぬふりしただけ」
「それが無視じゃん!!?」
「お前うるさい」
今日も朝から漫才コンビ並のコンビネーションを見せるふたり。たまたますれ違った近所のおばあちゃんも、元気だね~と笑顔で見送っていた。学校に到着したふたりが教室に入ると、別のクラスからやって来ていた宍戸と向日が、なにやら話をしていた。真里亜が机に鞄を置く音が聞こえた宍戸は、振り返ってふたりに朝の挨拶。愛音の表情が眠そうなのを見て、大丈夫かよと心配の声もかけていた。さすが面倒見のいい人間である。
「真里亜、相変わらず朝から元気だな」
「侑士が、いつもあんなのなのか~って呆れてたぜー?」
「ふふん!元気が取り柄だもんね!」
「元気なアホだもんな」
「アホじゃないやい!!」
アホと言われ、キレ気味に声を荒らげる真里亜。
その頃のA組は、跡部がスマホの画面とひとりでにらめっこをしている。チャイムが鳴っても現れない隣の席の持ち主を心配していた。梓が、妃香琉は朝に弱いとのことを言っていたのを思い出し電話をして起こそうと考えていた矢先、やってきたクラス主任の遅刻するという言葉にスマホを鞄の中へと仕舞った。先生も知らないかもと思っていた跡部は、少しつまらなさそうに外に目を向けた。
その頃の妃香琉は、街中にある大きなビルの一角でなにやら写真撮影をしていた。シャッター音が響く中、とくに緊張している様子もなく、淡々と指示を聞き入れ集中している。近くに数々のスポーツで使われる道具なども置かれていて、宣伝用だというのが見て取れる。彼女は今、自分がモデルとして活動している芸能事務所に来ているのだ。中学生になったばかりの頃、街中でスカウトされて今に至る。中学生にしては大人っぽいビジュアルで、ファンも少なくはないんだとか。
「妃香琉ちゃんお疲れ様、今日はここまでね。今度はたしか……そうそう、有名ブランドのジュニア向けランニング用ウエアの宣材写真を撮る予定だから、よろしくね!」
「はい!お疲れ様でしたっ」
撮影を終えて制服に着替えようとする、そこへスーツを着た男性がやって来て、妃香琉へ声をかけてきた。
「じゃ、今日も俺が学校まで送るよ。氷帝学園……でいいか?」
「うん、お願いしまーす」
スーツを着た男性は妃香琉のマネージャーで、名前は、長谷川広斗。
某アイドルグループにも居そうな、周りと比べると比較的イケメンに当たる顔立ちをしていて、背も高い。
妃香琉が宣材写真のモデルを始めた日から、こうして送り迎えをしている。彼女は密かに彼の事が気になっているのだが、マネージャーという関係性と、10歳以上の年の差もあるため、なかなか口にはしずらいようだ。車の助手席に座った妃香琉は、彼に気づかれないぐらいのため息をついた。
「氷帝学園はどう、楽しい?」
「うーん。女の子はみんな優しいけど、やっぱり男の子と絡むのはちょっと緊張するかな…あと隣の男の子が凄く積極的でさぁ」
「そうなんだ。隣の男子は、妃香琉の事が気になってるんじゃないのか?思春期真っ盛りの男子中学生だし」
「そーゆーもんなの…?」
「学生なんてそんなもんだよ。案外恋バナに花を咲かせたりさっ。もしなんか困ったこととかあったらいつでも頼ってくれていいから。お兄ちゃん、相談に乗るぞーっ?」
「まーたそうやって茶化そうとするー!」
「ハハ、至って真面目だけどな~?はい、着いたぞ。氷帝学園」
「え、もう?ありがとう広斗くん。……あっ」
「ん?どしたー?」
「また今度、ご飯連れてってよ。話したいこと沢山あるし、真里亜もまた会いたいって言ってたっ」
「……今は忙しいから、落ち着いたらな。いつもの店、予約しとくよ」
「ありがとうっ、じゃあまた…」
「おつかれさん」
妃香琉は名残惜しそうに、助手席のドアを閉めた。
遅くなりました~と声を出して教室の後ろから自分の席に座る。体育の授業なのか、教室には誰もいなかったため、その言葉に返事はなかった。体育館へ行くにしても、あと10分もしないうちに今の授業時間は終わってしまう。頬杖をついてスマホを弄っていると、ふいに前の入口のドアが開けられる。入ってきたのは隣の席に座る跡部だった。予想より早く来ていたことに驚いたのか、跡部は妃香琉を見て目を丸くした。彼女は彼が入ってきたことに気づかず、スマホに夢中になっている。
跡部が声をかけた。
「よぉ、寝坊か?」
「(いつの間に)……まぁ、そんなとこかな。そういう自分はなにしてんの?」
「生徒会長は忙しいんでな、特例だ」
「ふぅーん。そんなに忙しいなら……手伝ってあげようか?」
「遠慮する」
「そこは頼るところでしょうが!?」
「いつどこで情報漏洩があるかわからねぇからな…お前だって生徒会長なんだからわかんだろ?」
「はぁ?何その信用無さそうな言い訳。そもそもなんの情報漏…」
「………」
「……なに?」
「お前、横顔も可愛いな」
「はあっ!?なっ、なんなの急に…!おだててもなにも出ないからね!?」
跡部にからかわれた事が気に食わなかったのか、跡部におい!と声をかけられたのにも振り返らず、妃香琉はスマホを持ってどこかへと行ってしまった。氷帝のキングは、気になる相手はからかいたくなる性格なのである。勢いに任せて教室の外へと出た妃香琉が辿りついた場所は、屋上であった。入口には立ち入り禁止の表示はどこにもなく、ドアの鍵も空いていて自由に出入り出来ることが分かる。乙女学園は屋上への出入りが禁止されているため、好奇心で彼女はドアノブを回した。屋上から見える綺麗な景色に、彼女は思わずすごい…と心の声を零していた。
手すりに体を預け、空を見上げる。
雲一つない快晴だ。
それから、どこかに座るところがないかと辺りをウロウロしていると、男子生徒の足が2本伸びているのを見つけた。リュックサックを枕の代わりにしてちょうど貯水槽に隠れるように寝ているようだ、誰だろうと不思議に思い妃香琉がゆっくり近づくと、そこに居たのは男子テニス部の芥川慈郎だった。
「ふぁーあ………あれ?誰だっけ…」
「じろちゃんあたし、妃香琉だよ」
「どしたの~こんなところで」
「跡部にいじめられた~!」
「A~それ良くないC~!放課後跡部にガツンと言ってやろ~!」
「あはは!じろちゃんどうせ部室で寝るんでしょバレバレだよ~!」
「へへへーっ。今真里亜とは一緒じゃないの?」
「あの子は意外と真面目だから、ちゃんと授業受けてるよっ」
次の授業のことも、跡部にからかわれた事も忘れたかのように、妃香琉は芥川との会話を弾ませていた。それからしばらくして、探しに来た跡部に怒られたことは言うまでもなかったが。
すべての授業が終わり、放課後の部活のため、4人は集まって男子テニス部の方へと向かった。部室の前までくると、昨日まではなかったはずの謎の建物がひとつ。なんだろう?と首を傾げていると、後から日吉若がやってきた。彼も知らなかったのか、その謎の建物の前で足を止める。そしてその後を向日が続いてやって来て、同じように足を止めた。
「なんですかこれ」
「知らなーい。今来たら既にあったよー?」
「なんだよお前ら、こんなとこで立ち止まっ……ってなんだこれ?!こんなの昨日まであったか?!」
「いえ、ありませんでした。跡部さんが来るまで待ってみてはどうでしょう…?」
日吉の提案で、説明を求めるためにとりあえず跡部を待つことに。外で待つのは暑いからと、真里亜が先頭に立って中へズカズカと入っていく。ドアの鍵は空いていて入口を開けると、そこには部屋の真ん中にカラフルな円形の大きなソファがあり、奥にはシャワー室、4人分のロッカー、冷蔵庫と、部室と同等の設備が既に整っていた。完全に4人のためなのだろうが、まだ作ってる途中かもしれないと、荷物を置くのを躊躇った。
「揃ったか」
「跡部様!いらっしゃーい!」
「それはこっちのセリフだ。ここは、お前ら専用にうちの建設会社に作らせた部室だ。うちに通ってる間は好きに使っていい。あと冷蔵庫には常にスポーツドリンクを入れてある、それも好きに飲め」
「大変だったわね、感謝するわっ」
「ふん、礼には及ばないぜ。着替えたら外へ来い、外周から始める。モタモタすんな………」
「喉乾いたー!ドリンク!」
「カンロ飴もあるわよ~」
「いやだから年寄りかよ。(ポイッ)…くれんの?」
「エアコン付けてもいい~?」
「てめーら初っ端から好き勝手やってんじゃねえ!!」
ご丁寧に着替え終わってからのスケジュールも伝えたのにそれさえ無視されて、女子4人に振り回される跡部であった。
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