第二章 私の未練の話
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ランチはいつも先輩と一緒に外食か、時間がなければ社食かおにぎりを片手にパソコンと睨めっこしていることが多い。
でも、今日みたいに上手くいった日にはカフェに入ってご褒美のコーヒーを飲むのが習慣化していた。
すると、隣の女性2人組が離しているのが耳に入ってくる。
「近くで『Knights』の撮影があったらしいよ」
「うそ!私ファンなんだよねぇ〜…見たかった!まだやってるかなあ」
「わかんないけど、行ってみようよ!」
嬉々として話している内容に少し胸がキュッと閉まる思いがした。あんな別れ方をした今でもその単語を聞くだけで胸が締め付けられる。その度に未練という名の呪いが私の中で強くなっていく、潔く諦めるつもりでいたのにそんなことはできなくて結局この2年『彼』をどうしても追ってしまう。
店を出ていく女性2人を見つめながら2人についていけばまた『彼』に会えるのではないかと考えてしまうのはさぞ愚かなことだろう。それを忘れるようにコーヒーを飲み干して私も店を出る。もちろん、会社に帰るために…
会社に帰ると、女性社員がザワザワしているのが目に見えてわかるほどだったので、近くにいた同僚に声をかける。
『これどうしたの?』
「一条先輩と会議してる人が美男美女って騒ぎになってて!私もきたばっかで相手はわからないんだけど!陽菜ちゃんの関わってるプロジェクトの人じゃない⁉︎」
『そういえば、先輩会議で…本人来るってアイドルって言ってたかな』
「それ!きっとそれだよ!誰がきてるんだろ!」
同僚はひどく興奮した様子で先輩社員の間をぬって前進していくのを私は苦笑いしながら見送る。そして、自席に戻るとパソコンのディスプレイに先輩から「会議が15時に終わる予定なのでその頃に会議室に来るように」とメモとその端に「警備員さんを呼んでおくように」とメモがあった。そんなに大物が来ているのかと思いつつ、内線で警備室に連絡をとる。
私は、15時まで時間が空くので先輩に出されていた課題を進めていく。まだ、学ぶことは多いが一条先輩は引き継ぎ書類や課題形式でやることをまとめてくださっているので先輩が不在でも自分のやることがわかって助かる。何度も聞けば先輩の手を止めることになってしまうし、先輩としてもこちらの方が都合が良いのだろう。
上司からも同僚たちの中では一番覚えが早いと褒められたほどである。だからこそ、先輩も大切な資料の作成を任せてくれたのではないか…なんて調子に乗りすぎか
15時になる少し前にそろそろと思って会議室に移動する。すると、さっきまで人だかりができていたはずなのに、それは一掃されていて綺麗な廊下が広がっていた。警備員の方に挨拶して先輩が出てくるのを待った。すると、会議が終わったのか暗かった部屋の明かりがついてドアが開く。一条先輩が顔をひょっこり出す。
『先輩!お疲れ様です!』
一条「おぉ…人いなくなったみたいだな」
『警備の方がなんとかしてくださったみたいです。』
一条「呼んでくれたんだな、さんきゅ」
『片付け、私でよかったんですか?』
一条「だってお前アイドル興味ないじゃん」
『そうですけど…ミーハーだったらどうするんですか』
一条「お前は真面目だからそんなのしないだろ」
信頼してもらっていることに喜べばいいのか、どういう感情でいればいいのかわからなくて「あはは…」と笑い流しながら先輩の進めるままに会議室に入る。あまり、見ない方がいいと思い視線を少し下に向けて一礼する。
『失礼します』
一条「すみません、彼女が後輩の四十崎陽菜です。このプロジェクトに携わっているので何かと会う機会があると思いますがよろしくお願いします
『月永さん』」
先輩の言葉にバッと下げた頭を上げるとそこにいたのは見たことある…というよりよく知った顔がいくつかあった。いや、ある意味見ない日はないほどの人たちが目の前に座っていた。
…『Knights』だ。それも1人や2人じゃなくて勢揃いでそこにいらっしゃった。
一条「四十崎、知ってると思うけど『Knights』の皆さんとプロデューサーの月永紡さんだ。」
紹介された紡さんはにこりと笑っていたけど…それよりも印象的だったのは驚いた顔……じゃなくて少し不機嫌そうに睨んでいる『瀬名さん』の顔だった…
『四十崎陽菜です……よ、よろしくお願いします』
一条「流石の四十崎も相手が『Knights』じゃ緊張するよな!じゃあ説明は以上なのでこの辺で大丈夫ですかね?」
紡「はい、大丈夫です。よろしくお願いしますね、一条さん」
紡さんは一条先輩にお礼を言って会議室から出るように『Knights』に声をかけると、皆さんゾロゾロと立ち上がって出口からでようとする。たった1人を除いて…
一条「瀬名さん?どうかされました?」
瀬名「…いえ、お二人はどういう関係なんですか?」
一条「えっ…四十崎とですか?先輩後輩ですけど…」
瀬名「…それにしては距離が近いなと思って…」
一条「あはは、俺が距離近いからかな…!かわいい後輩ですよ!」
瀬名「そうですか…」
なんで、そんなこと気にするんですか…。今の私はただの一般人と人気アイドルですよ。先輩とどんな関係かなんて知る必要がないじゃないですか…。
一条「なんでそんなことを?あっ…もしかして四十崎に一目惚れしちゃいました?」
『ちょっ…先輩…』
私が先輩を止めようとすると、瀬名さんは席を立ち上がって営業スマイルとも言える爽やかな笑顔でこちらを見た。
瀬名「残念。今度のドラマの参考にしようと思っただけです。」
一条「そうだったんですね、それは失礼しました。」
瀬名「いえ、変なこと聞いてこちらこそ失礼しました。それじゃあ…『四十崎さん』もこれからよろしくお願いします。」
『…っ、はい…』
久しぶりに聞いた彼の声は耳によく届いた。だからこそ、『四十崎さん』と言われたことに胸が苦しくなった。でも、それが当然だ…。もしここで彼が私の名前を呼べば先輩が違和感を感じてしまう。だって、瀬名さんと私の関係は一般人とアイドルなんだもの…。
これは偶然の再会であって必然ではないから、何かを期待することは許されることではないと自覚しなくてはいけない。
なのに、本能に正直な心は静かに悲しみと喜びを共存させていた。
第二話
これは神様の悪戯
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