第一章 俺の恋の話
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ガリ…ガリ…
何かを削るような音…
サラサラ…
何かを紙に滑らせるような音…
どちらも聞き慣れた音のように思う。それは私がよく学校や休日に行なっているスケッチをしているときに聞く音に似ている。鉛筆を横に走らせる時と縦に走らせる時に聞こえる音にひどく似ている…。
そう思っていると、これが夢ではなく現実であると感じゆっくりと瞼を開く。眠っていたのか自分の体はひどく重たく、正しく動いていないと感じた。目を数度開閉してから頭を持ち上げる、そこに広がっていたのは椅子に座ったままロープで縛られた己の体とまるでそれを祀るように飾られた蝋燭たちだった。
まるで協会にあるイエス様の像のように、私の周りには華や蝋燭が飾られていた。その異様な光景に鳥肌が全身に伝わってくる。
『……っ……』
なんとかロープ外そうと、腕を動かしてもそれはビクともせず少し力が入ってしまい椅子ごとガタっと音を立てて動かしてしまう。
しまった、と思った時には時すでに遅く。目の前のドアがギィっと音を立てて開く。そこにいたのは…
『…マルコ…?』
そこには、同じ高校で同じく絵画の勉強をしているマルコという男の子だ。マルコはあまり目立つ人じゃなくて、教室の隅でいつもスケッチブックと向き合っているような男の子だ。あまり話したことはなく、話したのは一度だけ…
マルコ「君は本当に綺麗な絵を描くね」
…そう声をかけたのは、一年生の終わり。今から半年くらい前のことだった。そういったのは私、彼の描く風景画を学校の掲示板で見た時にその感想をただ伝えたくて話したこともない彼にその一言を私が伝えた。本当にそれだけの関係だった。それ以降話すこともなければ彼から話しかけられることもなかった。
マルコ「僕も、ずっと見てたよ。君の絵はとても綺麗だ…、そしてそれを描く君自身もとても…とても綺麗だ」
マルコは開けたドアをゆっくりと後ろ手に閉めて、ゆっくりとこちらに歩き始める。その度にギィギィと床が軋む。
マルコ「ずっと見てたんだよ。君のことを、大好きだった…。いいや、愛してるんだ。
でも、君は変わった。あの男が現れて変わってしまった。
その顔は僕が…僕だけが見れる顔なのに!!」
『きゃあっ!』
マルコ「君は風景画だけを描けばいい!君に人物画なんて似合わない!君は…君にアイツは似合わないんだよ!!」
マルコは声を荒げて私の方にペンや画材を投げる。私はそれを避けることもできずただ体に物が当たるのを受け入れることしかできなかった。彼のその感情は私には理解できないものの、ただ怒りを彼から感じ取ることだけはできた。
『……なんでこんな…誘拐なんて』
マルコ「誘拐?違うよ?ここは僕と君の家。君は帰ってきたんだよ」
『…帰ってきた…?私の家はここじゃない』
マルコ「僕が家だっていったら家なんだよ!」
『…っ!…やだ、やめて!』
彼は私のところまで近寄って髪の毛を掴み顔を合わせる。血走った目が私を捉える。ただ怖くて「ぁ…ぁ…」と声が溢れる。
マルコ「君は綺麗だったのに、あの男が近づいてきたあたりからその綺麗さが失われていく。僕はそれが怖い!君は綺麗なままでいてほしい。その綺麗なまま綺麗な絵を描いていてほしい…僕と一緒に…」
『私が誰と一緒にいようと貴方には関係ない…』
マルコ「ある!君は…僕のだ…」
『私は…モノじゃない…』
マルコ「僕と君は相思相愛だったじゃないか!君も僕も…!」
『私は…貴方の描く絵が好きで…それで…』
私は言い淀む。私が好きなのはマルコの描く絵だ、彼じゃない。なのに彼は何を勘違いしたのか私が彼を好きなことになっている。とんだ勘違いだ…でも、それを否定したらきっと彼は逆上して何をするかはわからない。
マルコ「君は…僕のことが嫌いなのか?」
『嫌いとか好きとか…そういうものじゃない…』
マルコ「じゃあ…なに?」
彼の「なに?」という声は私の体を凍りつかせた。その声はまるで地を這うように低く、私の動きをとめるには十分だった。あぁ何をいっても無駄なんだ。彼は彼の世界を生きていて、私の言葉など受け付けていないんだ。
私はただ、この薄暗い部屋から誰かが救い出してくれるのを祈ることしかできなかった。
誰か、助けてくださいーー
泉さん…
*瀬名said
急いで家に帰れば、れおくんと紡が待っていた。本当は二人してオペラの鑑賞会にいくはずだった今日の予定をきっとキャンセルしてここにいる二人に申し訳ない反面、嬉しく思う自分がいる。
月永「セナ!『画家』ちゃんはどうしたんだ!」
瀬名「俺が少し目を離した間にいなくなって…周りを探し回ったんだけど見つからなくて…俺の…俺のせいで…」
月永「…セナ…落ち着け!お前のせいじゃない!」
俺は彷徨わせた視線をれおくんに向ける、そしてれおくんは俺の肩を掴んで目を合わせる。その目は俺を安心させるように暖かく何か確信を秘めたような顔をしていた。
月永「あの子がいる場所に目星はついてる。どうする、向かうか?かなり危険だと思うからおすすめはできない」
瀬名「…アイツの…陽菜のいる場所がわかるのっ⁉︎どこ…!教えてよれおくん!」
月永「だから!危ないんだってば!」
瀬名「それでも俺は行く!あの子は俺を信じて危ないこっちに出てきてくれたのに、俺が守ってあげないといけないのに…!」
月永「…本当に行くのか?」
瀬名「行くよ、だから教えてれおくん」
れおくんは掴んでいた俺の肩から手を離して黙って見ていた紡の方を見る。紡は飲んでいたコーヒーを机に置いてゆっくり立ち上がって俺を見る。
紡「…プロデューサーとしては泉に行ってほしくない。」
少し前の俺なら、彼女の「行ってほしくない」を聞いていただろうし胸が高鳴ったかもしれない…。けど、今俺の中で響いているのは陽菜の助けを呼ぶ声だから、彼女のいうことを聞くことはできなかった。
瀬名「あんたは今『Knights』のプロデューサーじゃないでしょ」
紡「…痛いとこをつくね、泉は意地悪だ」
瀬名「意地悪でもなんでもいいよ。今のあんたは俺の大事な『友達』だ、あんたは友達が困ってると助けずにはいられないバカなお人好しさんだからねぇ…」
紡「……泉はそんなお人好しをずっと守ってくれた立派な騎士様だもんね」
瀬名「そう、俺は騎士だから…自分のお姫様を助けにいかないと胸張って前に歩けなくなるでしょぉ?」
紡「…うん、そうだね。泉…四十崎さんを助けに行こう」
そう行って、紡は覚悟を決めた顔で玄関に向かって歩き出す。そのあとにれおくんも続く。俺はそれを静止する
瀬名「待ちなよぉ!あんたらがついてくる必要なんて」
月永「セナ〜?お前、紡のことわかってるようでわかってないのか?あはは☆」
紡「私は、友達が困ってると助けずにはいられないバカなお人好しなんでしょ?じゃあ友達に協力するのも友達を助けに行くのも当然するに決まってるでしょ?」
瀬名「…だからって危険なんでしょ?あんたがついてくる必要は…」
紡「…大丈夫だよ。泉、私には最高の騎士様がついてるから」
月永「暴れるぞ〜☆あはは!霊感(インスピレーション)が湧いてきそう!」
そう言って肩を回すれおくんと一緒に紡は玄関から出ていってしまう。俺は嬉しいため息をこぼしてそのあとを追いかける。
第9話
瀬名「ほんとお人好しだよねぇ…昔から」
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