第一章 俺の恋の話
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あの日から、別に手紙の相手に何かされたということはない。
いつものように学校に行って友達と話して、バイトの日はバイトに何もない日は出かけて絵を描くか美術館に足を運んだ。そんないつも通りの毎日を送っていた。
実際に会いに来たり、攻撃されることはなく。たまにポストに私宛の手紙が入っている。その内容のほとんどが「僕は君を見てる」や「君は僕のもの」なんて書かれている。それでも実被害がないからと何も考えないように努めて来た。
しかし、ある日それが崩れる出来事が起こってしまう。
『あれ…瀬名さん』
瀬名「四十崎さんだ…何してるの?」
『えっと…今日は美術館に行こうかなって』
ある日の休日、お気に入りのカフェに行ってブレンドを飲んでから美術館に行こうなんて計画をたてていると、見慣れた銀髪が座っていた。カフェでも話すようになったしかなり慣れて来た存在だったものだからつい声をかけてしまう。
すると、彼も慣れたように返事する。彼は立ち上がって一緒にレジへ行く、優しいなと思いながら今日の予定を話す。
瀬名「へぇ…それ俺もついていっていい?」
『え…いいですけど、お仕事は?』
瀬名「今日はオフ。家に居たくなくて、でも四十崎さんも今日はカフェ休みって言ってたからオススメされたここに居たってわけ」
『へぇ…オススメされて』
そう言いながら、注文したブレンドの入ったカップを受け取り美術館に向かって瀬名さんと歩き出す。コクリとカップを傾けるといい香りが口いっぱいに広がる。ふぅ、と息を吐いて瀬名さんとの会話を続ける。
『…瀬名さんって店選びのセンスいいですね』
瀬名「…あぁ、知り合いがコーヒーの美味しい店詳しくてそれでねぇ」
『…ほう…』
瀬名「四十崎さん、コーヒー好きなの?」
『はい、なので美味しい店があるならぜひ聞きたいですね』
瀬名「…一緒に行く?」
『はい!……へっ…』
あまりにスムーズなお誘いについ肯定してから戸惑う。瀬名さんは世に言うイケメンなわけで、何が良くてこんな芋女と話すのかと思っていたけど、まさか口説かれている…?意外と遊び人なのかなと思ってしまったが、それとは裏腹に瀬名さんもまさかOKをもらえると思っていなかったのか驚いた顔をする。
瀬名「いいの?」
『むしろ、いいんですか…?モデルさんがそんなことして』
瀬名「こっちなら大丈夫、だと思う。向こうだとダメだけどね」
『え…日本だと有名人…なんですか』
瀬名「さぁね」
そう言って瀬名さんは先を歩き始めてしまう。向こうでダメならこっちでもダメなのでは?と思いながらもつい瀬名さんの口車に乗せられている自分がいる。それに彼といるとすごく安心して手紙の相手のことはすっかり頭から切り離されてしまう。
瀬名さんがたまに振り返って「はやく」という、私も急いでついて行こうとするけどそれと同時に瀬名さんのスピードがだんだん遅くなって私と同じくらいの歩幅に調節されていくことに気づく。
瀬名「今日はなに見に行くの」
『モネって知ってます?睡蓮とかを描いた』
瀬名「知ってる。」
『私、モネが描く風景も好きなんですけど人を描くときの陰影のつけ方が好きなんです。今イベントで『庭園の女たち』って絵がフィレンツェに来ているらしいのでそれを見に行きたくて』
瀬名「へぇ〜モネって人書くんだ。風景のおまけくらいのしか見たことないかも」
『代表作の印象は強いですよね。それも個性ですからなんともですけど、ぜひ見てください。いいですよ、モネ』
瀬名「なんで人物を見に行こうと思ったの?」
『…え?』
瀬名「俺は四十崎さんも風景描く人だと思ってた」
『…そうですね、メインは確かに風景画です。でも…ほら
瀬名さんを描く約束をしたから』
そう言うと、瀬名さんは少し照れた顔で「じゃあいっぱい勉強しなよね」とまたスピードをあげて歩き始めてしまう。私は初めて見る瀬名さんの表情に衝撃を受けて固まってしまう。
あの人はどれだけ表情を持っているんだろう。モデル?俳優の間違いではないのか、なんでそんなに多くの表情をそんなにも美しく見せられるんだろう。魅せ方を知っているから…?違う、それだけ『瀬名泉』と言う人が魅力に溢れている証拠だ。
その瞬間、どこかでシャッターが押された気がした。
ーー結局、瀬名さんとおしゃべりをしながら美術館をまわって、一方的に絵画について熱く語っていたら日が暮れてまた瀬名さんに送ってもらった。
瀬名さんはきっとくだらなかっただろうに、と思いながら感謝を伝えると「面白かったからまた連れてってよ」と言ってくれた。そのまま「おやすみ」といつかのように夜の街へ消えていった。
ポストを開けると、一枚の封筒が入っていてそれを取り出す。宛名を見ると私宛で、裏返しても相手の名前は書かれていなかった。「あぁ…まただ」と先ほどまでの暖かい気持ちが一瞬にして冷めきってしまう。それを部屋まで持って帰り開封する。するとそこには今までにない量の写真が入っていた。
しかも、そこに写っていたのはーー
『なにこれ…瀬名さんの写真…』
全て顔を黒く塗りつぶされた瀬名さんの写真だった。バイト先のカフェで私と話しているときの写真や、瀬名さんが一人で歩いている写真、オフを過ごしているときの写真など、私が見たことあるものもあれば私の知らない瀬名さんがそこにいた。そして最後に写っていたのは今日一緒に出かけた写真だった。
私が瀬名さんを見つめていたところを撮られていた。なんでこれを?と思いながらその写真の裏面を見ると、おそらく瀬名さんの顔を塗りつぶしたであろうペンで
”君のこの顔は僕にしか見せないで”
”君を心から愛してるのは僕だけだ”
そう端的に書かれていた。私は、初めて自分以外の人に被害が出るのではないかという考えが脳内を駆け巡った。
もし、瀬名さんに何かあったらどうしよう。これが瀬名さんじゃなくて学校の友人やホームステイさせてもらってるこの家のパパやママだったら…考えただけで震えが止まらなくなった。自分だけなら、この手紙さえ我慢してれば…そんな考えが甘かった。もう瀬名さんには近づかないようにしよう。
そうすれば、きっと瀬名さんには危害がいかないはずだから。
瀬名さんに何かあったら…
第5話
『見えない相手に立ち向かう方法』
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