生徒交換
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崖の上の猛特訓を終わらせて、負け組が帰ってきた。
「えーっと、真里亜ちゃん、やったけ?」
芝生の上に気持ち良さそうに寝転がっている真里亜に声をかけたのは、四天宝寺中のスピードスター忍足謙也。この合宿所に来てすぐぐらいから、4人の中で1番可愛いであろう真里亜が気になっていた。彼女が振り向いて、水色の長い髪が揺れる。
「あっ!誰かの従兄弟!」
「せっ、せや!侑士の従兄弟の、謙也!覚えとってくれたんか嬉しいわ~!」
「こんな所で何してるのー?」
何してるのと言われてもなぁ…、と彼は返事に少し困ったがそうや!とかなんとか閃いて、彼女の隣に座った。目の前のコートでは、越前が愛音に話かけていた。その手にはラケットとテニスボール。先輩強いの?と生意気にも尋ねた。愛音が越前の帽子のつばを掴んでグイッと下げてやれば、彼はうぐっと言って困っていた。帽子の天辺は破けており、髪の毛が少しはみ出てるのを見て彼女は薄く笑う。
「別に強くはない」
「ふーん?ちょっとだけ付き合ってよ。妃香琉先輩の変わりにっ」
「もっと他に言い方は無いのかよ…」
「だっていないじゃん」
「そうだけど」
リョーマの誘いに乗って、彼女は少し相手をすることになった。早速、彼はお決まりのツイストサーブを放つ。見慣れているせいか、あっさり返されてしまった。それからラリーが続き、特にコレといった技を持っていなくても、どんなボールにでも追いつける愛音の足の速さに驚かされる、左右に走らせても諦める様子はない。やるじゃんと言ってドライブBで反撃すると、そのボールは彼女の横を通り過ぎて行った。
「(何さっきの)…強いじゃん、リョーマ」
「そりゃどーもっ」
その様子を外で見ていた黒部コーチは、なにやら誰かと電話をしていた。その近くで一緒にリョーマ達を見ていた入江と徳川も、電話で何を話しているのか気になっている。コーチの話し方からして相手は女性のようだ。入江が、奥さんかな?と徳川に質問すると、独身だって言ってましたよと返す。何故知っているのだろうか。
「…娘さん含めみんな楽しそうに練習していますよ。…いえとんでもない、こちらこそ長々と失礼いたしました。美知子さんもご無理なさらず、では…」
「コーチ、誰と電話ですか?彼女?」
「そんなのではありませんが…とある方のお母さんです。昔のテニスサークルの仲間なんですよ、彼女達をみてふと思い出しましてね」
「テニスサークルか…」
「そして、元世界ランク2位のテニスプレーヤーでもあります」
「「元??」」
「いずれわかりますよ」
一方その頃。
その娘に該当する妃香琉がひとり黙々と壁打ちをしていた。メインコートから離れたそこは、ボールが壁に当たる音と、靴と地面が擦れる音だけが聞こえてくる。何を思ったのか、ラケットを握る手と壁にボールを当てる力が強くなる。苛立ちを含むようにバコンッ、と大きな音が鳴って、ボールはどこかへ転がっていく、それは誰かの靴にコテンと当たって止まった。
「随分苛立ってる感じだね、妃香琉」
「幸村…」
「なにかあったのかい?」
「んーん、なんでもないよ」
それは、立海大附属中の幸村精市だった。
ボールを拾い上げて、俺の相手をしてくれないかと彼女に問う。いいよ、という快諾の返事を聞いてから、彼は珍しく肩に羽織っていたジャージを脱いでポールの上に引っ掛けてからコートに入った。幸村が高くトスを上げて、サーブを放つ。ラリーの応酬が続く中、妃香琉は幸村とこうして打ち合うのはいつぶりだろうかと考える。病床に伏せていた彼はどこへ行ったのか、相変わらずの強さに関心する。心のどこかで、既に病気が完治しているのではないかと期待していた。
「相変わらず強いじゃん幸村!」
「妃香琉こそ全然腕はナマっていないよう…だね!」
「はあっ!」
「…っ!やはり、君のジャックナイフは手強い!」
ジャックナイフを繰り出すが、神の子に取って脅威ではなくあっさり返されてしまう。何度かラリーが続いたところで、幸村の返したボールがサイドのラインぎりぎりに落ちてラリーが終わりを迎える。逆を突かれたかぁ〜と、妃香琉が悪態をついてすると幸村が、彼女にこっちにおいでと手招きをしてネット際まで呼んだ。きょとんとする彼女に手を伸ばして、何かを正した。
「襟が乱れてたよ」
「…!、ありがとう。そういえば…」
「うん?」
「幸村はどうして、あたしの五感を奪わないの?」
「…。そうだね、強いて言えば、君の集中力が凄まじいから、かな?それに、女の子にそんなことしたら可哀想だろう?」
「えっ」
「フフッ。それじゃ、邪魔して悪かったね。俺はこれで失礼するよ」
妃香琉が質問をしてからきょとん顔をしていると幸村が続けてそう言って、ラケットを小脇に抱えてからまたジャージを羽織って妃香琉から離れていく。納得できたようなできなかったような不思議な気持ちのまま、彼女はそのまま再び黙々と壁打ちを始めた。1時間ぐらいして、彼女はメインコートに戻る。なにやら不穏そうな空気の中、高校生と中学生が一触即発といった事態になっていた。海外遠征組の皆さんお疲れ様でしたと、黒部コーチが言う。梓たちも、彼女に合流する。
「海外に遠征試合しに行ってた上位の高校生組が帰ってきたらしいわっ。あの金髪の人が高校生主将なんですって」
「ヘぇー」
「親戚のおじさんみたいな見た目だね〜」
その真里亜の空気の読めない台詞に、ふたりが一斉に彼女の口を手で塞いだ。聞こえたらどーするの!と妃香琉が耳打ちで彼女に言った。聞こえてはいなかったようだが、どこかへ移動する際にその金髪の高校生は4人に気づかれないよう、じーっと気にしていた。行き過ぎたところで、ふたりは安堵した表情を見せた。
「ほんと、思ったことなんでも口にしちゃうんだから。気をつけた方がいいわよ?」
「はぁ~い」
そして、明朝に日本代表をかけたシャッフルマッチが開催されることとなり、それまで自由な時間が出来た。男に囲まれた生活になるため、4人は余程の事がない限り部屋から出ないようにしていたが、妃香琉はある人の事が気になっていて人探しをしていた。ここにもいないと独り言を言いながらウロウロしていると、その探していた人が座って紅茶を飲みながらくつろぐ姿が見えて、ハッとして声をかけた。
「やっぱり…育斗くんだ」
「…?おやおやこれは、園城さんとこの妃香琉ちゃんではありませんか。こんなところでお目にかかるとは!」
眼鏡をかけた彼の名前は、君島育斗。
高校3年生で、U-17日本代表のNO.7。
実は雑誌の撮影等でお互い既に知り合いで、レストランのテレビでCMが流れていたのを見て、妃香琉はここにいると確信したんだとか何とか。事務所と契約満了を迎える前からしばらく会っていなかったようで、空いた席に座って世間話に花を咲かせていた。良かったら紅茶でも飲んでくださいと、紙コップにポットから紅茶を注いで妃香琉に差し出してくれた。
「ありがとうございますっ」
「マネージャーから聞きました、契約満了でお仕事は辞められたそうですね。まさかこんなところでまた再開できるとは、思っていなかったよ」
「いろいろあって、今氷帝学園に通ってて…この合宿も訳もなくついていくことになったんです。でもまさか、育斗くんが日本代表だとは思わなかった。モデルの仕事お休み中なんですか?」
「ええ。でも世界大会が終わったら、また再開しますよ。ファンの方々も待たせてますからね」
ダラダラと話を続けていたら、お腹空いたなーと真里亜が突然やってきた。彼女の姿を見つけると、妃香琉もおやつ食べに行こうよと、腕を引っ張っられるので仕方なく席を立ってついていく。また気が向いたら声かけてくださ~いという君島に手を振って、彼女はその場を後にした。
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