第二章 私の未練の話
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あれから何度も瀬名さんを忘れるつもりで過ごした。それなのに…それなのに…
瀬名「ちょっとぉ…今日は遅いんじゃない?」
『…なんでいるんですか…瀬名さん』
瀬名「あんたを待ってあげてるんでしょ?」
『頼んでないんですけど…ていうか瀬名さんって暇なんですか?』
瀬名「毎日忙しくしてますけどぉ⁉︎」
そう毎日忙しくしてるはずの瀬名泉に毎日とは言わないが、定期的に会社の下で待ち伏せされて駅まで送ってもらうを繰り返している。こんなことはあってはいけないはずだ。会社でもバレていないのが不思議なくらいだ…っていうかこれはオープンなストーカーなのでは?と思いつつも、それに甘えている自分もいる。
だから、未練は増すばかりで…勘違いも起こして…忘れるなんてもっての外だった。
瀬名「あんたのところは基本残業がないみたいで安心したよぉ…決まった時間にくれば出てくるし」
『上司が残業嫌いでさっさと帰れって言うんです。先輩もキリのいいところで仕事増やさないので…』
瀬名「そう…いいところにあたってよかったねぇ」
そう言って瀬名さんは私の頭を撫でて微笑む。あぁ、綺麗だ…本当に映像で見ても生で見ても綺麗だと思う。
なんてサングラス越しに瀬名さんの目を見ているとポツッと顔に水滴が落ちてきたのを感じる。
『あっ…雨…』
瀬名「嘘…最悪なんだけど、陽菜傘持ってる?」
『今日晴れ予報で…傘置いてきちゃいました。会社にあるので、取ってきます…』
瀬名「…いや戻ったら結構あるし…あ〜、ついてきて」
『ちょっ…瀬名さん…!』
だんだんと強くなる雨の気配を察した瀬名さんに腕を引っ張られるがまま私も走った。それは駅とは逆方面で会社方面へ少し戻っている気がするが、どこか目的の場所があるのか瀬名さんは強くなった雨の中真っ直ぐに足を進めた。
……うん、安易についてきた私が間違っていた。少し考えればわかったはずだ。私だって、あの頃みたいな子供のままでもないんだから…。結局手を引かれるままついてきて、たどり着いたのは高層マンションでエントランスには監視カメラ、セキュリティの高いオートロックに…コンシェルジュがいるわ。私の住んでいる実家とは比べ物にならないほどのセキュリティに眩暈がしつつも手を引かれるままにエントランスを超えて、エレベーターに乗せられる。ふと、手を繋いだままなことに気づいてバッと手を離す。
瀬名「なに?今さらでしょ?」
『…えっと…状況が理解できてないのですが…ここは』
瀬名「俺の家」
『…瀬名さんの…?……⁉︎ダメです!』
瀬名「ここまできてなに言ってんのぉ⁉︎あんたビショビショだし、そのまま帰らせられるわけないでしょぉ⁉︎」
『私がビショビショより瀬名さんの家に入ることの方が問題なんですよ!』
瀬名「馬鹿言ってないで早く来て、今さら帰るとかチョ〜うざぁいからぁ」
到着したエレベーターから降りた瀬名さんはそのまま1階へ降りようとする私を無理やり降ろす。諦めて先を行く瀬名さんについていく、何部屋か超えた時瀬名さんが止まって鍵を取り出す。それを鍵穴に差し込んでドアを開ける。
あぁ、ここが瀬名さんの部屋なんだと理解する。そして、手を引かれるままに部屋の中に案内される。そして、洗面所に押し込まれる。
瀬名「シャワー浴びておいで、タオルとか出しておくから鍵は閉めないように」
『えっ…』
瀬名「服はネットに入れて洗濯機に入れておきな」
『いや、あの…っ』
戸惑う私の言葉を遮って瀬名さんは洗面所の扉を閉めた。私は呆然とそのしまった扉を眺めていたが、雨に濡れた体が悲鳴をあげるので瀬名さんの指示に従ってシャワーを借りることにした。
相当冷えてしまっていたのかシャワーはとても暖かくて気持ちよかった。お風呂場は整理整頓されていてなんとも瀬名さんらしいようにも思えた。置いてあるシャンプーとかが高そうだったので使わずに身体を洗い流してすぐに出ると言っていた通りタオルが置いてあってその隣に瀬名さんの部屋着らしきものが置いてあった。私の着てきた服はおそらくその回っている洗濯機の中に入ってもう水の中だ。
仕方なく部屋着を着て瀬名さんのいるであろうリビングに向かった。
瀬名「はぁ?早くない?ちゃんと洗ったのぉ?」
『高そうだったので…流すだけ…』
瀬名「はぁ⁉︎髪濡らしただけってあんた髪の毛大切にしてないわけぇ⁉︎」
『ひぃっ!』
瀬名「お風呂出たらボディクリーム塗れって昔から言ってるでしょ⁉︎」
『ぎゃぁっ!泉さんうるさいっ!』
つい漏れた昔の呼び方に「しまった」と思い瀬名さんを見ると嬉しそうにこちらを見ていた…。
その表情に驚いていると瀬名さんがホットココアをキッチンから持ってきてくれた。
瀬名「久しぶりに呼んでくれた」
『失礼しました…瀬名さん…』
瀬名「泉さんでいいよ。今さら」
『でも…』
瀬名「じゃあ俺の言う事二つ聞いてよ」
『えっ…なんでですか』
瀬名「助けてあげたんだから貸しでしょ?」
『助けてくれただけなら貸し一です。なんで二つ…』
瀬名「正確には迎えに行ってあげた、家にあげてあげた、シャワー貸してあげた、服を洗濯してあげた、今ココアを入れてあげた。5個貸し作ってんだから、それを2個にしてあげようって俺の優しさに気づかないわけぇ?」
『横暴の極みすぎて言葉を失いました。』
なんとも彼らしいといえば彼らしい横暴さに呆れて言葉を失った。まず、迎えに来て欲しいなんて言った覚えもないし、傘に関しては会社に取りに行くこともできた。つまりこの貸し全てが瀬名さんの自己判断なので貸し借りの話になるのはおかしいと思う…。けどそれを伝えればまた面倒なので特にツッコまないでおくことにする。
瀬名「俺の願いは二つ、連絡先の交換と助けたお礼に俺とデートしてほしい」
『なに言ってんだ、あんた…』
つい零れた本音が瀬名さんの耳に届いてしまい、鼻をつままれ「なんか言った?」と悪どい笑顔で見られて、体がカチンと固まった。
瀬名「あと、今まで通り呼んでよ。瀬名さんって呼ばれるとチョ〜うざぁい」
そう言って、私の鼻から手を離した瀬名さんは今度はさっきと打って変わって悲しそうに…どこか自嘲気味に笑った。その顔を見ると私の胸も苦しくなって私はカバンから携帯を取り出した。
第八話
『わかりました、私の負けです』
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