生徒交換
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U-17合宿参加まで、残り1週間。
今日で3年生はテニス部を引退するということで、いくつか試合が行われている。試合が終わった忍足と梓が、少しだけ距離を取ってベンチに座り、なにやら話をしている。珍しく、梓がため息をついたことに心配して忍足はどうしたんと声をかけた。
「そういや梓、最近妃香琉が元気ないとか言うとったけど…その後変化あったんか?」
「いいえ全く。この前も、撮影が入ったって言い訳考えて帰ってたけど…」
「なんや、アレ言い訳やったんか」
するとコートの方から、おおお!!と言う歓声が聞こえて、ふたり同時に顔を上げた。日吉と宍戸が試合をしていて、なにかが起きたようだった。そのなにかを見逃してしまった忍足が、しもたと落胆の声を発した。そこで、梓がそういえば…と言って何かを思い出したようだった。
「あの子についてるマネージャーが居るんだけど、今度結婚するらしいのよ」
「ありゃ」
「そのマネージャーのこと、気になってたみたいだから、そのせいかもしれないわね」
「恋する乙女は大変やなぁ…。結婚するってなると、相当ショックやろうな」
「でもまぁ、今月で事務所と契約満了らしいから、少しは元に戻ることを期待するしかないわね」
「合宿も始まるし、えい気分転換になるとえいな?」
そこへ、跡部がラケットを小脇にかかえてやってきた。忍足に、てめぇ暇してんならコート入れと、顎でコートを指した。さっき終わったばっかなんやけど〜とかなんとか文句を言いながら、跡部について行く忍足。
それと入れ違いで、噂をすればと妃香琉がやって来て、梓の横に座った。忍足となに話してたの?と聞けば、なにもないわよ、とはぐらかされた。なにか言ってくるかと思えば、そっか…の一言だけ。
「最近元気ないわね」
「そうかな…?」
「跡部から聞いた?来月合宿に参加するらしいわ」
「あれでしょ?テニスの世界大会。世界大会と言えば、やっぱりドイツのボルクプロだよね、1回でいいから試合してみたいな~、スイスのアマデウス選手も強いけど」
「妃香琉ちゃんなら、絶対言うと思ってたわ」
「あら、あさみちゃんじゃない」
「ふたりとも久しぶりね」
そこへ女テニの練習が始まる前の、橘あさみがやって来た。今日はとある女子校と練習試合をすると言って、良かったら見にこないかと誘いに来たらしい。
2人もよく知っている学校だと言うのでついていくと…
「…あっ!妃香琉先輩!」
「ほんとだ!梓様もいる~!」
ワイワイキャッキャと、乙女学園中のテニス部がゾロゾロと大型バスから降りてきて集まってきていた。これから、練習試合を行うらしい。妃香琉と梓の姿に気づいて、久しぶりに見る姿に喜んでいる。
そんな中、金髪の長めの髪をツインテールにした乙女学園中のメンバーが、なにやらコソコソと挙動不審な動きをしていた。群から離れてどこかへ向かっている、それを見つけた別のメンバーが声をかけた。
「梨花、もしかして愛音先輩探してる…?」
「どこか部室にでも居るんじゃない?そもそも、私達の目的は女子テニス部との練習試合だからねー?」
「わかってるわかってる~!けど、久しぶりに会えるんだし顔だけでも…。あのプレハブ怪しいっすね」
「あ!梨花!どこ行くのー!?」
金髪のツインテールの正体は、城崎梨花。
乙女学園中の2年生で、テニス部レギュラー。
彼女の祖父は、国内トップシェアを誇る製薬会社の会長を務めているいわばお金持ちである。愛音のことを大変尊敬しており、彼女のようになりたいと日々の努力を怠らない。しかし残念なことに、めんどくさい後輩、と思われているらしい。彼女は宍戸を見つけて早速声をかけた。
「すんませーん、そこの帽子の人!」
「……あ?俺か?」
「愛音先輩どこっすか?えっと、ポニーテールの人!」
「ああ、あいつならそこにいると思うけど……呼んでやるからちょっと待ってくれ」
「どもっス(ニコニコ)」
そう言い残すと、彼はさっそくドアをノックして声をかけた。いち早く反応したのは真里亜で、愛音のことを探している女の子がいると伝えた。すると真里亜は、なにか困る事でもあるのか咄嗟に見えない所に隠れてと愛音に促す。愛音も何かを察したのか、慌ててソファの裏に身を潜めた。ここにはいないと返事しろと催促するが、彼には疑問しか残らない。
「は?なんでだよ」
「ど、どうしてもだよ!ちょっとめんどくさ「愛音先輩、そこにいるのはわかってるんすよー!?」…すぐそこじゃん……!」
そう言って、真里亜が宍戸の手を引っ張って中に招き入れる。思わず鍵まで閉めてしまった。
「おわっ!おい引っ張んなよ!?」
「あの子に愛音を会わせちゃダメ!真里亜のだもん!」
「はあっ?」
「いやあんたのでもないわ。…でも、なんで梨花がここにいんだよ?」
「うちの女テニと練習試合らしいぜ」
「「………」」
仕方なく、愛音は鍵を開けて部室の外に出る。
するとあからさまに梨花は表情を明るくして彼女の名前を呼んだ。その様子を見た宍戸は、似たようなやつが俺の近くにもいるような…、と思った。
「やっぱり居たんじゃないっすか〜!いつ見てもかっこいいっすね~!」
「それ次言ったら泣かす」
「なんでっすか!ホントのこと言っただけなのに…!」
「コラ梨花!勝手に抜けて!もうストレッチからはじめてるよー!」
「ありゃーバレたかー」
「はやく帰れ(ゲシゲシ)」
「ちょっ!なんで蹴るんすか!?」
そこへ、妃香琉の妹である明日花が彼女を連れ戻しに来た。グイっと腕を掴んで引きずるように梨花を連れていく。それでも梨花はめげずに、試合見ててくださいね~!とかなんとか言いながら、手を振りながらその場から離れていく。
「あいつ、お前に惚れてんの?」
「ぶっ飛ばしていい?」
「ゴメン」
愛音はそんな彼女の姿を見て、ため息をついていた…。
そのあとは練習試合の様子をちょこちょこ見ながら、4人も練習に集中していく。氷帝学園も乙女学園も、女子テニス部はこの練習試合を最後に3年生が引退するらしい。氷帝学園の次期部長と、乙女学園の次期部長候補である明日花の試合が行われようとしている。
どちらかが2ゲーム取ればそこで終了という、至ってシンプルな内容であった。妃香琉ほどの強さはなくても、明日花はひとつひとつ得点を得ていく。ギリギリの所で勝利を掴んだ。
練習試合も終わり、乙女学園中テニス部の面々は大型バスに乗って氷帝学園を後にするのだが、4人が合宿に参加することになったと伝えると、一斉に声を出して驚いた。
「そんなぁー!また愛音先輩に会えない!悔しい!」
「でも、世界大会が観れるなんていいですね。どこへ行くんですか?」
「オーストラリアだって」
「いいなー、コアラ見放題」
「カンガルーもいるよ!」
「何しに行くのよあなた……」
いつもの如く的外れなことを言う真里亜。
その後バスは発車し、一気に氷帝学園は静まり返った。
最終下校時刻になった頃、跡部は呼んであった迎えを待つため正門へと向かう。スマホで時間を確認していると、1台の車とひとりの知らない男が妃香琉となにやら話をしていた。渡された紙袋の中身を確認してから、彼女は男に向かってぺこりと頭を下げていた。それからすぐして、男は車に乗ってその場を後にした。
その車が曲がり角を曲がったのを確認してから、妃香琉の名前を呼んだ。
「誰ださっきの」
「…!、あんたまだ居たの……。マネージャーだよ、モデルの仕事が契約満了で終わったから、荷物届けてもらったの」
「そうだったのか」
「あの人、結婚するんだって。なんだか寂しいな…」
俯いて妃香琉はそう言った。
その声は、どこかか細く聞こえる。
そんな彼女に近づいて、跡部は言う。
「そんな男のこと………早く忘れて、俺様のもんにでもなっとけよ」
「え………」
跡部の後ろから、1台のリムジンがやって来る。
夜のせいもあり、ヘッドライトの反射でよく見えなかったが、跡部の手がポン、と彼女の頭の上に優しく乗っかった。少しだけクシャッと髪を撫でたあとで、彼はなにも言わず、リムジンに乗って帰ってしまった。
驚いた表情のまま、ぽつんと取り残された妃香琉だけが、時間が止まったような感覚になっていた。
✻✻✻