第一章 俺の恋の話
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私と瀬名さんは少し暗くなった道を二人並んで歩いていく。男女でこんな風に並んで歩くことがあまり経験としてなくて何を話せばいいのかとマゴマゴしていると瀬名さんが先に口を開く。
瀬名「れおくんと知り合いだったんだ」
『いえ、今日初めて会いました。偶然楽譜を拾って…』
拾って、というよりは飛んできたんだけどまぁ説明も難しいし省いて問題ない部分かな。
瀬名「ふ〜ん、それで一緒に作業してたの?」
『一緒に作業っていうよりは偶然隣同士になったって感じです。れおさんが霊感(インスピレーション)が湧いたきたって言い始めて、そのまま私も作業してました。悪い人じゃなさそうだし』
瀬名「さっきから気になったんだけどれおさん…?」
『あれ、月永レオさんっていうんじゃないんですか?』
瀬名「合ってるけどぉ…なんで名前呼びな訳?」
『えっと、れおさんが月永だと長いからって』
瀬名「…断ればいいじゃん」
『いや、実際長いので受け入れました』
瀬名「なんか…普段そんなサバサバしてるんだね」
『瀬名さんは、案外ねっとりしてますね』
瀬名「はぁ⁉︎誰がねっとりだってぇ⁉︎」
つい、思ったことが口から漏れ瀬名さんの目がキッと釣り上がる。私は慌ててまぁまぁと彼の肩を押す。
『いや、いつもその猫かぶってるっていうか…そんな感じがしたので、正直親しみやすいのでこっちの方が嬉しいです。』
瀬名「そう…」
正直に思ったことを伝えれば怒っていた顔がどこか嬉しそうな顔に変化してこちらも少し安堵する。事実、カフェに来る瀬名さんより今私の目の前にいる瀬名さんの方が親しみやすくて嫌いではない。
瀬名「そういえば、絵描くためにこっちにいるんだっけ」
『…というよりは、こっちで本物の絵画を見るためにきたってのが正直なとこなんですよね』
瀬名「へ〜…」
『興味ないですよね?』
瀬名「ううん、それで見てそれに感化されて自分で具現化できるのはすごいことだと思う」
『……』
瀬名「俺も本場の仕事を見たいって気持ちできたし、そこで実力でのし上がっていかないとって他の人の仕事を見るたびにモチベーションに繋がってる」
『…瀬名さんの仕事って…』
瀬名「…モデル」
『…へ』
驚いた。確かに綺麗な顔立ちに研ぎ澄まされてスタイルは、モデルと言われて頷ける。でもそんな人があんな静かなカフェの常連とかありえないなんて思っていたら、まさか当たりだなんて誰が思うことだろうか。
瀬名「なに?似合わない?」
『いえ…むしろ似合いすぎて驚いてます。』
瀬名「…そ、あんたも似合ってるよ『画家』ちゃん」
『…瀬名さんもそんな呼び方…』
瀬名「人間のモデルが必要になったらいいな。あんたなら特別にやってあげる」
そうやって、自信満々に笑う瀬名さんに苦笑いしてしまう。じゃあ今度は風景じゃなくて人物にしようかなって安易な思考を巡らせる。
『じゃあ、お願いします。』
瀬名「…家、どこ」
『あぁ、あそこです。』
瀬名「そう、これ俺の連絡先。あげるからいつでも連絡して」
『えっ、モデルさんがそんな簡単に連絡先を教えていいんですか?』
瀬名「…はぁ、さっきも言ったけど、ここでは店員と客でもモデルと一般人でもなくて知り合いだからいいでしょ」
『えっ…はい…』
瀬名さんが連絡先のメモされた紙を渡してくれて本当はいけないはずなのに流されてつい受け取ってしまう。家の前につくと瀬名さんは少しさみしい顔で「それにまだまだ売り出し中だから対して有名じゃないんだよ」と呟いて帰ろうとする。
私は、瀬名さんにそんな顔をしてほしくないと本能的に思ってまた言葉がでる。
瀬名「じゃあね、またお店で」
『待ってください!瀬名さん!そんな顔しないでください!私、芸能のことは疎いですけど…瀬名さんはきっと大丈夫です!すぐに有名になれます!自信持って歩く瀬名さん…私好きです!』
そう大声で叫ぶと、少し先を歩いた瀬名さんが振り返って笑う。
瀬名「じゃあ、俺がこれからも笑顔になれるように美味しいアメリカーノ入れてよねぇ」
『…はい、氷少なめで…いれてあげます』
瀬名「もうホットにするけどね」
そう笑った瀬名さんはまた振り返って歩き出し、街の中に消えていった。私は瀬名さんが消えていった場所を見ながらハッとして家の中に入る。持って出ていたキャンバスと画材を置いてスケッチブックを取り出して机につく。あの時の、あの笑った瀬名さんが頭に残ってそれを形にしないとと思った。
鉛筆が進んでいく。あの柔らかく閉じられた目が私の心を鷲掴みにした。好きとかそういうのとは違う、どちらかというと登山家が山を登る理由を聞かれて「そこに山があったから」というのと同じ感じ、そこに描きたいものがあったから描かないといけない。そう思った。
ただそれだけ。
ペンを進めていると、部屋がノックされママが入ってくる。
『どうしたの?ママ』
ママ「あなたに手紙よ。渡しておくわね」
『うん、ありがと』
ママは私宛の手紙を渡して、部屋から去っていく。私は一度鉛筆を持つ手を止めて手紙を開ける。しかし、それを開けた瞬間中身が重力したがってバサバサと音を立てて散らばっていく。
『なに…これ…』
そこに散らばったのはただの手紙ではなく、学校から帰る私…
カフェで仕事してる私…公園で絵を描いてる私…買い物にいってるものやジュースを飲んでるもの…私の私生活が映し出されている写真が散らばっていた。
封筒の中に残っていた紙を恐る恐る取り出し、開くとそこには見やすい綺麗な文字でこう書かれていたーー
”
僕の可愛い陽菜
君をずっと見守ってるよ
君と僕は一心同体だ。君を愛せるのは僕だけだ。
だからそこらへんの男にもう笑いかけないで
カフェの店員なんてやめて
僕とずっと一緒にいよう
必ず迎えにいくからね
”
そう書かれていた。
封筒の裏にも文章の最後にも差出人は書かれていなくて、相手が誰かはわからない。私の脳内には、『ストーカー』その一言が支配する。心当たりもない…どうしよう…誰に相談すればいい。
パパとママに迷惑をかけてしまうのは避けたい。友達にもこんな危ない相談することはできない。じゃあオーナー…?いやいや、それこそ巻き込むことになる。
私は先程までの楽しい状況から一変怖い想像が頭を支配していて頭を抱えることになってしまう。
第3話
『どうしよう…』
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