第二章 私の未練の話
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『泉さん…』
瀬名「え?」
『携帯、早く出してください』
私の負けです。これも惚れた弱みなのでしょうか…。好きだった人、好きになってはいけない人…それでも愛してしまった人。そんな人が自分をこんなに必死に求めてくれるなんてこれ以上の幸せはないじゃないですか。
付き合うことはなくても友達としてなら関係をもってもバチは当たらないでしょう。
だから、この電話帳に『瀬名泉』なんて綺麗な名前がまた追加されてもいいじゃないですか…。
『デートは泉さんの予定に合わせます。連絡もちゃんと取るので…会社にあんなに頻繁に来ないでください。泉さんの仕事をちゃんとしてください』
瀬名「うん…ごめんね」
『泉さんは忙しい人なんで…無理して私に会おうとしないでいいんですよ』
瀬名「…無理はしてないんだけどねぇ」
『本当なら私がお金払って会う立場なんですよ。泉さんは』
瀬名「あんたは身内チケットだからお金なんていらないよ」
『泉さん、私と泉さんは『友人』です。それ以上になることはもうないです』
瀬名「どうかなぁ…俺は結構あんたは絆されるタイプだと思ってるから」
泉さんはまた人を揶揄うような笑い方をして、「俺もシャワー浴びてくる」と洗面所に消えていった。私は少しぬるくなったココア片手にリビングをウロウロしてまわった。モノトーンな家具に少し緑がある。シンプルで必要以上のものを置かない感じがフィレンツェにいたころの彼の部屋にそっくりだ…泉さんの部屋だ。
匂いも変わってないし、雰囲気も変わらない。あれだけ売れてもそれを感じさせない自分らしさをキープしているのがまた彼らしい。
グレーのソファーに深く腰掛けてココアを飲み干す。
そして、先ほど交換した連絡先を改めて確認する。
『電話番号も…メールアドレスも…変えてなかったんだ…』
2年前の…私が泉さんの連絡先を消した時と変わらない。私はあれからメールアドレスも電話番号も…なんならSNSのアカウントの全てを作り替えたのに、貴方を忘れるために…
瀬名「当然でしょ、あんたが俺のこと思い出した時に連絡取れなくなるじゃん」
『はにゃあっ!』
瀬名「さっきからその独特な鳴き声なんなのぉ?」
シャワーを浴び終わった泉さんが少しラフな格好で戻ってきたことに気づかず、急に声をかけられて驚いてしまう。
泉さんはキッチンからお水を持ってきて私の横に座る。私は緊張からか警戒からか丸まって泉さんを睨む。
『泉さんは心臓に良くないです。』
瀬名「それで、デートの日なんだけどぉ」
『無視ですかっ⁉︎』
瀬名「なに?俺が心臓に悪いからってデートできませんって言いたいわけぇ?」
『そうは言ってないですけど』
ああ言えばこう言うというのは瀬名泉のためにできた言葉のように思えるほど、彼には言葉で勝てないと理解する。だからそれ以上は言わず泉さんの言葉の続きを待つとそれを理解してか泉さんは満足げに私の頭を撫でる。
瀬名「聞き分けのいい子は好きだよぉ♪」
『泉さんは有無を言わさないって言葉を知らないんですよね…』
瀬名「とにかく、デートだけど今週末は?」
『急ですねっ⁉︎』
瀬名「唯一のオフの日なんだよねぇ…来月はちょっと忙しくなるし…あ、7月1日でもいいけど」
『そ、その日にしましょう!』
流石に今週末は無理がある。着る服なんて……ってなに期待してるんだ私っ!違う違う!これは借りを返すためだから…そう、デートじゃなくてお供!御恩と奉公の関係です!
自分の勘違いを吹き飛ばすように頭を振った。
瀬名「じゃあその日にいつもの駅前で…ってなにしてんの?馬鹿になるよぉ」
『犬じゃないので、このくらいで馬鹿にはなりません』
瀬名「あっそ、あ…家に連絡しなよぉ?晩御飯くらい出してあげるから」
『いえ、洗濯が終わったら帰るので晩御飯には間に合います。』
瀬名「はぁ?俺の誘いを断るの?」
『泉さんって人付き合いがうまくできているのかが心配になります。紡さんやれおさんに迷惑かけてないですか?』
瀬名「喧嘩売ってるのはよくわかった」
『あだだだあだだ!ひどいです!』
泉さんは私の頭を鷲掴みする。意外とあった力に悲鳴をあげてしまうと、泉さんは笑って手を離した。
瀬名「連絡はしときな、別に閉じ込めて食おうなんて野蛮なこと考えたりしないからさぁ…」
『そんな人だとは…思っていません…』
瀬名「あっそ……はぁ…食べれないものはないよねぇ?」
『はい、大丈夫です…』
泉さんはキッチンに入って冷蔵庫と睨めっこを始めた。私は泉さんに言われた通り携帯を開いて実家に「友達の家で雨宿りするので晩御飯は大丈夫、今日中には帰ります」とメッセージを送って泉さんのお手伝いをするためにキッチンに向かった。
瀬名「へぇ〜お手伝いできるようになったなんて偉いじゃん」
『子供扱いしないでください...』
瀬名「俺からしたらあんたはクソガキだよ」
『私からしたら泉さんはストーカーです』
言い返したら泉さんは怒ったような顔して料理を続けた。自分でも自覚があったのかそれ以上言い返すことは無かった。
私は初めて泉さんに言い合いで勝てて少し嬉しかった。
それと、今も昔とかわらずに泉さんと会話できていることが嬉しかった。だんだんとあの頃に感じていた違和感を失ってしまうほどに
第九話
あなたは名の通り私の中に流れ込んでくる
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