第一章 俺の恋の話
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あの手紙以来、男性と関わることは極端に避けている。
男友達は比較的多い方ではないのが幸いして怪しまれることはなかったが、きっと今一番親しい男性とも言える瀬名さんは気づいていることだろう。それでも、もしモデルである瀬名さんが私のせいで襲われでもしたら大変なことだと思った。
なのに、なのにどうしてーー?
『瀬名さん…』
瀬名「四十崎さん…ごめんね、出待ちみたいなことして」
『…あはは、不思議ですね。きっと私が出待ちする側なのに…』
瀬名「…あの、さ。どうして最近俺のこと避けてるわけ?」
心がズシンと重くなるのを感じた。あぁ、避けてるってやっぱ感じるよね。申し訳ないことをした、それでも瀬名さんを守るためだからと自分を律して冷静に話し出す。ストーカーのことは言わずに、とにかくオブラートを探し出して包んで伝える。
『ほら、瀬名さんはあくまでモデルじゃないですか。私はただのカフェ店員で…だからこうやって会ったりするのはよくないかなって…。』
瀬名「あくまでじゃなくて正真正銘のモデル」
『だから、芸能人と一般人ってそんな近くにいるのもおかしいじゃないですか!だからお客様と店員に戻りましょう!』
瀬名「…無理」
『…え』
瀬名「もう、ただの店員と客には戻れない」
『で…ですよね。じゃああの私お店を…』
彼の『無理』のひとことが心に深く刺さり、言葉を紡げなくなってしまう。ダメなんだ、もういつも通りとはいかないんだと感じる。じゃあ私がここを去らないと瀬名さんの生活から離れていかないと…と考えていると瀬名さんが私の腕を掴み自分の方に引き寄せる。勢い余って鍛えられているであろう瀬名さんの胸板に顔をぶつけてしまう。吐息の含まれた瀬名さんの声が私の耳元に響く
瀬名「もう、四十崎さんと俺は友達。だから相談でも乗るし、くだらない世間話も大歓迎…。美術館にも一緒に行きたいし、美味しいコーヒーのお店一緒に行くって約束忘れたのぉ?」
『……』
瀬名「俺はさ、懐にいれた人間にはとことん甘いの。でもその代わり、嫌って言っても逃してやんないから」
『…瀬名さん…』
瀬名「泉」
『…泉さん…?』
瀬名「そうそう、よくできました」
そう言って私の頭を子供を落ち着かせるようなゆったりとした撫で方で触れる。それがあったかくて目に水が湧いてくる。
瀬名「…何かあったんでしょ?俺に相談してごらん」
『でも、泉さんにご迷惑をかけてしまいます…』
瀬名「大丈夫、俺は『Knights』だから絶対に守ってあげるよ。お姫様」
『…『Knights』……?』
瀬名「なんでもない。気にしないで」
泉さんは少し切なそうに微笑んで私を自分から離す。そのまま少し見つめあってから泉さんは「悩み事、俺には言えない…?」と悲しそうな顔をしたまま話を進める。それが心苦しくて…言葉がこぼれ落ちる。
『泉さんと話すのは楽しいです。一緒にお出かけするのも楽しかったですし、よければ美味しいコーヒーのお店ご一緒させてください。でも…少し…少しだけ…今は一緒に出かけるわけには行きません…』
瀬名「どうして?」
『それは…言えません…』
合わせていた目を逸らすと、泉さんは「そう…」と返事する。せめて、この問題が解決するまでは近くにいてはいけない。泉さんにもしものことがあったら、私はきっと後悔しちゃうから…この問題を解決できたらまた一緒にお出かけして…お話ししたりできたらいいな…なんて考えていると泉さんが急に私の手を取って歩き出す。
『ま…待ってください!今、泉さんと一緒にいるのはダメです!』
瀬名「理由を知らないから、俺がそれに従う必要ってないよねぇ!」
『泉さん!本当に!これは泉さんのためなんです!』
瀬名「それが俺のためかどうかは俺が決めること!ほら、暗くなるから帰るよぉ」
『…そんな!瀬名さん!』
つい呼び慣れた呼び方で呼ぶと急に振り返って「今度から瀬名さんって呼んだら返事しないから」と意地悪に笑った。その顔に私はずっと気持ち悪く胸に刺さった棘を取り払われた気がした。問題はまだ解決していないけど、泉さんが近くにいてくれる。その事実が私を強くしてくれた気がした。
『泉さん…私、頑張りますから…だから、この悩みがなくなったらモデル…してください』
瀬名「…当然でしょ…困ったらいつでも頼りなよぉ…力になってあげるから」
先を歩く彼が握った手をまた一段と強く握った。少し強い力に痛みを感じながらも、その痛みが私と泉さんがここにいることを証明してくれている気がした。
この感情をどう表していいかわからないけど、それでも前を歩く彼との時間をもっと過ごしたいと思う自分がいることを確かに感じながら、彼に手を引かれるままに前へ進んでいった。
*……said
どうして、彼女はわかってくれないのだろうか。
僕の愛を、ずっと君を見守っていたのに…
こんなに君を愛しているのに。
なのに、君は僕じゃない人と関わって嬉しそうな顔をする。
女友達も、先生も、カフェの店員たちも客も…君が幸せそうな顔をする先にいる人間が憎いとも思う。
それだけでも、嫌だったのに……君を大きく変える人物が現れる。
最近知り合った瀬名泉、という男。君に近く全ての人間のことを調べてたから例外なく彼も調べた…、そしてモデルをしていると知った。小綺麗な格好に整った顔…自信満々に前をみて道を進んでいく、僕にはないものを多く持った男。
彼と知り合ってから君は変わった。笑い方が一段と綺麗になった、風景画を描いてた君が人物画を勉強するようになった…それと彼を見る目に愛おしさが滲んでいる。
その目は僕に向くはずだったのに。
あいつのせいで僕の大事な彼女が汚されていく。
なんで、どうして、どうすれば……
どうすれば、美しい君を手に入れられる。
第7話
君が見るのは僕だけでいい
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