第一章 スカビオサ
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凛月「あっははは!兄者のこと同い年だと思ってたの?知らなかったなんて!その時の兄者の顔見たかったなぁ…」
『…凛月さん、笑いすぎです…。』
凛月「だって面白いんだもん。あ…俺は天崎さんと同い年だよ」
『え…だって、まだ高校生ですよね。兄弟揃って留年…?』
凛月「まぁ俺の場合は体質の問題で、兄者の場合は一年留学してたからっていう理由があるんだけどね」
『体質…?あ…踏み込んだ話ですよね…ごめんなさい』
凛月「ううん、いいよ。あと凛月さんってやめよ?同い年だからさぁ」
ドラマが本格的に始まって、撮影現場は必要なシーンをカットごとに撮り始めていた。制服を着た私と凛月さんは、先日の本読みの時にあった話をする。
『そういえば、凛月さん…この間話した時、『伝えとく』って言ってたじゃないですか。誰に何を伝えとくんですか?』
凛月「脚本家、俺の知り合いなの。だからESが協力的で兄者も出演を承諾したって経緯があるんだよね」
『この本の脚本家さんと知り合いなんですか⁉︎どんな方なんです⁉︎』
凛月「ちょっと、声大きいよ。ん〜…どんな人……変な人?かな。」
『変な人…ですか?』
凛月「うん。奇想天外で、自由奔放で、博愛主義で…周りを見てて…高校からの付き合いだけど、いまだに理解不能」
『凛月さん、その人のこと大好きなんですね!』
凛月「…え?今その要素あった…?」
『誰かのことを知りたいっていう探究心は愛そのものですよ!』
凛月「へぇ〜…美羽子って面白い子だね」
『…?ありがとうございます…?』
凛月さんはそのまま、スタッフさんに呼ばれて現場に入っていった。今さらりと名前呼びだったけど、やっぱりアイドルの方って距離の近づけ方がうまいというか…。それにしても、脚本家の方…月永さん…?っていうのかな、聞く限りいい人何だろうと期待を胸に抱いて私も撮影現場に視線を戻す。
凛月さんと朔間さんのやり取り、役柄はふたりの本来の関係通り兄弟だ。転校することをヒロインに伝えるようにべきだと説得することは弟である凛月さんと、伝えることを躊躇う兄である朔間さんのやりとり。普段二人が話しているところを見たことなかったので、何となく不思議なやりとりだ。でも、このやりとりをきっかけで兄弟の仲は悪くなってしまう。
『…朔間さんって演技上手だなぁ…』
朔間さんが話し出すたびに現場のスタッフみんなが惹きつけられる。みんなの視線が朔間さんに注がれる。私もそんな演技がしたい…。ずっとずっと、そう思っている。子役の時から、自分が楽しければママが喜んでくれれば…そして、みんなが笑ってくれればと思っていた。でも、まだその答えは見つからない。演技というものに向き合って、何年経っただろうか、こんなに目を惹く演技をする人初めて見た…。この人みたいな演技がしたい。やってみたい…。
ーーでも、誰かに寄せた演技なんて結局監督は見抜いてしまう。私は自分のカットでミスを連発してしてしまった。うまくいかない、空回りしてしまう。自分でも焦っているのだから周りはそれ以上だろう、私がこんなにミスするのも珍しいとスタッフみんなが心配そうな目で見ている。
監督「少し休憩にしようか」
『すみません…頭冷やしてきます…』
そういって現場から出て、外の風にあたりにいく。凛月さんが心配そうな目で見ていたけど私は会釈して外に向かう。
外に出れば心地よい風が吹いていて、深呼吸する。数度重ねればやっと落ち着く。反省しなければいけない。今更、誰かの演技を真似てみるなんて私らしくない…。…いや、私らしいって何だっけ…
『…はぁ…なんでうまくいかないんだろう…』
**「こんなところで休憩ですか?」
『あっ……えっと、はい。隅っこが落ち着くので…ていうか、敬語じゃなくていいですよ。貴方の方が年上ですし…』
**「そうか、じゃあ遠慮なく…隅っこが落ち着くなんて『天使様』らしくない発言じゃのう」
『…えっ、そんな口調なんですね。朔間さんって…』
零「変かのう…?我輩、これで慣れてしもうて、今まで実は丁寧を意識しすぎて疲れておったのじゃよ」
『わ…我輩…』
驚いた、大人の前で流暢に日本語話してたはずの彼がこんなおじいちゃんみたいな話し方をするのか…。
『…というか、その『天使様』ってやつやめてください。私それ嫌いなんです。』
零「そうなのかえ?美羽子ちゃんらしいキャッチコピーのように思えるが」
『私は…『天使様』なんて崇高な言葉私には恐れ多いです。私は、こんなにNGを出すただの一般人ですよ。』
零「隅っこ好きじゃしな」
『…そうですけど…』
いじけたように返せば朔間さんはクスクスと笑う。なんだ…、思ったより話しやすい人じゃないかなんて思った。紳士的で静かで少し可愛らしいところのある人だとは思っていたけど、『魔王』って言葉とは程遠い、ただの変な人…かな。
『なんだか…朔間さんと話してたらどうでもよくなりました。私の無駄な努力でした。』
零「急じゃのう…まぁ、それで諦めがつくのならそれもいい事じゃろう。この後大丈夫そうかのう、美羽子ちゃん」
『はい、もう大丈夫です。ありがとうございます』
私は、立ち上がって朔間さんに笑いかけてから現場に戻る。何だか、元気になった気がする。私らしく、って結局わかんないけど何かを模倣した私じゃなくて飾らない私を選んでもらえたんだから、そのままやろうと決めた。
零「せっかくじゃ、美羽子ちゃん。我輩のことは、零と呼んでおくれ。付き合いも長くなろう、仲良くしようではないか」
『…はい、零さん。改めてよろしくお願いします』
零「あぁ、よろしく頼むぞい」
まだ、零さんのその不思議な話し方には慣れないけれど。何だか、前の時よりは仲良くなれそうな気がする。凛月さんもいい人そうだし、この後の撮影も楽しく進められそうだと思った。
第三話
『頑張ります!私!』
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