第二章 私の未練の話
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『Knights』御一行様が会社に現れてから数日が過ぎた。あれ以来、これといった変化はない。社内が唐突な芸能人の来訪にザワザワしていたのはその日だけ、誰かが来たらしいと騒がれていたのは3日間だけ…それ以上多くを語ることがないのはみんな大人っていう証拠だと思った。ましてや、現場に行けば実際に芸能人と関わるような人ばかりなわけだから来訪が珍しいだけで芸能人自体が珍しいと騒ぐ人はあまりいなかった印象を受ける。
一条先輩も『Knights』の話をしていたのはその日だけで、すぐに仕事の頭にシフトしていった。
なのに、私はというと
久しぶりに見た彼の顔が頭から離れなかった。その日だけじゃない数日経った今でも…
一条「四十崎〜、ここミスしてる」
『申し訳ありません!』
一条「最近、ミス増えてるなぁ…なんだ悩み事か?」
『…いえ、ごめんなさい』
一条「…いいよいいよ、話せないこともあるしな。言いたくなったらで…俺はいつでも相談に乗ってやるから」
『ありがとうございます…』
先輩は私の頭をいつものように豪快に撫でて自分の席へと帰っていった。私は先輩から返された資料に目を通す。資料において大切な部分が抜けている。凡ミスなんてレベルではない…誤字脱字の1個や2個ならまだしも内容が抜けているなんて、集中できていない証拠だ。
これは残業確定…かな…
落ち込みながらも自席に戻って黙々と作業を進めていく、いつもは残業しないように先輩も私も気をつけていた。部署によって上司の考え方は違うけれど私たちの所属する部署は残業否定派の上司で、チームリーダーもその思考だった。だから、基本的に残業しないようにと教えられてきた…けど今回は不可能だ。
一条「四十崎、今日終わりそうか?」
『えっと…さっきの資料の修正とリーダーから任された書類が…』
一条「結構あるな、リーダーのは俺やるから」
『いえ、資料の修正が問題で…書類の方は明日進めるために持ち帰ろうと思います』
一条「そっか、じゃあ比較的早く終わりそうだな。俺は帰るけど大丈夫そう?」
『はい!お疲れ様でした!』
一条「うい、お疲れ」
先輩は、そう言ってフロアから去っていった。他の先輩方も「お疲れ様」と声をかけて去っていく。周りの人間を見送ってしまえば私の周りはすっからかんになっていた。私はキリのいいところまで作業を進めた。時間がかかればかかるほど私の周りの人たちは帰っていってしまった。
…とりあえず、都合をつけて間食を求めてビルの下にあるコンビニを目指した。すると、すれ違った他部署の女性たちの話し声が聞こえる。
「下の待合にいた人、誰だろうね〜」
「すごくオーラは感じた!」
「マスクとサングラスしてて怪しかったけど服はオシャレだったし、芸能人かなぁ!」
「えぇ⁉︎声かければよかったかも…」
「えぇ〜⁉︎ビビってたくせに!」
なんてキャッキャと盛り上がっている様子をすれ違いざまに聞いてしまう。待合に誰かいるのか…怪しい人じゃなければいいのだけどサングラスにマスクって怪しいよねぁ…近づかないように気をつけないと…。しかし、待合はコンビニにいく通り道でどうしても避けることはできなかった。行く途中に確かにオシャレな服装にも関わらずマスクと帽子とサングラスというフル装備の人がいるのを目視してしまい、知らないふりをするようにコンビニまで駆け抜ける。
あそこまで怪しいとは思ってなかった。本当に芸能人か何か…?でもだとしたらこんな時間外にくるか?マネージャーもつけずに?いったい何者なんだろうか…。コンビニで飲み物とお菓子を買いながら先程の怪しい人物からどうやって避けるかを考える。
また駆け抜けるか?でも今度はさっきと違って怪しい人物の背中側ではなく正面側から行くことになる…。かといって出入り口はその隣を通り過ぎないと入ることのできない場所にある。なので、あの道を通らないという選択肢は存在しない。
もし、本当に怪しい人だったら…
えっと警備室かな…受付はもういないし…なんてもしものことを考えながらコンビニを後にする。
すると、怪しい人物は先程いた場所にはいなくて「ふぅ…」吐息が溢れる。きっと用件が終わったんだろう。それか私より先に警備の人が声をかけたに違いない。
安心して出入り口に向かえると思ったのも束の間、急に横から衝撃に襲われる。私はその衝撃に負けてよろめいてしまったが、相手が倒れそうなのを支えてくれる。
『いって…』
??「やっと見つけた」
『へっ…』
相手はそういうと私の腕を少し強い力で掴む。私は相手の顔を見ようと瞑った目をゆっくり開ける。そこにいたのは、先程の怪しい人物その人で、私は肩をびくりと揺らし離れようともがく。
『やっ!はな…離してっ!』
??「ちょっと!暴れないでよ!」
『…警備員を呼びますよ!』
??「あぁ!うるさいなぁ!本当にチョ〜うざぁい!大人しくできないのあんた!」
どこか聞き覚えのある声とセリフに暴れていた体が固まる。相手は、抵抗しないと分かったのか掴む力を弱めた。
『な…なんで…』
??「…なんでだと思う?」
『瀬名さん…』
そこにいたは、数日前に会った『Knights』の瀬名泉その人だった…。瀬名さんは正体を明かそうと帽子に手をかけるが、エレベーターホールから声が聞こえてついその手を押さえて非常階段に彼を連れ込む。バクバクいう心臓と混乱する頭を整理するために頭を抱えてしゃがみ込む。
瀬名さん?なんで…『Knights』のメンバーもいなければプロデューサーである紡さんが一緒というわけでもない。1人で…?なんのために…?さっき「見つけた」と言っていたから私に会いに…?いや、それは自意識過剰というものだ。だって、私と彼は別れたのだから…
じゃあ…なんのために…?
『……』
瀬名「ちょっとぉ、こんなところに連れてきてなんのつもり?」
『待ってください、今瀬名さんがなんの用事か考えているので』
瀬名「…はぁ?わからないの?」
『…あっ!例のプロジェクトのことですか?えっと、先輩もチームリーダーも既に帰られてて…私は下っ端なのでご説明できることなくてですね…』
第五話
瀬名「ばかか」
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