生徒交換
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その日の部活は昼過ぎに全てが終わり、4人も着替えて帰る準備をしていた。妃香琉が靴下を履き替えていると、部室のドアをコンコンとノックする音が聞こえてきた。誰かがは~いと緩い返事をすると入ってきたのは佐野先生、氷帝学園に挨拶に行くから、一緒についてきてほしいということのようだ。部長である妃香琉を連れて行きたかったようだが、彼女から快諾の返事はもらえなかった。
「美和子ちゃんごめーん、あたし撮影の予定入っててこれから行かなきゃなんだけどぉ…」
「あらそうだったの?仕方ないわねぇ、誰か3人の中で暇な人いないのー?」
「真里亜これからママとお買い物だからパース!愛音はー?」
「あたしもパス。親父がランチに行こうって言うから」
「あらそう。じゃあ……」
そう言って、佐野先生は残された梓に目線を送ると、彼女は仕方なさそうに大きなため息をついたあと私が行ってくるわと言った。呑気な妃香琉以外のふたりはよろしく~とやる気のなさそうな声をかけてから、そそくさと部室を出ていく。妃香琉も続けて、マネージャーが迎えに来たからと部室を出た。その時の梓はにこやかに内心軽く怒っていた。準備ができたら正門で待ち合わせ、という事で梓が正門へ向かうと、佐野先生の愛車である紺色の高級外車が目の前に停まった。車の助手席に座ると、なにやら高級そうな紙袋を渡される。中にはこれまた高級そうな箱が入っていて、お菓子が入っているらしい。ちなみに佐野先生は乙女学園の卒業生であり、テニス部の先輩でもある。派手な金髪で年齢は非公開だが、自称32歳。
「梓ついてきてくれてありがとね~」
「いえ、気にしないでください。さっさと帰ったあのふたりのことは根に持っておきますけど」
「あはははは。妃香琉は嘘じゃないだろうけど、真里亜と愛音は完全に嘘ついてたわね。そのお菓子、絶対渡してよねー?」
「任せてください」
車を走らせること15分弱。
氷帝学園の前には、ずらりと車が列を作って停まっていた。どうやら夏休みにも関わらず勉学や部活に励む生徒を、親が迎えに来ているようだった。並んだ車の横を颯爽と通り過ぎて行き、正門から学校の敷地内へと入って行く。職員室へ向かおうと敷地内を歩いていると、男子テニス部のコート前を通る形となった。練習に励んでいる部員や、ランニングをしている部員、軽く会釈されるとふたりも会釈で返した。すれ違った部員が、すげー美人がふたりもいると驚いていた。するとちょうど目先に、テニス部の監督であろう人物がコートを眺めるように立っていてこちらに気づいたのか、歩み寄ってきて声をかけてくれた。
「もしや、佐野美和子先生では?」
「あら榊監督じゃないですかー、こんなところでお会いできるなんて。先にご挨拶をと思って、職員室へ向かおうとしてたんですが」
「そうですか、わざわざ御足労いただきありがとうございます。ここではなんですから、応接室へご案内します」
「お気遣い感謝いたします。ただ残念なことに、この後も予定が立て込んでおりましてぇ」
「そうですか…」
佐野先生の言葉を聞いてから、梓は佐野先生がさっさと挨拶を終わらせて帰りたいという心の内を読み取っていた。彼女は意外とめんどくさがりなのである。せっかくだから部長からも挨拶をさせてほしいと榊監督が言うと、ちょうど近くにいた男子生徒に声をかけた。それはテニス部部長であり生徒会長でもある跡部景吾だった。この人が噂の跡部様…?と思っていると、彼も軽く会釈をして落ち着いた様子で自己紹介をしてきた。
「はじめまして、氷帝学園中テニス部部長の跡部景吾です。お会いできて光栄です佐野監督…と…」
「はじめまして、私、乙女学園中テニス部副部長の風咲梓と申します。本当は部長とご挨拶にお伺いする予定だったんですが、生憎都合が合わなかったので。よろしかったらこちらのお菓子、受け取っていただけるかしら?」
「…気遣い、感謝するぜ」
「(流石ね梓、落ち着いて対応できてるじゃない…?)それでは私たちはこれで。他の部員さんにもよろしくお願いしますとお伝えください」
「わかりました、こちらこそよろしくお願いいたします」
そしてふたりは名残惜しそうに見せかけて氷帝学園を後にする。せっかくだから自宅まで送ると、佐野先生に梓は自宅まで送ってもらった。帰宅して自分の部屋に入ると、飼っている文鳥に餌を与える、すると鞄の中でスマホが震えだした。電話がかかってきたようで、ディスプレイには園城妃香琉と表示されている。時刻はもうすぐで17時、いつもの撮影が終わったようだ。
「もしもーし」
「…もしもーし、じゃないわよ。撮影は終わったの?」
「うん。これからマネージャーに家に送ってもらうんだぁ、氷帝学園どうだった?イケメンいっぱいいた?」
「そこまでは見てないわよ~…そうね、なかなか広そうなところだったわよ。真里亜は確実に迷子ね」
「ははは、あたしまで迷子になっちゃいそうだなー。それじゃまた明日ねー」
「ええ、おやすみなさい」
そしてその翌日も、テニス部は部活三昧。
もうすぐで4人が氷帝学園へ行くということもあってか、一部の部員達からは最後に試合をしたいというこで、各コートでそれは繰り広げられていた。例のそばかすギャル花柳真由美が、妃香琉にいざ勝負!とかなんとかいいながらラケットで彼女を指してコートへと誘導する。お互いに軽いノリでコートに入ったが平部員と部長の試合、やはりコテンパンにされてしまっていた。それは彼女も同様で…。
「真由美~、ちゃんと全部拾ってよね~?」
「くう~!なんのこれしき!」
「えげつないわね、妃香琉」
「真由美ちゃん可哀想っ」
「意地悪だなアイツ」
「ちょっと!全部聞こえてるんだけどぉ!?」
「次あたし!リサも混ぜてよ!」
「「部長強すぎ」」
他の部員達も、妃香琉のあの言われようには面白かったのかコソコソ所々で笑っていた。そんな楽しそうな雰囲気のテニス部を、外から見ている男子生徒がふたり。氷帝学園中の忍足侑士と日吉若だ。どこから入っていいかわからず植え込みの間から様子を伺っているようだが、通りかかった人たちも怪しい目でふたりを見ていた。いい加減中に入りましょうよ、と日吉は忍足を促すも、正門前に警備員がいるため少々困惑している様子。あの警備員なんとかならへんのかと忍足は小声で愚痴る。ちなみに乙女学園は、基本的に他校の生徒は出入り禁止となってはいるが、事前に連絡し許可証さえもらえれば、出入りはできる仕組みになっている。と、跡部が言っていたのを日吉はここでやっと思い出した。
「そういえば、跡部さんが学校には連絡を入れてあるから事情を話せば中に入れる、って言ってませんでしたか?」
「…、それを早う言わんかい」
「すみません、忘れてました」
日吉が警備員に声をかけて事情を説明し、やっと敷地内へ足を踏み入れる。正門からテニス部のコートは1番近い所にあり、部室を目指して2人は並んで歩く。ふたりに気づいた女子生徒達が、氷帝学園の制服を着たイケメンがいるとザワザワしていた。そのザワザワは一気に広がり、遂には人だかりまででき始めた。水分補給をと一旦部室に帰っていた妃香琉と愛音は、コートの外にできていたその人だかりに気づいて近づくと、その人物達を捉えた。
「この人だかりは~…?」
「氷帝学園……?」
「あんた、さっき試合しとった子か?」
「そうだけど…」
「突然来てすみません。俺は氷帝学園中2年、日吉若です」
「同じく氷帝学園中3年、忍足侑士や。来週からよろしゅうしてや。昨日副部長さんが挨拶に来とったみたいやから、俺らもお菓子持って挨拶に来たんやけど…」
「それでわざわざ?遠いところありがとね」
忍足は良かったらみんなで分けてや、と言って愛音に紙袋を差し出した。どうも、と言って彼女はそれを素直に受け取る。その後はすぐに帰るのかと思いきや、日吉が思い出したかのように持っていた紙袋を今度は妃香琉に差し出した。それは氷帝学園の夏服であった。4人分をまとめて預かってきたから、今度からはこれを着てさっそく来て欲しいとのことである。冬服はまた後日渡すと伝えながら、日吉は妃香琉の気の強そうな雰囲気を見て跡部さんが言ってた人か、と内心で納得していた。
「ほな、俺らはこれで。すまんな急に来て」
「お邪魔しました」
「気をつけて帰れよっ」
「ごきげんよー!」
「真里亜先輩、使う場面違いますよそれ……」
今日も真里亜のアホっぷりは健在であった。
そんな彼女も、部活を終わらせて自宅へと帰ってきた。両親が経営している宝石店は、彼女が住むマンションの1階に店を構えている。ただいま~といいながらテニスバッグを玄関にある棚に立てかけて靴を脱いでいると、小さなボブヘアーの女の子がパタパタとお姉ちゃんおかえり!と駆け寄ってきた。それは大河内家の末っ子、4歳を迎えたばかりの妹の唯(ユイ)。真里亜が靴を脱いで上がると、腕を伸ばして抱っこしてと甘えてきた。
「お姉ちゃん抱っこ~」
「はいはい、よっこいしょっと」
「ああ~ずりぃ!俺も抱っこー!」
「あんたは小学生でしょ~?」
いいじゃんケチ~!と足元で駄々をこねるのは弟の洸太(コウタ)。小学2年生の暴れん坊である。リビングまで来て妹を下ろすと、今度は母親がおかえり真里亜と出迎えてくれた。とても若々しく、真里亜とは姉妹と間違えれることが多いうえ、髪型も彼女にそっくりである。飼っているうさぎのリンゴちゃんに餌をあげようと袋を出して唯に渡した。
「唯~、うさぎさんに餌あげられる?」
「うん!はいリンゴちゃんどーぞ!」
「リンゴも大きくなったね~」
まだ飼い始めて3年ぐらいしか経っていないが、飼い始めた頃よりも大きくなり大人になったリンゴちゃんの頭を撫でながらニコニコ顔の真里亜であった。
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