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業務終了時刻から、あっという間に1時間が過ぎていた。ほぼ、夜に近い。ほんの30分前にそろそろ切り上げて家に帰ろうと思ったのに、次から次へと提出期限の迫った書類が出てきてしまって、今の時間に至る。周りを見渡すと、私以外の人は誰も残っていなかった。電気も少し薄暗い感じにされていた。
提出期限の早い順に整理して、早いものは家に持って帰って仕上げようと鞄にファイルを仕舞う。窓ガラスの鍵を閉め、事務所の電気も全部消して、エレベーターに乗り込んだ。エントランスに行く途中の階で、ピンポンとエレベーターが止まった。まだ誰か居るのかなと思っていたら、ひとりの男の子が乗って来た。
私も知ってる人、Tricksterの衣更真緒くんだった。
彼は私の顔を見て、あれっ、と反応する。
「マネージャー、お疲れ様です」
「お疲れ様。衣更くんまだ残ってたのー?いい加減にしないと体に悪いよ?SSも控えてるのに…」
「アハハ、ひとりでダンスレッスンしてたらこんな時間になっちゃって…。プロデューサーにも同じこと言われました」
頭を掻きながらそんなことを言う衣更くん。まったく……練習熱心なのはいいけど、まだ学生だし生徒会長でもあるんだからあまり無理はしないで欲しいんだけど。まあ私もこんな時間まで仕事してたし、人のこと言えないか…とかなんとか考えてたら、あっという間にエントランスについた。受付のところでタイムカードを押して外に出る。衣更くんは律儀に受付嬢の人にも挨拶をしていた。夏も通り過ぎた時期だから、この時間に半袖だと少し肌寒い。椅子にかけっぱなしにしてる上着、持ってくればよかったなー。
「お疲れ様でしたマネージャー。それじゃあ俺、学校に戻るんでここで」
「えぇっ!?まだなにかあるの?」
「あーいや。生徒会の書類、まとめたい物があって…(めちゃくちゃ心配してくれてる?)」
「明日にしなよ明日に……、どうせ学校の前通って帰るから送ってあげるよ。車乗って?」
「え?でもマネージャーも疲れてるし、暗いし…」
逆に心配されてしまったけど、帰るだけだからいいの、と言ってほぼ無理やりに衣更くんを助手席に乗せて車を走らせた。ここから夢ノ咲に行くだけなら車で10分ぐらいしかかからないし、何よりもう辺りも暗いから何かあったら心配だしと思った。信号待ちでチラリと横を見たら、衣更くんは外の景色を見ていて、ふと窓ガラス越しにきょとん顔の彼と目が合ってしまった。まずい、と思ってたら衣更くんが口を開く。
「マネージャー、顔疲れてる」
「そういう衣更くんこそ、目の下クマできてるじゃない」
「最近寝れなくて…」
「…、学校行くのやめよっか。家まで送ってあげるからもう帰ろっ」
「あーー!昨日は9時間寝ました!」
嘘つくの遅いよ~って言ったら、彼は軽く笑って誤魔化そうとしていた。この子絶対9時間も寝てないと思うんだよね、ていうか9時間は寝すぎなんじゃ…とか考えていたら学校について、正門の前で車を止めた。校舎を見たら生徒会室であろう部屋には、明かりが付いていた。衣更くんは学校での用事が終わったら寮には帰らず、久しぶりに家に帰るらしい。家までそんな遠くはないって言ってたから、しっかり者の衣更くんならそっちは心配なさそう。シートベルトを外してから助手席のドアを開けて降りようとする衣更くんが、これあげますと言って私に何かを差し出して来た。彼がくれたのは、赤い袋に入ったチョコレートのお菓子だった。
そして後の言葉に私は目を丸くした。
「マネージャー、また隣…乗ってもいい?」
「……、うん。また今度ねっ、お疲れ様」
「お疲れ様です、ありがとうございました」
ドアが閉まったところで、私はまた車を走らせる。バックミラーをチラッと見たら、車が見えなくなるのを待ってるのか、衣更くんはずっとこっちを見ていてよく見ると小さく手を振ってくれていた。ちょっと驚いたけど、また助手席に乗りたいって言ってた彼の表情を思い出して、なんだか可愛かったなと思ってしまった。
衣更くんがくれたチョコレートのお菓子は、少しだけ溶けてた。