第一章 俺の恋の話
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高校三年生になって…
いや、その表現が正しいのかはわからない。
今更だけどイタリアの教育制度は日本とは違うから、高校二年生とか三年生とか…そういう表現が正しいのかはよくわからない。
イタリアでは高校生は14歳〜19歳の時期で、最初の2年は一般教養を学び、次の3年間は専門的知識を伸ばしていくという、イタリアらしい自主性を大切にしている教育方針で、そういうところに憧れて単身イタリアへやって来た。
最初の1年は一般教養とイタリアの生活に慣れるためにそして次の1年から専門的な知識をつけるために勉強してきた。本当ならこの勉強があと2年続く…。
最初は高校の3年間をイタリアで過ごして、それで日本へ…と思っていたがあまりにこちらの生活が充実しすぎていた。優しいファミリーも同じ趣味の友人も美術品に囲まれた生活も…そして、彼と一緒の生活も…私には十分すぎるほど満たされるもので気づけばタイムリミットは1年に迫っていた。
友人「ね〜、陽菜!日本人は19歳になったら大学にいくんでしょ?陽菜はどうするの?」
『どうする…?う〜ん』
友人「もうさ!こっちに永住したら?イタリア好きでしょ?」
『え〜…流石に日本に帰るよ。家族がいるしねぇ』
友人「えぇ〜!ヤダヤダ!陽菜とずっと一緒にいたいよぉ!!」
私だって寂しいけど…高校を親にわがままを言ってこっちにきたから永住したいなんて言えないし、正直しようとは思っていない。
目の前の友人には申し訳ないが私は満足するまで芸術の世界を堪能すしたら日本で暮らすと最初から決めていたのだ。
友人「だって!こっちに彼氏もいるんでしょぉ⁉︎日本に帰ったらどうなるの⁉︎」
『…どう…するんだろ…』
泉さんは、1年後に日本に帰ることを予定している。所属しているユニットメンバーが全員卒業して本格始動するとかどうとか…ちなみに、泉さんは今勝負がどうのと言ってイラっとした顔をしたまま私の目の前を去っていった。絶賛帰国中だ。
今回はあくまで一時帰国中、でも1年後きっと…
『あ…そう言えば課題の絵途中だった…家に帰ったらやらないと…』
友人「ちょっと陽菜!私の話は無視しないでよ〜!」
『だってぇ…!』
そう言うと友人は呆れた顔をしてこちらに向けていた体を前に戻した。実は今授業中にも関わらず、友人は進路の話を後ろ向いてペラペラと話していた。怒られないのが不思議だがその辺が自由の国と言うか…何と言うか…
私はそんな友人を尻目に窓の外を見る。中学生の頃は教科書で見たあの憧れていた街並みが目の前に広がっていてその光景も3年目となれば見慣れた街並みに変化していた。
でもそれに飽きていないのもまた事実でもう少しここにいたいと思う自分と一年後にはここを離れなければと思っている自分がいる。
これといって具体的な将来の夢もなければ、目標があるわけでもない。
ただアバウトに自分は1年後ここを去って、日本で大学に進学して普通に社会人になるんだと思ってる。それが普通の人生でそんなもんだと思っている
それが普通の私の今後の人生設計だった。
だから、彼に将来の話をする日が来るなんて思っていなかった
瀬名「それで、将来どうするの?」
一時帰国していた泉さんがこっちに帰ってきたのは思った以上に早かった。帰って早々、仕事でバタバタしてたみたいだけどたまにバイト先に来てはいつものコーヒーを頼んで仕事に戻っていく、しかし今日は仕事が終わるまで待っていて有無を言わせず帰路を共にすることになった。そんな泉さんが、コーヒー片手に放った言葉がそれだった。
『どうする…というのは…』
瀬名「なにそんなに改まって…」
『だって、泉さんが将来の話なんて…』
瀬名「いつ帰るか聞いておこうと思って、せっかくだから帰るタイミング合わせてあげよっかなぁ〜って」
『泉さんは日本に帰るんですよね…その…『Knights』のために』
瀬名「…はぁ?『Knights』のためぇ?違う、俺のため」
『自分のため?』
瀬名「そう、俺は俺自身のために日本に帰る。」
『…そうなんですね…』
私は、泉さんみたいに自分に自信があるわけでもなければ大きな夢や目標があるわけでもない。ただ何となくで生きてきて好きなことを好きなだけやってこれからも大なり小なりそうやって生きていくものだと思ってる。だってみんなそうでしょ、大きな夢を持って前へ進むのもそれを叶えて好きなことを仕事にするも…普通の人にはできない。泉さんだからできること…泉さんみたいな人ができること…私にはできないから…
そんなネガティブな思考で泉さんの隣をトボトボと歩くと泉さんはこっちを見て不思議そうな顔をする。
瀬名「なぁに?そんなにショボくれてさぁ」
『泉さんは、すごいなぁって』
瀬名「…あんたは?どうするの」
『私は…春には日本に帰るつもりです。』
瀬名「そう、春ね。覚えておく、そのあとは大学に行くの?」
『…そうですね。日本にいる友達も大学に行くっていってたし…無難に経営とかに行って、勤められればいいかなって』
瀬名「…ふ〜ん」
泉さんは不満そうな顔で私の少し先を歩いた。私もそれに合わせて少しあとを歩く。すると、数歩先を歩いて泉さんが勢いよく振り向く。あまりの急展開に私は肩を揺らし足を止める。
瀬名「あんたは、それでいいの。無難に生きて、無難に仕事して、無難に老後を過ごして…そうやって死んでいく。
それで満足?それがあんたの幸せ?つまらない人生だねぇ…」
『私は…一般人なんで…そんなんで満足です』
瀬名「あんたの夢は何?あんたのやりたいことは?
誰でもできることをして一生を過ごすよりあんただけができることを見つけてそれをした方が幸せなんじゃないの」
『私だけにできること…』
私だけにできることなんて、何があるだろう。絵を描くことも、コーヒーを入れることも…誰でもできる。夢だって、やりたいことだって具体的なものは存在しない…。
泉さんは少し眉間にシワを寄せて腕を組んでから深いため息を吐く。
瀬名「俺はそんな無難な生き方オススメできない。多少なりとも人生の先輩だから言うけど、俺はあんたに後悔する人生を歩んでほしくない。
どんなことだっていいから自分がしたいと思うことに繋がる道をちゃんと考えて決めな。誰かと一緒だからとか、みんながこうだからじゃなくて、自分がこうしたいって思う道を自分の頭で考えな?」
『泉さんは…私と日本に帰りたくないんですか…?』
瀬名「そうは言ってないでしょ?ただ可愛い彼女には後悔してほしくないだけ」
『それは泉さんの…泉さんの考え方の押し付けです!私は…私は!』
瀬名「あっ…!ちょっと!陽菜!待ちなって!」
第15話
あなたの価値観と私の無知感
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