最終章 ナズナ
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とにかく、私たちに必要なのは話し合って答えを出すことだと思う。それが結果的に誰かに迷惑をかけることになっても、私たちなりの答えを待ってる人がいる。
凛月「ごめん…遅くなった」
『ううん、来てくれてありがとう』
凛月「…記事の話聞いた?」
『うん、そっちの事務所が記事消してくれたって聞いた。ありがとう』
凛月「あんな記事…出したところで誰も信じないよ。人を貶めるようなことばかり書いて…裁判で勝てそうなレベル」
『いいよ、芸能人になった時点で多少の誹謗中傷あって当然だし…あのくらい』
凛月「…よくないよ」
『…凛月?』
凛月「俺は自分の彼女があんな風に書かれてすごく嫌だ」
凛月は少し怒った顔で私から視線を外す。ふと思う、この人はこんなに他人のことで怒れる人だっただろうかと…確かに自分のユニットである『Knights』や幼馴染であるま〜くんのことでは何かと感情的な部分を見ることもあったが私のことではあまり感情的なところは見たことなかった。あぁ、私のあなたのその大切な枠組みの一部になっているんだと思うと心が安らぐ…。
『私も凛月があんな風に書かれたら嫌だ…。うん、嫌だと思う』
凛月「なんで確かめるように言うの…」
『あまりそんな感情を持ったことがなかったから…。今そう思った』
凛月「初めて…?兄者の時はそう思わなかったの?」
『…直面したらそう思うかもしれないけど…でも零さんは私の何倍も優れてて頭の回る人だから…想像できなくて…』
凛月「…俺のは想像できた?」
『…ううん、凛月も私より優れてるから想像できないけど…でも凛月が嫌な思いをするのは嫌だなって』
凛月「ふ〜ん…」
『凛月とは同等でいたいから…片方が我慢する状況は嫌だなって…』
凛月「俺と美羽子は同等だよ。男女の差はあるけど、それでも同じだけ感情があって同じだけ立場がある。立派な一人の人間だ」
『…?凛月?』
凛月は私に言い聞かせる…でもなく、まるで自分に言い聞かせるようにグラスの水を見ながら呟いた。声をかけても、凛月の言葉は止まらない。私もそれを大人しく聞く
凛月「…俺には『アイドル』って立場がある。そこには大事な家族、仲間、仕事相手……そしてファンのみんながいる。これは何者にも変えがたい俺の大切なものだ…。
けど、それは美羽子も同じ…国民的な女優って立場にあるなかで、ファンは俺より多い可能性がある…。俺なんかより多くの人が今までの美羽子とこれからの美羽子に注目して応援してくれている。」
そうだ、彼にも私にも私たちの生活を支えてくれ豊かにしてくれるファンという存在がある。彼らの応援無くしては私たち芸能人は何の意味も持たない一般人だ…。
でも、その言葉が続けば、私のない脳味噌では最悪の終わりしか告げない気がして背中を冷や汗が流れる。聞きたくない…けど、それが凛月の本音なら最後まで聞かないと後悔してしまう。そう思って、遮りたい気持ちをグッと堪えて彼の言葉を受け入れる。
凛月「俺は、それに甘えてた。与えられるものを受け入れて選んで…ずっとずっと…それを自分の成長と履き違えてた。あの頃の……、お兄ちゃんの恩恵をずっと甘受していた俺と何も変わってない…。愚かな子供のままだった。もちろん、大切なものに代わりないし、それに応える気持ちも変わらない…。
けどね、大切なものはそれだけじゃないって気づいたんだ。俺は俺だけが愛さないといけないものを見つけたから…。
俺がどんな立場の人間でも、俺をたったひとりの『朔間凛月』として愛してくれる人を諦めたくない。」
『…へ…?』
凛月「俺は…
女優の天崎美羽子じゃなくて、たったひとりの天崎美羽子を愛したい。
例えそれが、俺の大切な何かを失ってでも美羽子だけは捨てられないから…俺は『アイドル』じゃなくて『朔間凛月』としての答えを選ぶ。」
『それって』
凛月「ごめんね…。あまりに急で何もないんだけど…。」
凛月は立ち上がって、あの時と同じように座っていた私の足元に跪く。それから左手を取って以前くれた指輪が付いている薬指に唇をおとした。
私は、最悪の場合を想定していたにも関わらず予想外な彼の行動に驚き、頭がパンク状態でうまく言葉を発せない。
凛月「…俺と結婚してください。そして、ちゃんとみんなに公表しよう」
『…へ…ぁ…ど…どうしよう…』
凛月「嫌、だった?」
『違う…嬉しい…嬉しいの…どうしよう…こんな…幸せ…』
凛月が自分と同じ気持ちであったこと、大切なものを失ってでも自分を選んでくれたことが嬉しくて…、それに加えて結婚してくださいなんて…。どうしようもなく嬉しかった。
改めて凛月が「返事は?」と聞くのでもう声も出せずコクコクと涙しながら頷くことしかできなかった。
凛月は笑って私を抱きしめ落ち着くように背中をポンポンと叩いてくれた。私はその体勢のまま自分の気持ちを吐露していく
『…フラれるかと思った。』
凛月「うん…」
『また…別れないといけないかと思った。』
凛月「兄者の話?」
『うん…でも、絶対嫌だった。女優を辞めてでも凛月と一緒になりたくて…。でもきっと私が辞めても凛月のファンは苦しむのかと思うと申し訳なくて…私も私のファンを悲しませてしまうのかと思うと……でも、……それでもやっぱり凛月がいい。凛月と一緒がいいって思ったの…』
凛月「俺も…美羽子と一緒がいい」
『だから、結婚してくださいって…公表しようって言ってくれたのが嬉しくって……』
凛月「うん、そうだね。よしよし♪」
『私もひとりの天崎美羽子として朔間凛月を愛していきたい。これから先…ずっと…』
凛月「うん、ありがとう」
凛月はずっと私を抱きしめてくれた。そのぬくもりが今まで思い悩んでいた黒い部分を浄化するようにあたためてくれて、もう悩まなくていいんだと…。教えてくれているようにも感じた。何もかもわかってくれているようでいつも彼は私から聞き出そうとはしない。でも、彼が正直に話してくれると私も話そうって思う。だって、私と彼は他人でたったひとりの『天崎美羽子』と『朔間凛月』で……芸能人という括られる前にただの人間だから……お互いが思いを言葉にしなければわかり合っていけない。すれ違ってしまう。
どっちかが頑張るんじゃなくて、どっちもが頑張る。
だって、これはふたりの生活だから……。
第三話
凛月「これで俺もひとりの男になれたかな」
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