第一章 スカビオサ
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*零said
天崎美羽子という女の子は『天使様』という言葉に相応しい女の子だと思う。
演技に真っ直ぐ向き合う瞳、役柄に合わせて清楚に切り揃えられた髪の毛、女性らしいラインの輪郭、低くも高くもない鼻筋、愛らしいピンク色の唇、その全てがこの脚本のヒロインそのものであり、美羽子ちゃん自身を『天使様』たらしめる要素だった。
最初は、かわいい子がおるもんじゃなんて思っていたが、彼女を知るたびに心惹かれた。
『零さん、聞いてますか?』
零「おや、なんじゃ…」
『だから、ここのシーン。監督にお願いしてリテイクしたいんです。どうもこの後のシーンと演技が合わなくて…』
零「大丈夫じゃよ、お互い納得できる演技の方が良かろう。我輩からもお願いしよう」
『ありがとうございます!』
ほら、こういうところじゃ。普通の人なら監督がOKを出したら大丈夫と安心するのに、この子は一生懸命に役と向き合っている。演技するときは目の前にこの子ではなくヒロイン自身が立っているようなそんな気持ちになる程だ。
そして、演技が終われば彼女が帰ってくる。なんとなく、二重人格の人と話しているようでそれもまた面白い。危ないのう…うっかり心を奪われてしまそうじゃ…。
『零さん!オッケーもらっちゃいました!撮り直しましょう!一刻も早く!』
いや、どうやら手遅れみたいじゃな。我輩が…まさかこんなに真っ白な子に惹かれてしまうとはな…。してやられたな、あの子もこんな運命の出会いを自分の知らないところで引き起こしているなんて知らぬところなんじゃろうな。
零「あぁ…そうじゃな。一緒に確認しよう。」
『はい!お願いします!』
最初は気乗りしなかったこのドラマだが、あの子の書いた脚本に加えて天祥院くんが全面協力をすると言い始め、ESのアイドル総出で力を貸すというものだから断る訳にもいかなかった。天祥院くんも結局あの子には弱いということじゃろう。
それにしても、嫌々だったとはいえこの仕事を受けて正解じゃったな。他の奴には譲りたくないなんて思ってしまったわい…。
『…零さん?』
零「美羽子ちゃん、我輩一度決めたら手に入れるまで頑張るタイプじゃから」
『きゅ…急になんですか…?』
零「頑張り屋さんなんじゃよって話じゃ」
『よくわからないですけど!私も頑張ります!』
この子は、本当に今まで会った女の子とは違うのう…。本当に我輩だけの『天使』にしてしまいたいなんて、情欲に塗れた男だと思われてしまうじゃろうか…。
じゃが、決めた。我輩はこの子が欲しい。
*美羽子said
零さんは、頑張り屋さんらしい。よくわからないけれど謎の宣言をされた。だけど、頑張ることはいいことだ。私もこのドラマが終わるまで一生懸命演じよう。せめて、ヒロインが主人公と付き合って幸せになってくれれば、私のこの叶わない恋心も少しは報われるものだろう。だから、最後まで絶対手を抜かない。監督が許してくれる限り、この脚本を忠実に演じたい。
『零さん!行きましょう、準備できたみたい!』
零「あぁ…そうじゃな。」
私は、零さんの腕を引いて撮影現場に戻っていった。スタッフさんも「仲良しだね」と笑って「そうなんです〜」なんてふざけて返す。そうすれば、誰も私の本心には気づかない。私は天崎美羽子、同世代の中では実力派の女優だからバレない。隠し通せる。と自分に暗示をかけて、このドラマを最後までやり遂げる。
私の恋心はこの役にのせて…。
凛月「あれはやめた方がいいと思うけど」
『ひぃぎゃっ!』
凛月「ひぃぎゃあ…?」
リテイクを終えて、休憩をしていると次のシーンから参加する凛月さんが後ろから声をかける。凛月さんは弟という役柄もあり、頻度高く会うので仲良くなった方だとは思うが流石に急に話しかけられると驚いてしまう。
『ひどいです…。驚くから後ろから話しかけないでって…前にも言ったのに…』
凛月「だって、美羽子の反応面白いから」
『凛月さんは意地悪です。零さんはそんなことしないのに』
凛月「あれは猫かぶってるだけだよ。」
『ずっと思ってたんだけど、零さんと凛月さんは仲があまりよろしくないのでしょうか…?』
凛月「その下手くそな敬語やめたら教えてあげる」
『仲が良くないの…?』
凛月「別に仲良くない訳でも仲良い訳でもないよ」
『答えになってないです!』
クゥウっと唸りながら崩れ落ちれば、凛月さんは楽しそうに笑う。なんだか、いつも凛月さんには意地悪されている気がしてならないけど、それもきっと凛月さんなりのコミュニケーションなんだと思えば可愛いものです。
『でも、作中では喧嘩して大人になって仲直りするみたいですし、おふたりも仲直りできればいいですね!』
凛月「仲直りするしないって関係でもないんだけどね…」
『兄弟仲良しな方がいいですよ!私も弟とは仲良しです!』
凛月「へぇ…弟いるんだ。」
『はい!可愛い可愛い弟です!この間は、一緒にタピオカ飲みに行きました!』
凛月「なんか意外だね。『天使様』もおやすみあるんだね…。」
『そこですか⁉︎そうじゃなくて姉弟仲の話を!』
凛月「いいの。ウチはウチ、よそはよそ」
『もう…はぐらかすなんて意地悪ですね!』
でも兄弟事情なんて、その家の事情もあるだろうし深く踏み込まないでおこう。凛月さんも笑っているし、これ以上追求するのは何かが違うと自分が言っているし。ここで一区切りにしてしまおう。
『そういえば、やめた方がいいってどういう意味ですか?』
凛月「そのままの意味だよ。何かと面倒な業界だしね、相手は選んだ方がいいよ。俺がいうのもなんだけど」
『…そ…そんなんじゃないです!零さんとは共演者で…』
凛月「俺、別に…どういうつもりでとか言ってないけど」
『凛月さんは意地悪です…』
凛月「うん、意地悪で結構♪あ…あと、伝言『面白いって言ってくれてありがとう』だって」
『…?』
凛月さんはそう言い残して、手を振って去っていく。ありがとうって…?伝言ってなんなのことだろう、と聞いても答えてくれる人はもうこの場にはいなかった。
第五話
『凛月さんは不思議な人』
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