生徒交換
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氷帝学園での生活が始まったその日の放課後。
女子テニス部との合同練習が始まった。
謎の3日間だけ設定は置いといて、4人は乙女学園のテニスウエアに着替えてコートへと合流。氷帝テニス部ウエアの淡い水色とは異なり、セーラー服風の襟元が赤いテニスウエアは遠くでも目立っていた。とりあえず適当に柔軟を始めていると、部長である橘あさみから招集がかかる。氷帝学園女子テニス部は、男子よりは少ないものの80人近い部員が所属している。4人ともこっちに来て!と言われて部員達の前に横に並んで立ち、順番に自己紹介をしていく。あの男子テニス部で練習出来ることに嫉妬してくるどころか、ちらほらなにやら羨ましそうな話し声が聞こえてきた。
「みんな!乙女学園から4人体験入学に来てくれてるんだけど、3日間だけ私たちと一緒に練習してもらうから、みんな仲良くしてあげてね!」
『はーい!!』
「あの人だよね?めちゃくちゃかっこいいって騒がれてた人」
「うわぁ近くで見ると迫力ある~!けど真里亜ちゃんも可愛いんだよね~、あんな妹欲しいなぁ」
「梓ちゃんは落ち着いてて大人っぽいし、妃香琉ちゃんも可愛いしスタイルいいしで羨まし~」
そんな会話を、聞いているようで聞いていないフリをしている真里亜は、満更でも無さそうな表情を見せていた。ふふんと鼻を鳴らして、よーし今日は頑張るぞー!と両腕を上に伸ばして拳を突き上げる。そんな彼女を見て、愛音が今日はじゃなくて今日もだろ、と口を開いた。図星だったのかそれに対してブーブー文句を言う真里亜をシカトしてから、ふたりはさっそく打ち合うかと思われたが、妃香琉の元へ駆け寄る橘あさみに同時に目を向けると、彼女が口にした言葉に一気にその場の空気が変わる。
「妃香琉ちゃん、ちょっといい?」
「どしたの?」
「今から私と、試合してもらえないかしら」
「えっずいぶん急だね?」
「私、あなたとずっと試合してみたかったの。全国大会は初戦で負けちゃって…」
「…、そうだったんだ。いいよ、やろっか」
「ありがとう!手加減はなしよー?」
そっちこそ、という妃香琉の言葉を合図に、ふたりは水分補給をしてからほぼ同時にコートへと入る。ふたりの会話を知らない部員達は、その姿を見て手を止めてなにが始まるんだろうとコートへと視線を向ける。どちらからサーブを打つかを決めたあと、早速サーブ権を手に入れたあさみがボールを高く上げてラケットを振る。そこまで速くもないそれを、妃香琉はあっさりと返し、そしてそれは足元を抜けてラインギリギリに落とされるとあさみは全く反応出来ずに立ち尽くした。部員達も口を開けたまま驚きの表情を見せていると、梓がほんとに手加減無しねとクスクス笑いながら呟いて妃香琉に視線を向けた。面白そ~と言ってベンチに座る真里亜の横に愛音も一緒に座る。
それから、始まって5分もしないうちに繰り広げられる激しいラリーの応酬。お互いに引き下がることもなく、ただボールを返す時間が続く。しかし妃香琉のボールを返す力が強いためか、体力を削られるような状態になりあさみはだんだん返すのがやっとになるのだが、一瞬の隙をついてラインギリギリにボールを落とすことに成功し、15-15と追いついた。
「あさみ先輩凄い!」
「妃香琉先輩に並んだよ!」
「あさみーー頑張ってーー!」
そんな喜ぶ部員達をよそに、3人は余裕のある表情を見せる、まだ妃香琉が本気を見せていないという事がわかっているからだ。そんな彼女は、いつもの軽そうな態度はどこへ行ったのか、いつもとは違う顔つきを見せる。それに何かを感じたのか、あさみは先程よりもラケットを握る手に力を入れてから再びサーブを放つと、そしてそれはすぐさま返され、あさみを横切って先程と同じようにそっくりそのままラインギリギリに落とされた。それからあっという間に1-0と、妃香琉が1ゲーム目を先取。まだ試合が始まって20分も経ってはいないが、既に結果が見えているような気がして、部員達にも焦りが出る。
そしてチェンジコート。
汗を拭こうとあさみが一旦ベンチに戻ると、近くにいた副部長らしき部員がふかふかのフェイスタオルを彼女に渡した。同じく妃香琉も愛音から同じタオルを受け取ると、一旦首にかけてからスポーツドリンクをグビグビと飲み始めその飲みっぷりには部員達もびっくりして見ていて、飲みすぎてトイレ行かないでよねという梓のツッコミには真里亜がゲラゲラと笑っている。
お互いが再びコートに戻ると、今度は妃香琉のサーブ。
「んじゃ、今度はこっちのサーブね」
「迎え打ってあげるわ!」
「いくよ~っ」
「えっ、(妃香琉ちゃん、左利きだったの……!?)」
先程まで右手で持っていたラケットを突然左手に持ち変えるのを見てあさみはかなり驚かされていた。そしてそこまでサーブも速くないだろうとあさみは予想していたが、放たれたサーブがツイストサーブだったこともあってか、良い意味で裏切られてしまい1歩も動けずに通り過ぎて行ったボールに目を向ける。今度こそサーブを返そうと今度は少し後ろから下がって体制を整えるが、サーブのスピードが衰えることは無かった。それどころか、初めて受けるツイストサーブに驚かされてばかり。しかし、ツイストサーブを初めて見るのはあさみだけではなく氷帝女子テニス部全員が同じ立場であった。涼しそうな表情を見せる妃香琉に対して、あさみは少々焦っているようだ。
ちょうどその頃。
忍足がいるH組には、宍戸、鳳、向日と、男子テニス部の面々がこぞって集まっていた。ちょうど女子テニス部のテニスコートが見える場所が教室のため、高みの見物といったところだろうか。どうやらずっと今までの試合を見ていたようで、妃香琉の強さに驚いていた。
「妃香琉のやつ、左利きだったんだな。そういやー、前にあさみが、同級生にめちゃくちゃテニス上手い子がいると言ってたけど妃香琉のことだったのか…?」
「そうなんちゃう?」
「けど妃香琉先輩、この前なにかメモを書いてる時は右手で書いてた気がしたんですが」
「テニスは左利きで、日常生活は右利きなんちゃう?たまにそういう子おるやん。ツイストサーブ、教えてくれへんかな」
「それ以上技増やしてどーすんだよ侑士」
「お前らなにしてんだ」
「あさみが妃香琉と試合やってんだよ、跡部も見てけば?」
するとそこへ、生徒会の会議が一段落した跡部が樺地を連れてやってきた。みんなが目を向ける先には女子テニス部のコート、妃香琉が見慣れた人物と試合をしているところが見えてちょうど近くにあった誰の席かはわからないが椅子に、面白そうだなと早速座っていた。他のメンツも気にはなっていたようだが、跡部はあさみの様子を見てすぐになにかが足りないことに気づいた。実は彼女はサーブ&ボレーヤー、そのいつものテニスが生かされていなかったのだ、それから今度は妃香琉に目を向けると左手でラケットを持っていることに意外性を感じた。もう少し近くで見学しようと気が変わったのか、それとも気になるあの子のテニスに興味があるのか、跡部は立ち上がり樺地を連れて教室を出ていく。数分後、跡部が来たことにより部員達は嬉しそうにしていて、わらわらと人が集まってきていて女子テニス部のコートの周りは人で埋まっている。
そして試合は3-0。
チェンジコートのため、ふたりは一旦水分補給に入る。よっこいしょとベンチに座る妃香琉の元へ、3人が駆け寄ってきた。梓がスポーツドリンクを渡すとそれをまたグビグビと勢いよく飲み干す妃香琉。もう少し落ち着いて飲めよという愛音の言葉も気にとめずに、彼女があさみの方に目を向けるとどうやら跡部がなにかをアドバイスしているらしい。真里亜がずるーいと駄々をこねているが、妃香琉はお構い無しのようだ。
「あさみ、いつものお前のテニスはどうした?」
「えっ?」
「あーん?お前はサーブ&ボレーヤーだろうが。いつまでも相手のスタイルに驚かされてちゃ、突破口はねぇぜ?攻める事も大事だろうがよ」
「……っ!跡部くん、ありがとっ」
試合を再開させ、再び妃香琉の強烈なサーブがあさみに襲いかかる。やっと慣れてきたのか、彼女は難なく返す。するとあさみが突然前に攻めてきた。いよいよあさみも本気を出してくるのだろうか、ネット際に立ちボールを返す体制に入る。妃香琉はガラ空きの真後ろへ返すために返したが、それからサーブ&ボレーヤーの特徴を生かすようなあさみのプレーに妃香琉は調子が狂ってしまい、3-1と初めてあさみにゲームを取られてしまった。やっとこさゲームを取ったあさみに、部員達から一際大きな歓声が。ふと上を見上げたあさみは忍足達の存在に気がついていたのか、校舎を見上げて大きく手を振る。それに対して、宍戸が頑張れよ!と励ましていた。
あさみと宍戸は幼稚舎からの顔馴染みなのだ。
「そういえば宍戸さん、橘部長とは知り合いだって言ってましたね」
「おぅ!家が近所だからな、小さい頃は、あいつの兄ちゃんとたまに遊んだりもしてたな」
「なるほどなぁ、宍戸の初恋はあさみやったんかぁ」
「なっ、なんでそうなるんだよバカ!」
忍足の冗談にも顔を赤くして怒る宍戸を他所に、とうとうスコアは5-1。あと1ゲームで、妃香琉の勝利が決まってしまうが、跡部からのありがたいアドバイスもあってかあさみはまだ諦めてはいない様子。得意なボレーで妃香琉を翻弄し続ける。妃香琉も最後まで手抜きはしていられず、ラリーの途中で余裕のジャックナイフを披露して見せる、女子にしては威力のあるそれにあさみは反応することすら出来なかった。その後もラリーの応酬が続く中、妃香琉はあさみの隙を見て誰もいない左サイドに狙いを定めて勢いよくボールを叩きつけようとする。必死にそれを返そうと走って取りに行ったあさみだが、ラケットがボールに追い付きこれは返せる、と思ったその瞬間、突然そのボールが急降下しそれが返されることはなかった。ありえないようなボールの動きに周りは混乱を見せる。
「ボールが急降下した!」
「あの人、何者なの…?!」
「あれも妃香琉の魔法のおかげだよね!」
「ええ、そうでしょうね。ボールに魔法をかけてわざと急降下させたのよ」
「なんだ、その魔法ってのは」
「跡部様いたのー?」
妃香琉は魔法使いなんだ~!と、どこか誇らしげに言う真里亜があっさり教えてしまうのかと思えば、楽しみは取っておいた方がいいわよという梓のご意見もあり妃香琉の強さを知りたいなら自分で確かめろ、ということらしく跡部はそれ以上追求して来なかった。しかし、試合を見ていた彼は何となく察していた、彼女は中学女子テニスにとっては特別な存在なのであろうと。
日も暮れて来た頃、試合が終わりを告げる。
スコアは6-1となり、残念ながらあさみは妃香琉に勝つことは出来なかった。だがこれも良い経験に繋がると、改めて憧れていた妃香琉と試合出来たことに喜びを感じていた彼女は落ち込むことなくありがとうと妃香琉に握手を求める。がっちりと交わされたその握手を終えてベンチに帰ってきたあさみに駆け寄る大勢の部員達。部活が終わってから、妃香琉はあさみとなにやら話し込んでいたため、他の3人は先に帰ることにしてさっそく部室を後にする。
「それじゃ、お疲れ様あさみちゃん」
「妃香琉ちゃんもお疲れ様!ゆっくり休んでちょうだい!」
話も終わってから彼女がひとり帰ろうとすると、どこからかテニスで壁打ちをする音が聞こえてきた、しかしここのコートではない別の所だ。もうどこも部活は終わりのはずなのにと、それが気になって音に吸い寄せられるように歩いていると男子テニス部のコートに辿りつく。そこで壁打ちをしていたのは跡部だった。案外熱心なところもあるんだなとおもいながらも、声もかけずにただその姿を見入っていた自分に妃香琉は少しだけ驚いた。そして壁打ちをやめたところで当の跡部に見つかってしまい、盗み見とはいい度胸だなと言いながらスポーツドリンクを飲むためにベンチへと座る彼を見て、彼女も釣られるように近くのベンチに座った。
「帰らないの?」
「生徒会の会議もあって遅くなってな」
「ふーん、忙しいんだね」
「ここの教育方針だ、仕方ねぇだろ」
「自学自尊、ってやつか……あっ」
そこでスマホが震えだして、家政婦の明美さんが迎えに来た合図となった。そろそろ行かなきゃ、と言って妃香琉がベンチを離れたところで跡部が彼女の名前を呼んで引き止める。振り向くとなにかを言いたげにしていたが、彼はやっぱりなんでもないと言ってまた壁打ちを始めていた。首を傾げたが、彼女はそのまま背を向けて歩き始めた。
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