第一章 俺の恋の話
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泉さんと付き合い初めてかなりの月日が経過した。
学年は一つあがって、私は日本でいう高校三年生になった…。
付き合ってからの変化といえば、私の描いた絵が賞をとったりアルバイト先のお店が商売繁盛したり…
泉さんのお友達であるれおさんとよく芸術鑑賞をしたり、紡さんの関わった舞台を泉さんとふたりで鑑賞するようになった。
あと、泉さんはよくフィレンツェの雑誌に載るようになった。雑誌の片隅に彼の写真を見つけるようになった。もう、街を顔を隠さず歩くのは難しくなったかもしれない。たった1年だ、たった1年で彼は有名人とまではいかないにしてもまぁまぁ顔を知られている人間になってしまった。
…そして、この春学年が上がると同時に起こったのは別れだった。
何かとお世話になった月永紡さんはこの春に日本に帰って本格的に活動拠点を日本に移すそうだ。
紡さんには恋愛相談をしたり、音楽について教えてもらった。そして、芸能界に疎い私に色々教えてくれた。それに、泉さんにとって大切な人は私にとっても大切だ…。だから、この別れが実は悲しかったりする。
『うわああああん…紡さぁあああん!もう一年せめて居てくださいよぉ〜!ヤダァ〜!』
紡「…あはは、泣かないでよ〜…」
空港のゲートの前でもう荷物も預けてあとはゲートを潜るだけの紡さんを園児のように引き止める私、そしてそれを少し離れたところで見つめる泉さんとれおさん。
れおさんはこっちで仕事があるので少し残るそうだけど、基本れおさんは世界中を飛び回ってるのでここに居たり居なかったりで…、でも紡さんは約一年お世話になった人で…
紡さんは一度日本に帰って、またすぐ違う国で仕事をするらしい。
『私と一緒に日本に帰りましょ〜よぉおお…!うわあああん!』
瀬名「何あれ」
月永「お前の彼女がおれの嫁を引き止めてる」
瀬名「どうしてこうなったか聞いてるの」
月永「どうもおれらが思った以上に懐いてたみたいだ」
瀬名「…遺憾なんだけど」
月永「おれも別れを惜しむ暇がなさそうで正直遺憾」
瀬名「早く剥がしてよ」
月永「おれの仕事か?」
『びえええええん!紡さぁあああんやぁああだぁあああ』
紡「お〜よしよし、日本に帰ったらお姉さんが美味しいコーヒーのお店教えてあげるから〜」
『ヤダァあ!まだフィレンツェにも美味しい店ありますよぉ〜!』
紡「ん〜そうなんだけど〜…」
紡さんが困るのもわかる。それでも、せっかく仲良くなったのに離れ離れになってしまうのは悲しくてしょうがない。
紡「…ごめんね?向こうでも待っててくれる人がいるから…それに1年後に宝物を返してもらう約束をしたから」
『…っ…ぅ…たからもの…?』
紡「うん…大切な宝物なの」
『…また会えますか?』
紡「もちろん!日本で会おう!それにまたこっちにくるかもしれないし!」
『…約束…』
まるで子供のように紡さんにすがると紡さんは嫌な顔一つせず私に小指を出して笑う。私は鼻をスンスン鳴らしながらそれにしたがって紡さんの小指に自分の小指を絡める。
『ゆびきりげんまん…』
紡「嘘ついたら〜」
『…針千本の〜ます』
紡「ゆびきった♪」
離れた小指同士を見ていると隣に泉さんが並んで「よかったね」と頭を撫でられて、紡さんに「じゃあね」と笑う。私もそれに合わせて「また!」と声をかけると紡さんは優しく微笑んでかられおさんと並んでゲートの方へと去っていった。
瀬名「あんたがまさかあんなに女王様に懐いているとはねぇ…」
『あんなによくしてくれる人…好きにならないわけないじゃないですか』
瀬名「まぁ…、あいつは博愛主義者だから…」
『…だから、寂しいです…』
瀬名「俺の時もそのくらい悲しんでよねぇ…」
『…へっ…?何ですか?』
泉さんが何かをボソリと呟いた気がしたけれど、聞き返した私を無視して彼はゲートを背にして歩き始めてしまった。
別れは悲しいけれど、それぞれの道を歩む中で誰かと出会い別れを経験してしまうのは仕方ないことだと思う。それでも、それを惜しむことや喜ぶことは悪いことでは絶対ないはずだ。それがいつかまた出会った時の喜びに繋がるはずだから…。
私も来年にはきっと日本に帰るだろう…、まだその先のビジョンは見えていないけれど何となくやりたいことは考えている。それをどのように形にしていくのはこれからもっともっと考えて実現していこう。
それと、泉さんとの時間も…
『私が離れるときは…泣いてくださいね』
大切にしていこう。いつかくるかもしれない『別れ』の時をよかったねと笑い合えるように、お互い頑張ろうねと応援できるように…
私のちょっと先を歩く泉さんがついてこないことにしびれを切らしたのか振り向いて「はやく〜」と手を振る。私はそれに従うように小走りで駆け寄った。そんな私の手を泉さんはすくい取ってくれてその手があったかくて、彼がここにいるんだと実感させられた。
ーー紡さんから聞いた話。
彼、そしてれおさんと紡さんは日本で『アイドル』をしている。泉さんはキッズモデル出身で小さい頃から芸能界で生きている。日本では結構知られているけど、自分自身のために海外でトップモデルになるべく単身フィレンツェに身を置いている。
私には芸能界のことはよくわからない。けど、ただただすごいと思った。その自信も挑戦する心も…人にはわからない苦悩と葛藤があったことだろう。でも、彼はそれを愚痴ることもなくただひたむきに努力している。それを付き合っている間ただ見ていた、その努力は大きく実ってはいないけど着実に花を咲かせるため…蕾が膨らんでいる感覚はしている。それが実るのは今か…それとも1年後…まだまだ先かもしれない。
日本で名前が知られているといっても、海外に出れば日本なんて小さな島国だ。私はこの3年間それを思い知った、だからと言って絵画が嫌いになることはなかったし自分より実力のある友人を妬むことはなかった。そういうところは泉さんと何となく似ているところだと思う。
自分のレベルのが低いのは自分に実力がないから、周りが評価してくれないのはまだそれに見合う魅力が自分にないからだと自分を鼓舞し続けた…。だから、頑張ってこれた。同じような価値観を持っている泉さんがいたから、自分より優れたものを持っている泉さんがいたから…
泉さんがいたからーー。
私は新しい夢を見つけられました。
第14話
だから、その時が来たら…
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