生徒交換
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※※跡部視点※※
体育祭の準備期間中のことだった。
ふたりだけの生徒会長室で自分勝手な一方通行な想いで、あいつのファーストキスを奪った。勢いよく押し返され初めてのことだったのかどこか切なさを思わせるあいつの表情を見てしまい、取り残された俺は馬鹿なことをしたとひとり頭を抱えた。あいつがいなくなった生徒会長室は今までにないぐらい静かな気がしてその後少し遅れて教室に帰ってもお互いの間に会話はなく、クラスメイトだけがザワザワしていた。その日の放課後も体育祭の準備でバタバタしていたせいか、妃香琉と会話することは無かった。体育祭当日も生徒会長としてやらなければならないことが多く、あいつのことを考える暇はなかったが、体育祭翌日は自分の誕生日だから、あいつとなにか話をするチャンスだと思っていたが俺の誕生日を知らなかったことは誤算だった。
部活が終わったあとも言い訳を考えて、妃香琉を引き止めようとした。絶好のチャンス、とは言わないが、自宅に招き入れて俺の部屋でたわいない話をしながらその場の雰囲気であいつを独り占めしたくなって、思わず手を出してしまった。細くてしなかやな身体だったがやはりテニスをやっていることもあったせいか、俺に抵抗してみせる姿はどこか力があった。もう後戻りできず、そのままあいつとのセックスを続けた。こんなことをしてもあいつの気持ちに変化があるわけじゃないことは、自分でもきちんと分かってたし、ただのわがままだということも理解しているつもりだった。
気を失ってぐったりとした妃香琉をそのままベッドに寝かせて俺はシャワーを浴びようとひとり部屋を出た。シャワーを済ませて俺が部屋に帰ると、既に妃香琉の姿が無かった。軽く舌打ちをして、勝手に帰りやがってと思いながら用事を思い出してもう一度部屋を出ると、ちょうどミカエルが俺のところにやってきた、どうやら親父が呼んでいるらしい。
「坊ちゃん、お父様がお呼びでございます」
「分かった。…妃香琉はどうした」
「帰られるとのことでご自宅までお送りしましたが…」
「………そうか」
ため息をつきながらしょうがないと思い、そのまま親父のところへと足を向けた。話も終わり、用事を思い出してから部屋に帰り夕食の準備ができたと再びミカエルは俺を呼びに来た、食堂へ向かうといつもより豪華な食事が並べられていていつも通りの夕食だったが、どことなく切なく感じていた。それから、連休も終わったある日。俺は榊監督に呼ばれて理事長室へと向かった。11月から始まる、とある合宿について説明があるらしい。なんの合宿かは俺にも分からなかった。コンコンとドアをノックし、失礼しますと部屋に入った。そこには、ひとりの見覚えのある女性が一緒だった。交流会が始まる前に、梓と挨拶をしにきていた乙女学園中テニス部顧問の佐野美和子監督だった。跡部くんこんにちは、と言う彼女に、礼儀正しく挨拶を返した。
「突然呼び出してすまない。来月から、我が氷帝学園中テニス部から数名、U-17テニス合宿へ行ってもらうことになった」
「U-17……?」
「12月から、オーストラリアで国別男子テニス世界大会が行われる。高校生とプロテニスプレイヤーがメインとなる大会だが、今年は中学生からも選抜し、最低でも3人はオーダーに組ませることが規定となった」
「うちだけですか?」
「基本的には、全国大会に出場した中学校に招集がかけられている。青学、立海、四天宝寺は既に確定している」
「あの4人も一緒に?」
「せっかくこうして姉妹校締結して交流会やってるんだし、あの子達だけ放ったらかしに、ってするわけにもいかないと思って、テニス連盟に一緒に参加できないかかけ合ってみたら快くOKが貰えたのよー。跡部くん面倒見良さそうだし、よろしくね?」
「わかりました…」
そこで話が終わり、駐車場まで佐野監督を見送ることに。気をつけてと言うと、彼女が振り向いて足を止めた。
「あの子たち元気にしてるー?」
「…はい、時々騒がしすぎるくらいです」
「フフ、でしょうね。特に真里亜なんかは元気すぎるから…それじゃ、後は頼んだわね」
「はい」
勢いよく正門を抜けていく車を見送って、テニスコートへと戻った。まずは、レギュラーや他の部員にも早めに伝える必要があると思い、全部員を集めた。妃香琉の姿はそこにはなく、おそらくまた撮影かなにかだろうと考えたが念の為梓に確認を取る。
「妃香琉はどうした」
「撮影が入ったからってさっき帰ったわ。で、話って?」
「来月から、U-17の合宿に参加することになった」
その場に居た全員が、は?という顔をして、俺に視線が集中する。
「ねーねーあたし達も行くのー?」
「あぁ、お前らもついてこい。…選抜メンバーに選ばれれば、国別男子テニス世界大会に出れるそうだ。最低でも3人、中学生を組み込む規定らしい」
「テニスの世界大会なんてあるんやな、気ぃ抜いたら置いてかれるで岳人」
「なんだよ侑士、選ばれる気満々かー?」
「私たち、ついていく意味あるのかしら?」
「無さそうだけど、まぁ見学だけでも勉強にはなるんじゃね」
ミーティングだけで、今日の部活は終わった。
合宿のことを妃香琉に伝えておこうと電話をかけるが、一行に出る気配がない。明日でいいかと部室を出たら、あいつと出くわした。
「跡部くん…」
「……郁」
そこには、水蓮郁がいた。
手にはなにか紙袋を持っている。
俺の前に近づいてくれば、長く巻かれた髪が揺れる。
懐かしいフレグランスの匂いに、少しだけ動揺した。
「どうした、こんな時間に」
「妃香琉さんは、もう帰られたかしら?」
「ああ、部活にも出てない。それを渡したかったのか?」
「ええ、この前助けてもらったから、お礼を渡したくて。いないなら仕方ないわね」
そうだ、郁は小さい頃から持病持ちだったな。
元々女テニでレギュラーだったが、去年の半ば頃から体調を崩すことが増えたから、早めに退部していた。こいつと俺が、その頃まで付き合っていたというのは、ほとんどの奴らが知っている。薬と点滴のおかげか、今は調子が良さそうだ。久しぶりに食事でもどうかと誘うと、そうねと頷いてから言う郁を自宅へ招待した。一緒に並んで歩くのはいつぶりだろうか。付き合っていた頃は、休日にはよく食事に誘ったもんだ。家につくと、一旦俺の部屋に入らせる。少ししてから、郁が先に口を開いた。突然の問いかけに少し動揺したが、平静を装って返事を返した。俺があいつにどんな想いを抱いているのかは、まだ誰にも話をしたことがない。
「跡部くん。もしかしてだけど、…あの子に惚れてる…?」
「……、何故だ?」
「いつも楽しそうだったから。この前の連休も、ラリーに誘ってたじゃない。その時の跡部くん、なんとなく楽しそうだったから」
「(見に来てたのか)…フッ…妬いてんのか」
「バカ言わないでちょうだい。私には、もうあなたとよりを戻す資格なんて…」
「持病があることは仕方ないことだろ……そんなことで、俺は女を嫌いにはならねえよ」
「あなたいつもそうやって、優しくしてくれるのね」
「俺様を誰だと思ってんだ?……たまには、泊まっていくか…部屋は別で用事させる」
そこまでしなくてもいいわよという郁の言葉も無視して、俺は後ろから郁の髪を撫でる。そこで、食事の用意が出来たとミカエルが呼びに来た。先に行ってるぞと背を向けたら、ふいに背中に熱が触れる。どこか寂しそうに、俺は手を取られる。
振り向けば、背伸びをした郁がキスをしてきた。
黙って受け入れながら、自分が情けない奴だと後悔した。