生徒交換
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
「とっ、徳川先輩!」
「やだ……っ、血まみれじゃない……!」
「どーなってるの跡部様!?」
「見ての通りだ、俺だってビックリしてる」
食事を終えてしばらくしてからコートに戻ってきた妃香琉以外の3人が、コートの悲惨な状況を見て声を荒らげる。相当なダメージを受けてきた徳川カズヤは吐血し、コートには血が落ちていた。そして全ての元凶が平等院鳳凰にあることを理解する。するとそこへリョーマがやってきて、試合に加勢してしまう。徳川の姿を見て怒りを露にしているのかテニスなめんなよ、そう言って秒動画を睨みつけていると、外に黒部コーチの合宿所退去の指示が聞こえてきた。今度は怒りをあらわにした平等院の一撃で給水塔が落ちてきて、タンクの中から大量の水が溢れ出ている。それに動じることもなく、リョーマは指示に従い落ちたキャップを拾ってから合宿所を出ていこうとする。給水塔の落ちる音にビックリして部屋から出てきた妃香琉の横を、リョーマはなにも言わず通り過ぎてゆく。彼女が、リョーマどこ行くのと聞いても、それに返事をすることは無かった。
「なにさっきの音?リョーマは一体どこに…」
「あいつはここを退去することになった。あの試合に、加勢したからな」
「は……っ!?あのバカ!」
「あっ、妃香琉どこ行くのー?」
真里亜が声をかけたが、妃香琉は無視してリョーマを追いかけた。リョーマ!待って!そう大声で言えば、彼は立ち止まる。止めても無駄っすよ、と言う彼の肩を彼女は掴んだ。
「あんた馬鹿なんじゃないの!?なんで、樺地と同じことするの!?何のためにここにきて…っ!」
「……妃香琉先輩、怒ってるの?」
「当たり前でしょ!?信じられない、真剣勝負に加勢するなんて…」
「徳川先輩のあんな姿見て、黙ってられるわけないじゃん。お世話になりましたっ、妃香琉先輩っ」
リョーマは別に後悔してないというような表情でその場を離れていく。彼女はただ立ち尽くしてその背中を見送った。それから数時間立って、夕食の時間。徳川カズヤと平等院鳳凰の試合に加勢したリョーマは、合宿所退去となったことの話になって、もう会えないのかな…と4人は目線を下げた。彼とは、対してテニスで打ち合い等はまだしたことがなかった。 日本がオーストラリアに行ってしまえば、恐らく会うことはない。
「あーあ、樺地といいリョーマといい、男はなに考えてるかわかんないね」
「テニスに対する思いが強いんじゃない?正義感が強いのよっ」
「そーなのかな……そういえば、明日は選抜メンバー発表だっけ?」
「ええ、楽しみね。誰が選ばれるのかしらっ」
その翌朝、セスナから降りてきた三船監督から中学生の日本代表メンバーが発表された。
跡部景吾、幸村精市、白石蔵ノ介、真田弦一郎、亜久津仁、遠山金太郎、丸井ブン太、不二周助、仁王雅治、石田銀、大石秀一郎、木手永四郎の13名で、ここには居ないが越前リョーマが14人目として選ばれている。
氷帝からは跡部だけが選ばれ、しかも中学生のキャプテンとして活躍することになって、同じ氷帝メンバーは彼を祝福した。そこへ真里亜がやってきて、跡部様おめでとう!とニコニコ顔で喜んだ。そしてそこへ今度は仁王がやってきて彼女を呼んでいる。
「真里亜、俺のことは祝ってくれんのかの?」
「あ!仁王くん!」
「リハビリも頑張ったんじゃ、褒めてケロ」
「よしよし!頑張ってたよ仁王くんも!本番も頑張ってねぇ!」
「……、まかしちょき」
仁王の頭をポンポンとして褒める真里亜の姿に、周りはギョッとする。仁王が目を丸くして、顔が若干赤いことにも気づいているようだ。まさか…?と思いながら、そのあとは特になにもなかったように過ごしていたが、梓があの子はミステリアスな人が好みなのかしら?と首を傾げていた。
その祝福の場にいなかった妃香琉と愛音は、テニスでラリーをしていた。愛音が、祝ってやらなくていいのかよと妃香琉に問うが、いいんじゃないのと興味なさそうに言う。すると一旦手を止めて休憩しようかと妃香琉にまた声をかけて、一緒に適当にベンチに座った。珍しく、今日は風が強いようだ。
「やっぱり跡部となんかあったのか?」
「えっ、なんで?」
「この前だって、跡部が来た途端どっか行ってたじゃん。梓も気にしてたぞ?」
「……」
「別に、なにもないならそれでいいんだけどさ。なんか気に食わないことされたんならあたしが代わりにぶん殴るけど?」
「そんなんじゃないよ。…ありがとっ」
愛音は愛想がなくクールで取っ付きにくいと思われがちだが、中身は優しくて気配りのできる人間だ。スポーツドリンクを飲んでから、続きやるかと誘おうとしたら、跡部はきっと…と妃香琉が何かを言いたげにしている。振り向いた愛音は足を止めた。
「跡部はきっと、好きなんだと思う、…あたしのこと」
「………、はっ?」
「どうしたらいいかわかんないし、ほったらかしだけど…」
「え、告られたの」
「ううん。そうじゃないけど、なんとなく……」
「じゃあ、もうあいつにしとけよ」
突然の言葉に、今度は妃香琉が、はっ?と疑問を返した。真面目に考えてる?と投げ掛ければ、興味無いなら深く考えんなよと言われた。その話をどこで聞いていたのか、そこへ梓がやってきた。探したじゃない、と片手にはラケットを持っている。座って、靴紐を結び直し始めた。
「ふふふ、恋する乙女は大変ねぇ」
「してないよ、恋なんて。広斗くんで終わったから」
「もう、話をぶり返すんじゃないわよっ」
「あはは、ごめんて」
ラケットで妃香琉のわき腹をツンツンしながら、私も仲間に入れてちょうだいよと言う梓に、愛音がじゃあ相手しろよとコートへ誘う。その隙に、妃香琉はその場を離れた。向かった場所は自動販売機が並んでいる広場だ。スポーツドリンクばかり飲んでいたので、少しは違うものを飲みたいと思ったのか緑茶のボタンを押した。ちょうど傍にあったベンチに座っていると、さっき話題にされていた男がやってきた。彼女は1回見上げてから、すぐに目を逸らした。男は不満そうに、無視すんなよと言ってから少し離れて隣に座る。
「あいつらとテニスしなくていいのか?」
「疲れたから休憩してんの」
「ああそうかよ」
妃香琉はいつもとは違って冷たくそう言う。
それから無言になり、静かな時間が続く。
どこか遠くから、ボールがラケットに当たる音が聞こえてくる。ふと跡部が、中学生の代表に選ばれたと言い始めて立ち上がると、それを彼女がまた見上げて視界に入れた。
「それと、中学生メンバーのキャプテンとして率いることになってな。お前には1番に祝ってほしかったんだが……」
「オメデト」
「…ハッ、棒読みじゃねぇの!……邪魔したな」
長く話ができそうに無いと空気を読んだのか彼はそう言って、その場から姿を消した。何だったんだろ、と彼女から独り言が零れた。
そしていよいよ、オーストラリアへと旅立つ日がやってくる。
✻✻✻