第二章 私の未練の話
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一条「まぁじで怖かった!」
そう言って『Knights』御一行を見送ったエレベーターのところでしゃがみ込む先輩を見て私は驚く。あんなに自然な感じで話してたんじゃん…なんて思ったけど、あの時の瀬名さんは確かに爽やかな笑顔とは裏腹に不機嫌のオーラを纏っていた。先輩もその圧に負けてしまったのだろう。
『先輩、なんで『Knights』相手って教えてくれなかったんですか』
一条「へ?俺言ってなかったか?」
『アイドル相手としか聞いてません』
一条「資料に書いてあっただろう」
『…知りません』
一条「お前の確認不足な」
『申し訳ありませんでした』
先輩に論破されてしまい、頭を下げると下げた頭をまた乱暴に撫でられる。この人はいつもそうだ…また言うんだろうな「いいよいいよ」と…
一条「いいよいいよ!お前のおかげで資料完成して会議が無事に終わったわけだしな」
『…先輩は本当に距離が近いと思います』
冷静に返すと先輩はギョッとして、撫でていたて引っ込める。
一条「わ…悪い。気をつけるわ」
『大丈夫ですよ。嫌ではないので』
一条「…お前…はぁ…あんまそういうの他のやつに言うなよ」
『?わかりました』
先輩は踵を返して会議室へと戻っていった。私はその背中を静かに追いかけた。先輩の指示に従って会議室の片付けをしていく、先輩は先程の会議の話を世間話のように私に教えてくれた。
一条「それでさ〜、会議なんだぜ?会議なのに、朔間さんずっと寝てるんだよ。俺すっごい気になってさ〜確かにアイドル本人が聞くようなもんじゃないし…いいんだけどさぁ!」
『朔間さんは寝る場所を選ばないそうですよ。よく現場でも寝てるって…』
一条「お前…詳しいんだな」
意外そうな顔した先輩の声に自分の失言に気づいて口を押さえる。…いつぞやの紡さん聞いた話や瀬名さんに聞いた話が出てきたしまったことに自分自身も驚いてしまう。
『すみません…えっと、姉が…好きなんです『Knights』それでよく事情っていうか聞かされてて…つい』
一条「そうだったのか!じゃあ自慢できるな今日!」
そういって誤魔化されてくれる先輩に一安心する。姉がファンなのは事実なので問題ないのだが、姉は朱桜くんのファンでよく興味のないふりをする私に嬉々として話をしてくれるのだが、言えるはずもなかった。姉の好きな朱桜くんのチームメイトである瀬名さんと恋人でしたなんて話は…
それは姉だけでなく先輩だってそうだ。他者にいうような話ではないのだから余計なことを言わないようにしなければ気をつけよう…と心に決めた瞬間だった。
片付けを終えて廊下を先輩と並んで歩いていると先輩は先程の話を続けた。
一条「今回のプロジェクト何か問題がありましたかってさりげなく聞いたら月永さんが「ただ興味惹かれたので本人たちが聞きに来ただけです」っていうんだけどさぁ…そのわりにちゃんと話聞いてたの瀬名さんだけなんだよな…おかしいよなこれ」
『…瀬名さんだけ』
先輩が言うにはれおさんは作曲していて、鳴上さんはメイクを直したり新商品の方に目がいっていて、朔間さんは寝てて、朱桜さんはれおさんを止めるのに必死で話を聞いていたのは瀬名さんと紡さんだけだったそうで、やりやすいようなやりにくいようなという不思議空間だったそうだ。
『改めて、お疲れ様でした。先輩』
一条「おう、サンキューな」
そんな話をしていると自分たちのフロアに到着して先輩は上司に報告に行ったので私は回収した資料や機材の片付けに集中することにした。
今回彼に…瀬名さんに出会えたのは神様の悪戯で今後一切起こることはないだろう。『Knights』がCMに起用されることは少なくないだろうけど、会社自体に来ることなんてないのだから…
それにしても瀬名さんは相変わらず綺麗だった。その真っ直ぐ見つめてくるアイスブルーが大好きで大嫌いだった。見透かすと言うよりは見抜かれそうで…いつも彼の前では正直な物言いをしなければと思ってしまう……だから先輩がいて本当によかった。もし2人きりで出会ってしまっていたら何を言われ何を返していたか、考えるだけで恐ろしい。
2年経った今でも画面越しで見るよりも実物は美しく綺麗に手入れされている…。まるで絵画…は言い過ぎかな…
でも、そう表現していいほど彼は変わらず綺麗なままだった…。
だから勘違いしてしまいそうになる。彼が変わっていないからこそ、もしかしたら彼はあの頃と同じように自分のことを思ってくれているのではないかと…それに加えてドラマのためとはいえ先輩との関係を気にされては…
そう思うことが未練のある証拠だ。ただただ、情けない…自分から別れを告げたくせに私は何も変わってない。区切りをつけられていない…。
きっと、別れなかったらこんなモヤモヤを2年も抱える必要はなかったはずなのに…
彼が別れをつげてくれれば悩む必要もなかったはずなのに…
彼が『アイドル』じゃなければ…
第三話
…なんて考えるだけ無駄なんて私が一番わかっている
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