第一章 俺の恋の話
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彼がだんまりを決め込んで何時間が経過しただろうか。正直、喉はカラカラでお腹も空いた…でもそれを言葉にすることはできない。
彼は静かにスケッチブックに筆を走らせる。たまに、こちらをスケッチブック越しにチラッと見てはまたそれに目を落とす。
鉛筆を何度削ったり濃さを変えたりしただろうか。
もう、数えることもできなくてただ遠い目をしてそれを見つめることしかできなかった。泉さんの前から消えたのはお昼前だったか…もう窓からの光は青色からオレンジに変わっている…。あぁ…、あの色…少し赤を混ぜたらきっとれおさんの髪色になるなぁ…なんて…
『えっ…』
余計なことを考えていると急に窓の外の色が変わる。それは先ほど考えていた色の人物でつい言葉がこぼれてしまい、マルコが私の視線の先をゆっくりと辿る。
マルコ「…なに」
『あっ…!いや綺麗な色の鳥が…!』
マルコ「…そう」
一瞬で窓かられおさんらしきものは居なくなってマルコも私の言い訳を聞き入れる。焦った…、今のは本当にれおさん?…助けを乞う心が見せた幻覚か…それとも…
『…マルコは…どうして風景を描くのが好きなの?』
時間稼ぎで、世間話を試みる。
マルコは顔をこちらに向けて綺麗に切られたシルバーブロンドを揺らして、綺麗なサファイヤの瞳を三日月に曲げた。楽しそうに口を開いた。
マルコ「僕は自分の世界を自分の手で彩りたいんだ。小さい頃からそうだった…けどいまだに完成は見えない。だから、ずっと他人とも関わらずスケッチブックに世界を描き続けた」
『じゃあ、そこにはマルコの世界が詰まってるんだね』
マルコ「…でも完成しない」
『……私も』
マルコ「え?」
『私も完成しないよ。自分の世界は永遠に完成しない』
マルコ「陽菜も?」
『…私がここに居たらマルコの世界は永遠に完成しないと思う…』
マルコ「……」
『マルコ…本当はこんなことが正しいとは思ってないでしょ?だって、さっきから筆の進みが悪い。…本当は悪いことってわかってるんだよね?』
そう諭すとマルコは瞳を海に沈めたように潤ませる。きっと、彼が一番わかっているんだと思う。これが間違っていること、これをして誰も救われないことを…
きっと彼が、マルコが一番わかっていたんだ
『マルコ…私はあなたの描く風景画が好きだよ。きっと、あんな素晴らしい絵を描ける貴方は素敵な人だと思う。
だから、こんなのはやめよう。お互いのためにならない…』
マルコ「陽菜…」
『…大丈夫、明日になったらいつも通りだよ。マルコ、うちのバイト先知ってるでしょ?よかったらコーヒー飲みにおいでよ。美味しいコーヒーを淹れてあげる』
マルコ「陽菜は僕を許すっていうの?」
『…許すも何も…マルコは友達を家に呼んだだけ』
マルコ「……君は」
『私は…マルコと恋人になれないけど友達にはなれる』
それは残酷であり、現実だ。だって私は…
彼を好きになってしまったから…。
『それくらいなら許してくれますよね…
泉さん』
瀬名「戸締りには気をつけなよねぇ…クソガキ」
そこには、怒りか嬉しさか顔を歪ませた泉さんが立っていた。その後ろから廊下を走ってくる音が聞こえてれおさんと、紡さんが現れる。泉さんはマルコに掴みかかり、紡さんが私の方へと走ってくる
紡「陽菜ちゃん!」
『紡…さん…?』
瀬名「…アンタが犯人でしょ…よくもまぁ…こんなことを…っ!」
『待って瀬名さん!もういいんです!もう!』
瀬名「…殴らないと気が済まない!許さないからぁ!」
『泉さん…!』
紡さんが私を縛り付けていた紐を外してくれて、私はマルコの胸ぐらを掴んだ泉さんに抱きつくようにしてそれを止める。
『やめて!やめて泉!やめてください!』
瀬名「……」
『マルコはただ世界を完成したかっただけなの!その考えに罪はない!やり方が違っただけ!…もうしないよ!』
瀬名「自分の世界くらい自分で完成させなよ!他人に迷惑かけるなっ!陽菜はあんたのせいで怖がって!無駄に時間を奪われた!本当は友達と遊んで…美味しいコーヒーを淹れて…綺麗な絵を見に行って絵を描いて!そうやって時間を過ごせたはずなのに!」
『泉…!お願い!お願い話を聞いて!』
瀬名「それをあんたが奪った!陽菜の時間を返してよ!」
マルコ「…っ…」
泉さんの強い力に私は御することもできずただ泉さんの怒りを聞くことしかできなかった。すると、黙っていたれおさんが二人の間に入って泉さんの振り上げた拳を受け止めた。
月永「セナ…離せ。もういいだろ?陽菜は無事なんだ」
瀬名「よくない!こいつ殴らないとまじで気が済まない!」
月永「それはお前が決めることじゃない、陽菜が決めることだ」
瀬名「でも…れおくん!」
月永「…それに今陽菜を泣かせてるのはコイツじゃなくてお前のように見えるけど」
そう言ったれおさんと目が合って自分が泣いている事に気がつく。目からこぼれ落ちる涙はさっきまでの状況が怖かったからか…それとも私の知らない泉さんが怖かったからか…今のぐちゃぐちゃの感情では理解することはできなかった。でも、れおさんにならってこちらを向いた泉さんはひどく悲しく辛そうに顔を歪めて、振り上げた手とマルコの胸ぐらから手を離す。
瀬名「もう二度と…こんな真似しないでよねぇ…」
マルコ「はい…」
瀬名「……」
『泉さんっ……っちょ…!』
泉さんは私の腕を引いてマルコの家から出て行こうとする。私はその力に逆らうこともできずに大人しく引っ張られていく。残されたマルコは呆然としていて、紡さんとれおさんは微笑んで見送っていた。
もう一度、前を向くと泉さんはまっすぐ前を見据えて歩いて行った。さっきまでは知らない男の人みたいな顔をしていた泉さんが私の知っている泉さんに戻っていて少し安心した。
第10話
『…泉さん、助けてくれてありがとうございます』
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