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氷帝学園での生活2日目。
朝の登校時間帯の正門前に、いつもの黒塗りのリムジンがブレーキ音をたててゆっくり止まった。運転手がドアを開けると、人が降りてくる前に周りにいる女子生徒達が黄色い歓声をあげる。だいたいの予想はつくが、降りてきた人物が歩き初めた瞬間、一層騒がしくなった。校舎からもある程度の人数が、身を乗り出してこちらを見ている。
「跡部様!おはようございます!」
「跡部様、今日もかっこいい~!」
「ほんとっ、王子様だよね~」
そんな会話に若干耳を傾け、満更でも無さそうな表情で余裕のある姿を見せる跡部。後ろでふたり分の鞄を持ってついていく樺地も動じてはいなかった。すると彼は、ちょうど目先に現れたとある人物を見つけて声をかけた。声をかけられ振り向いた彼女は、落ち着いた表情を見せながらも声をかけられたことに、少々ご不満のようだ。うるささで跡部がいたことは分かっていたらしい。
「よぅ梓、今日はひとりか?」
「ええ今日、わね。いつもなら妃香琉と一緒なのだけど、いつもより早く出ないと行けないのにあの子は寝てるから間に合わないのよ。全く、困ったものだわっ」
「なるほど、確かにあいつは朝に弱そうだな。なら俺様も迎えに行くようにするが…」
「誰が行っても一緒だと思うけど………あら?」
「あーん?」
ふたりが話をしていると、またもや正門前が騒がしくなった。今度はなんだとふたりが振り向くと、そこには数人の女子生徒に若干囲まれそうになっている愛音の姿が。捕まらないようにと少し早歩きで校舎へと向かっていて、ふたりに気づいてないのかスタスタと横切ろうとする愛音。待ちなさいよ、と梓に声をかけられると、ようやく足を止めた。振り向いた彼女が見せた表情は、なんとなく機嫌が悪い。
「……、なに」
「あーん?機嫌悪いじゃねーの」
「この子も朝弱いから。いつもの事よっ」
「違う、…人だかりが鬱陶しい」
「「そっちか」」
不満があるのかひねくれたようにそれだけ言い残して、やはり愛音はスタスタと行ってしまった。するとそこへ、今度は真里亜が元気いっぱい!といった感じで颯爽と登場。真冬でも半袖で過ごす小学生と同じ感覚だろうか、そこには忍足も一緒であった。そんな忍足はまだ朝だというのにもうすでに疲れている様子。真里亜のテンションについていけていないのだ。ぴょこぴょこなにかの小動物かのように動く彼女にはさすがの跡部も、ちょろちょろすんじゃねぇ!と軽くキレていた。
「真里亜、朝から元気ありすぎやろ…!いっつもこんなんなんか…!?」
「だって、学校に行くの楽しみなんだもん!勉強は嫌いだけど、お友達とお話するの楽しいじゃん!あとたくさんテニスしたい!そんでもってご飯!」
「まあ、ご飯はさておき気持ちは分からんこともないわな」
「お前、これだけのわんぱくを面倒見てるの偉いな」
「ふふ、もう慣れっこよ」
「あ!妃香琉が来たー!」
ちょうどそこへ、起きれるかと心配されていた妃香琉がトコトコと現れた。片手には犬柄の可愛い紙袋を持っている。跡部が中身を気にして聞くが、秘密とだけ返されてしまった。ホームルームが始まるからと早速校舎へと向かう妃香琉と梓、すると突然、ふたりの後ろを歩いていた真里亜が大きな声で妃香琉の名前を叫んだ。急に名前を呼ばれびっくりした彼女は、思わず躓きそうになりながらも振り向くと、真里亜の言葉に、その場は一瞬で音のない世界へと変わり果ててしまった。
「制服、スカートだけ違う……!」
妃香琉のスカートだけ違う事件から1時間程。
スカートを履き替えるために一旦家に帰った妃香琉が、学校へと戻って来た。ちょうど授業あいだの休み時間だったようで、ザワザワうるさい中静かに自分の席に座った。はぁ、疲れた…とため息を付きながら次の授業の準備をしていると、ふいに声をかけられた。同じクラスの女子生徒であろうか、『乙女学園の制服を見せてほしい』と言ってきた。見られても困るわけではないので、妃香琉は自分のスマホフォルダから写真を漁る。去年の遠足に行った時の写真を見せると、目を輝かせて画面を眺めていた。
「あっ、やっぱり!この制服見たことある!」
「でしょ!可愛いよね~!私もこの赤いチェック柄のスカート履いてみた~い!」
「ねぇねえ!乙女学園ってどんなところなのー?」
「ど、どんなところ…?んーそうだなー…」
女子生徒達は妃香琉が答えることひとつひとつに興味津々で、時々テンションが上がったり相槌を打って話を聞いていた。しかしいい所でチャイムが鳴ってしまい、彼女達はお礼を言って自分の席に戻って行った。まだここに来て2日目だというのに幸先の良さそうな雰囲気を見せる妃香琉。フレンドリーな彼女の対応に隣の跡部は大丈夫そうだなと、何故か上から目線な回答をする。
「俺様の世話がなくてもやっていけそうだな」
「……、何か言った?」
「お前得意科目はなんだ?」
「得意科目ー?んー、英語は結構ペラペラかも。ていうか全部得意だし?」
「鼻につく言い方だな…」
「なによ!そっちこそ!世話がなくてもとかなんとか言ったくせに!」
「聞こえてんじゃねえか!」
「跡部くんに園城さん、授業始まってるわよー」
「「すみません…」」
ふたりが先生に注意されていた頃。
真里亜と愛音がいるクラスは、体育の授業ということで体育館に来ていた。乙女学園よりも少し広めの体育館にテンションが上がる真里亜と、それを見て静かにしろと言わんばかりの表情をする愛音。半分に分けられた体育館の向こうには男子生徒もいるのだが、彼らも真里亜のテンションには若干引き気味のようだ。周りの女子生徒達も、彼女のはしゃぎようには怪我をしないか心配している様子。今日はバスケットボールということで、1クラスのみだがちょうど人数が分けられるとのことでチーム分けは先生が先に決めていたようだ。ふたりは同じチームで分けられており、ちょっと安心している様子。
「それじゃ、まずは軽くストレッチから!皆怪我しないようにねー!」
『はーい!』
「バスケットボールとか久しぶりだね~!真里亜バドミントンか良かったな~」
「文句言うなよ…」
「よーし!真里亜も張り切るぞー!」
「切り替えはやっ」
勉強はあまりできないふたりだが、スポーツだけは別である。テニスをやっていることもあり、走ったりしたりすることは得意分野。特に愛音はバスケットボール以外にも、野球も意外と得意だったりする。彼女達の活躍もあってか、ふたりがいる組は見事勝利を収めた。愛音はスリーポイントまで決めてしまい、違うチームの女子生徒まで決まった瞬間に拍手喝采であった。特に喜びを表すわけでもなく、愛音は淡々としていた、他の女子生徒と比べてだいぶ背が高いため、とても目立つせいか男子生徒も驚いている。愛音のかっこいい姿を見て女子生徒達はきゃあきゃあはしゃいでいた。
そして時は流れ放課後。
女子テニス部との合同練習2日目。
妃香琉が他の3人を迎えに行こうと席を立った時、ちょうど聞き覚えのある声に名前を呼ばれた。声のする方へ目を向けると、そこにいたのは昨日試合をしたばかりの橘あさみが、鞄を肩からかけて立っていた。負け試合だったにも関わらず、彼女の表情はあっけらかんとしている。一緒に部室へ行こうとのお誘いだ。後ろには梓の姿も。たわいのない話をしながら、そのまま3人は部室へと向かう。部室の中は既に着替えを進める女子生徒達でいっぱいになっていたが、そこにはすでに真里亜と愛音の姿も。ふたりはさっそく練習に合流していた。
「真里亜いっちばーん!」
「こーら、騒ぐんじゃない」
「いいじゃん愛音のケチーっ!」
「(イラッ)お前なぁ……」
「わーぁ怒った!」
「「…………」」
レベルの低いふたりの掛け合いに、近くに居た部員達も困惑気味。声をかけるにも愛音が若干不機嫌そうなので遠くから見るしかないと思いながらも、一緒にストレッチをしませんかと、1人の部員が恐る恐る彼女達に声をかけてみた。
「あ、あの。よかったら一緒に、ストレッチからやりませんか…?」
「…!」
「うん!いいよ!やろやろ!何からやる?組み立て体操?!」
「組み立て体操……?!」
「お前何しにきたの」
テニスとは一切関係の無さそうなことをやろうとする真里亜に愛音のツッコミが入る、漫才コンビみたいと笑う人もいた。部室も人が減って来た頃、持ってきていた紙袋をなにやらガサコソと漁る妃香琉。あさみは忘れ物をしたのではないかと心配して声をかける、違うんだけど~と言いながら彼女は紙袋から何やらラッピングされたお菓子を取り出した。星の形をしたクッキーである、どうやら手作りらしく、梓とあさみに食べる?と袋ごと差し出した。お菓子作りが得意な妃香琉は、休日など暇な時間はキッチンに立っていつもなにか作っているんだとか。
「え、いいの?それじゃあひとつ…。ん、美味しい!」
「…妃香琉の手作りクッキーなんて久しいわね、やっぱり美味しいわ」
「ほんと?型抜き失敗したんだけど、美味しいなら良かった」
「あさみ、入るぞ」
するとそこへ、あさみになにか用事があるのか書類を持った跡部がやってきた。前に言っていた合同合宿の件がなんとかといいながら、妃香琉達が食べていたクッキーに目を向ける。手作りのものはあまり見たことがないのか、なんだそれと口を開く。あんたも食べる?という彼女の言葉に甘えて、彼はひとつだけ手に取った。
「……!(美味い)」
「あっ、美味しかったみたいよ」
「あさみちゃんわかるんだ?…残りはあげる、みんなで食べなよ」
「いいのか?」
クッキーと引き換えに渡された書類を受け取って一通り目をとおしてから、3人は部室を出る。今日の部活も、コート周りのランニングや素振りの練習など、いつも通りの氷帝女子テニス部の練習風景が広がっていた。4人はついていくのがやっとかと思われたが、部員達とも仲良く出来ているようで安心してもよさそうだ。練習も終わり家まで距離がある4人は、着替えも済ませて先に部活を終わらせて帰路につく。妃香琉が玄関に入ると、一匹の犬が嬉しそうに彼女の元へ駆け寄ってきた。園城家の愛犬、ウェルシュコーギーの女の子ハナである。どうやら人間はみんな留守のようだ。
「ハナ~、ただいま!」
『ワン!』
「よしよしっ」
ハナを抱っこしてリビングに上がる妃香琉。
お腹を空かせているのか、ハナは自分の餌が置いてある棚の近くに座り込んで鼻を鳴らしながら彼女の顔を見つめている。それに気づいて、妃香琉はハナのお皿に餌を移した。餌を食べるハナの頭を1回だけ撫でた後、彼女は着替えるために自分の部屋へと階段を上がっていった。
こうして、氷帝学園での生活2日目は幕を閉じた。
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