第二章 私の未練の話
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朝起きたら、まず顔を洗って身なりを整える。
リビングにいって家族に挨拶して朝食をとる、時間になったら家を出る。
最寄り駅までは徒歩で行って、満員電車に乗り込んで決まった席が空いていれば座る。電車にガタゴト揺られて数駅進めば会社の最寄り駅に到着してまた歩く…
会社に入れば部署のフロアにエレベーターで移動する。
そんないつもの日常を今日も過ごす予定だった。
??「四十崎、おはよう」
『おはようございます!』
挨拶をしてくれたのは私の教育係である一条誠先輩、先輩は私と同じで専門を卒業した二つ上の先輩だ。
挨拶を返して下げた頭を上げると先輩は何やら難しそうな顔をしてこちらを見ていたので首をかしげる。
一条「今日新しいプロジェクトで起用する人にプロジェクトのコンセプトとかの説明があるんだけど、資料頼めるか?」
『…起用する人ってことはモデルさんとかですか?ご本人が?』
一条「いや、どっちかって言うとアイドルだな。」
『どっちにしろ、ご本人が来ることってあるんですね…資料作っておきます!この間先輩が説明してくださったプロジェクトですよね』
一条「それそれ、俺も本人が来るなんて初めてで驚いてるよ。本当に無理そうだったら前の説明で使った資料使うから無理はすんなよ」
『はい!あ…いつまでに作りましょう?今日ってことは結構急ぎですよね』
一条「そうなんだよ〜!俺、今から他の会議入ってて…俺も昨日本人が来るって聞いたからさぁ〜残業しようかと思ったんだけどさ。良い機会だからお前に任せようかなって、昼過ぎに会議の予定だから…13時までに完成で俺が確認するでいいかな」
『…先輩、今から会議なんですね…じゃあ質問があったら誰に聞けば…』
一条「主任に聞いてくれ。話はしてあるから」
『かしこまりました!』
元気よく返事をすれば一条先輩は頭を撫でて会議室へと消えていった。私は改めて自分の席に座り、先輩から説明を受けたときに渡された資料と睨めっこする。
それと同時に違うことに頭を巡らせる。初めて、先輩のお供としてとはいえチーム入りをしたプロジェクトのプロデューサーやマネージャーでもなくアイドル本人が説明を聞きにくる。そんなこと今まで聞いたこともない。何か気に触る部分があったのか…理由はわからないけどなんとなくチームの人たちがソワソワしている気もする。いったいどんな人が来るのだろう…
読み終えた資料をパソコンの隣に置いて資料の作成に取り掛かる。
資料を作る前には気にしていたアイドルのことなんて頭の片隅に追いやられるほどに作成に集中していった。
新人がご本人に説明するために使う資料の作成を任されることなんて滅多にない機会だから集中していたのもあるだろうし、本人が誰かなんて私からしたら大した内容ではないと思っている証拠のようにも今となっては思う。
結局資料の作成は時間がかかってしまい、先輩が会議から戻ってきても終わらず…自分のランチタイムを犠牲にしてそれは完成した。
それをおにぎり片手に違う会議の資料を作っている先輩に報告しようと席を立つ。
『一条先輩、資料完成しました』
一条「えっ…お前飯食ったの?」
『…食べました』
一条「いや、まだ休憩時間だし嘘だろ」
『心はお腹いっぱいです』
一条「気のせいだろ、あ〜確認するからお前一時間休憩な」
『…うっす…』
そう返すと、先輩は笑いながら「体育会系か」と私の頭を小突いた。なんだかそれが、『彼』と重なってそれを振り払うように頭をふった。
『子供扱いしないでください。二個しか違わないじゃないですか』
一条「二個“も“違うだろ?大体、俺はお前の教育係だから良いんだよ!俺は褒めて伸ばすタイプなの〜」
『なんですか。それ』
先輩の謎理論に苦笑いしながらもまた頭を撫でられるのを受け入れる。一条先輩は先輩というよりはお兄ちゃんという感じだ。いつも失敗してもカバーしてくれるし、上手くいくとこうやって頭を撫でて褒めてくれる。話し上手で聞き上手…上司に厳しいことを言われたらお菓子を持ってきて慰めてくれる。
今回だってそうだ、私が勝手に昼休みを返上したにも関わらず、それを怒らず、むしろ今から休憩をとれといってくれる。良い先輩にあたってラッキーだ…なんて自分でも思うし同僚にも言われる。
一条「とりあえず、資料はありがとうな!確認してオッケーだったらお前は昼休憩とること!」
『はい!お願いします!』
先輩は私が送った資料を開いて確認し始める。私はその様子を黙って見つめる。少しして先輩は資料から目を離して私を見る。真剣な表情だったからミスをしたのではないかと緊張が走る。が、どうやら勘違いだったようで先輩は笑顔になってまた私の頭を今度は乱暴に撫でた。
『先輩!ひどいですよ!髪の毛が!』
一条「上出来じゃん!内容もわかりやすい重要なところが抑えられてた!よくやった!」
『本当ですか…?』
一条「嘘つくわけないだろ!お前休憩な!」
先輩は私の背中を押して「会議までに戻ってこなくても良いからな〜」と私を外に追い出した。私は仕方なくトボトボとランチに向かうことにした。その道中で先輩から「片付けは手伝って☆」というメッセージとふざけた猫のスタンプが送られてきていてクスリと笑ってしまった。
この後、プロジェクトの相手方を何故確認しなかったのかと後悔することになるとも知らずに…
第一話
今日はどこでランチしようかな
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