生徒交換
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
10月に入り、今日は体育祭本番。
準備期間を乗り越え、各組の応援合戦も気合いが入る。昼間にカンカンと照りつける太陽は、まだまだ熱さを感じさせてくる。体育祭の模様は、各教室に備えられてあるテレビでも中継を通して見ることが出来る。応援合戦というものをやってこなかった4人は、一緒に集まってその様子を中継で見ていた。
凄いね~と真里亜がとても関心していた。
「応援合戦って結構声張らないといけないから大変ね」
「うちらなんで応援合戦無いんだっけ」
「吹奏楽部が各組をイメージした応援曲演奏するからだよ、4曲あるから大変だ~て言ってた」
「ふーん 」
「テントがあっても暑いわよねえ」
午後からの競技は、残り4つ。
妃香琉、梓、真里亜は担当する競技が終わってしまったため暇になるが、愛音にはまだ大事な競技が、1つだけ残っている。愛音は頬杖をついてチラッと時計を見た。自分の出番までまだまだ時間はある。喉が乾いたと、自動販売機へ飲み物を買いに行こうと腰を上げた。珍しく、真里亜がついて行かなかった。
自動販売機で気に入って飲んでいる紅茶を見つけてボタンを押す。2口ぐらい飲んでから、3人のいるところへ帰ろうとしたら、後ろから声をかけられた。そこにいたのは、体育祭を見に来ていた時党家の次男、達也の姿が。高校2年生で軽音部に所属し、ギターボーカルを担当している。学校では人気者で、文化祭で知り合った他校の彼女がいるらしい。私立の名門男子校に通っている。
愛音が最後の競技、色別対抗リレーに出ることを知っていたため、気になって様子を見に来たとかなんとか。部活も終わったのか、背中には愛用しているギターケースがあった。自動販売機はグラウンドのすぐそばにある特別棟の1階にあるため、丸見えなのだ。
「帰って、邪魔」
「おいおい、お兄ちゃんにそんなこと言うなよー?せっかく応援に来たのにさぁ。ていうか、ひとりか?」
「飲み物買いに来ただけだし」
「なんだそっかー。真里亜ちゃんにも会えるかと思っ…いてて、おい!押すなって!」
「お願いだから帰って!恥ずかしいだろうが!ていうか彼女いるくせに真里亜が可哀想だろ!」
「わかったわかった!ごめんて!けどせっかくリレーのアンカーなんだから少しぐらい応援させろよな~、真里亜ちゃんは妹みたいで可愛いじゃん!」
「……?おい愛音、ひとりで何やってんだよ?」
「………あっ、宍戸」
そこにタイミングがよかったのか悪かったのか、同じ組の宍戸が現れた。兄の達也が、どうもこんにちは~とヘラヘラしながら声をかけた。宍戸は、誰だ?と不思議そうな顔をしている。
「ども、愛音の兄の達也です~。えっと、同じテニス部の?」
「宍戸亮です。おい愛音、お兄さん見に来てんだし、アンカー頑張れよっ!」
「もう走る気無くした」
「「お前はもう少し頑張れよ」」
だらしない素振りを見せる愛音にふたりが口を揃えてそう言った。愛音が、基本的に常にだるそうでやる気のない性格なのはどちらにもバレバレだったようだ。最後の競技がもう少しで始まるようで、指定の場所に集合するようにとアナウンスが流れ始める。あーめんどくさい、とぽつりと呟くが、ふたりに背中を押されて前を見る。
「そろそろ出番だとよ!お前足早いから、絶対1着取ってこいよ~!」
「そうだそうだ!お兄ちゃんここで見てるから頑張って来なさい!」
「あんたはお母さんか。……、行ってきます」
それだけ言って、ふたりに背中を向けてグラウンドへ向かった。彼女がいなくなったところで、宍戸が口を開こうとした時、兄の達也が、あいつ迷惑かけてないですかね?と聞いてきた。宍戸は逆に、どんなやつですかと聞き返す。
「迷惑かけてないならいいんですけど、あいつ基本的に猫の事しか考えてなくて。家でもずっと猫と遊んでるし」
「………猫?」
「猫っす……」
予想外すぎる返事に、宍戸は困惑するしかなかった。
そんな宍戸を他所に、リレーが始まった。
彼女は赤組のアンカーである。現在赤組は3位、バトンが繋がり、いよいよ出番がやってくる。前の人が帰ってきたところで、バトンを貰い勢いよく走り出した。そのバトンの受け取り方が綺麗だったのか、応援する側はみんな驚いていた。一切表情を変えず、クールなままで目の前を走り去って行く愛音がかっこよくて、女子も男子もワイワイ騒ぐ。最後のカーブを過ぎたところで、前にいた2人を一気に抜いて、見事1着でゴールを走り抜けた。その姿には、遠くから見ていた宍戸も凄く関心していた。
そこへ、ゾロゾロと他の3人がやってきた。彼女達も喉が乾いて自動販売機のところへやってきたようだ。妃香琉が何にする~?と言いながら、自動販売機の前に立った。
「すごいすごーい!1着だ!」
「さっすが、元陸上部。ビリだったのに追い上げ凄いね」
「あら?そこにいるのってお兄さんじゃ?」
「どうもっす!(真里亜ちゃんもいる…!いつ見ても可愛いなぁ~)みんな競技終わった系?」
「達也くんだ!午前中に全部終わっちゃったよ~!」
「そうなんだ。……あっやべ!もうこんな時間だ!愛音のことよろしくお願いしまーす、んじゃ!」
そう言って、達也はバタバタと帰って行った。それと入れ違いで走り終えた愛音が帰って来て、達也の遠くなっていく背中を見届けながら、嵐みたいだなとぽつりと呟いていた。
そして体育祭は、閉幕のときを迎える。
毎年氷帝の体育祭では、全ての競技を通してのMVPをひとり決めて表彰を行うのだが、リレーで凄まじい追い上げを見せた愛音が選ばれた。
そして昨年のリベンジに燃える赤組代表の向日だったが、あと一歩及ばず、今年も跡部率いる黒組が優勝したのであった。妃香琉はあまり嬉しそうではなかったし、隣にいた梓が、元気ないじゃない?と心配して声をかけていた。
「あまり楽しくなかった?」
「うーん、なんか疲れてて」
「準備の時からいろいろあったものね。明日から三連休になるみたいだし、家でゆっくりするといいわっ」
「そうだね」
いつも通り心配してくれるいつも通りの梓で、彼女はホッとした。体育祭が終わった帰り、真里亜と愛音、そして宍戸と向日が、なにやらハンバーガーショップへと入って行く。キョロキョロと物珍しそうに、真里亜は店内を見ていて、向日と宍戸がレジで注文をしている間に、すぐ近くのボックス席に座った。彼女はファストフード店に来るのは、実は人生で初めてなのだ。愛音が落ち着かないのか?と心配している。
「持ってきたぜー!」
「ほら、お前が言ってたハンバーガーだぞっ、愛音ほんとにポテトだけでいいのか?」
「晩御飯前は食べるなって言われてるからな」
「それ宍戸と一緒じゃん、お前愛音見習えよ」
「お前に言われたくねぇわ」
そんなふたりのやり取りには目を向けず、真里亜はガブリとハンバーガーにかぶりつくと、あまりの美味しさに、んんー!と悶絶状態。そんなに驚くことかと3人は思ったが、それにはちゃんとした理由があった。ポテトを1本ずつ食べる愛音が、頬杖をついて説明する。
「真里亜んとこのお母さんが管理栄養士の資格持ってるから、食事には細かいんだとよ。お弁当も作ってもらってるし」
「そっか、だからハンバーガーも初めて食うのか。おい真里亜、このポテトも食えよ、美味いぞ!」
「……!うん!美味しい!チーズ美味し~!」
「美味しそうに食べるなほんと」
1人だけ、小学生に戻ったような真里亜であった。
案の定、晩御飯があまり食べられず母親に軽く怒られたのは言うまでもない。
✻✻✻