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「……、あれ?試合全部終わった感じ?」
今年の中学男子テニス関東大会は、昨年の準優勝校である氷帝学園と青春学園の試合で幕が上がった。1ゲームだけ両者棄権により引き分けとなり、続けて行われたシングルス2は青学の天才不二周助の勝利で終わり、次はいよいよ部長対決、跡部景吾と手塚国光の試合。取材に訪れていた月刊プロテニスの記者井上は、他校の中学生や大学のコーチ、プロの世界からも偵察に人が来ていると口にする。一緒に取材に来ている後輩の芝も、カメラを持ったまま辺りを見渡して立海大附属中真田、柳、切原の3人に目を向けながら、井上がその近くにいた女の子の存在に気づいて驚きの表情を見せながら口を開いた。
「あの子は確か…。おい芝、あの髪の赤い女の子、誰だかわかるか?」
「女の子…?真田くんの横にいる子ですか?見かけない顔ですけど…」
「そうか、芝は初めてか。なら、一緒に声をかけに行こう」
「えぇっ、井上せんぱーい?」
そう言って、井上は観客席を上がって彼女達の元へ向うのを芝も後をついて行く。この間ぶりだねと真田に声をかけると、丁寧に挨拶をする真田、そして井上が気になっていたその女の子がそれに気づいて率先して声をかけてきた。その辺の女の子と比べれば背も高く、なかなかに可愛い顔立ちをしていてその手にはテニスバッグを持っていた。すれ違って行く人が何人か振り返って2度見する程である。
「あれっ、井上さん…?取材ですかー?」
「ああ、関東大会初戦から好カードだと聞いてね。そういう妃香琉ちゃんも偵察かい?」
「いえ。さっき試合終わったところで、たまたま通りかかっただけですよ~。そしたら真田見つけたんで」
「そうだったのか」
「井上先輩、彼女は?」
彼女もテニスプレイヤーだよと紹介する井上。
自分が持っている情報を、わかりやすく芝へ提供していく。話が進むにつれて芝の表情は驚きへと変わっていき、その場にいた切原も知らないことばかりだったようで誰よりも驚きの声を上げていたが、真田にうるさいぞ赤也と喝を入れられた。当の本人はそこまで凄くないですよと謙遜する。
「園城先輩ってそんな凄い人だったんすか、真田副部長」
「赤也は今が初対面だろう、園城は小学生のジュニア大会の頃からうちの幸村とは知り合いだったからな。その頃から3姉妹揃って有名人だ」
「乙女学園は昨年に続き全国優勝がかかっているし、なにより今の中学女子テニスで妃香琉ちゃん以上に強い選手は、ほぼ名前を聞くことが無い。姉のシェリーちゃんも、今はまだ高校1年生にも関わらず注目株だ。また関東大会決勝戦の時には取材、受けてくれるかい?」
「もちろんですよ、いつでも声かけてください」
そこで、試合が始まるからと井上と芝は階段を降りて青学側へと戻って行く。その背中を見届けながら、今度は柳が口を開いた。珍しく妃香琉がひとりだった為、他のメンバーはどうしたのかと気になっていたらしい。試合が終わったばかりで、どうやらコートでまだゆっくりしているんだとなんとか。中学女子テニスは、男子より大会の始まりが少し早く今は準々決勝にまで進んでいる。2週間後には関東大会決勝戦だ。
そして、これまでにない好カードという跡部と手塚の試合が始まった。昨年のジュニア選抜にも選ばれた経験のある跡部と、プロからも既に注目を浴びている手塚。妃香琉はまったく知らないその跡部という男がどんなテニスをするのか気になる一方、既に小学生のジュニア大会で知り合いその強さを知っている手塚を応援しようと少しだけ見学していくことにした。そういえば、と真田がふいに口を開く。
「園城、お前あの跡部の試合を見るのは初めてか?」
「あー…そうだね。ていうか初めて名前聞いた」
「園城でも知らないことがあるのか、いいデータが取れた」
「それ、どこで使うの?」
柳のその台詞に苦笑いで突っ込む妃香琉を他所に、跡部の派手なパフォーマンスが行われ応援に来ていた氷帝の女子生徒が黄色い声援を送り始めた。そこから40分、試合はどちらも1歩も譲らない展開。相手の弱点を見抜く跡部のインサイトに、手塚の強さの底を見せない圧倒的な力と、どちらが勝つのか全く予想出来ない。跡部の破滅への輪舞曲も回避し、あと1球で勝敗が決まるはずが、ついに古傷も相まってか手塚の肩が限界を迎える。もう試合は続行不可能だと思われた矢先、手塚が大丈夫だと思ったのか、再びラケットを持ってコートへ戻ろうとする。必死に大石や菊丸、不二が止めに入る様子を見て、いてもたってもいられなくなったのか妃香琉が階段をかけ降りて大声で彼に声援を送り始めた。
「手塚!絶対に、勝ってよねー!」
「……っ!、園城…」
「なぁおい、あれって…」
「ああ、乙女学園中の園城妃香琉だろ。中学女子テニスじゃ無敗らしいぜ」
「すげぇ、この試合観に来てたのか」
「…。宍戸さん、知ってますか?」
「いや、初めて聞く名前だな」
青学の平部員が言うその言葉を聞いていた氷帝の鳳が宍戸にそう尋ねるが、知らないと首を傾げる。忍足と向日も似たような反応をしていて、跡部にもその会話は何となく聞こえていた。彼もまた、知らない女だと表情を変えなかった。
のちに深く関わることも知らずに。
「勝って…。勝って、全国大会に行って!」
「……。俺に勝っといて負けんな」
妃香琉のその声援の後で、越前が手塚にそうベンチから伝える。手塚はラケットを握る手に力を込めて、俺は負けない、そう言ってコートへと戻って行った。そこから試合は再開され、妃香琉は階段を登って行く。するとちょうどそこへ彼女を探しに来ていた愛音がやって来て、ここに居たのかよと口を開いた。そして妃香琉は手を振りながらまたね~とその場を離れ、愛音を見かけない顔だなと、真田と柳は不思議そうにその背中を見つめていた。
「試合、最後まで見たかったんじゃないのか?」
「いいのいいの、逆に邪魔になっても困るし」
「…ふぅん」
その後は、ふたりも次の試合に向けて学園へと戻って行った。手塚は結局跡部に負けたが、青学が1年ルーキ越前リョーマのおかげもあり勝ち進んだと妃香琉達が知ったのは、その数日後である。
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