第一章 スカビオサ
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高校の卒業式を終えて、関係者各位に挨拶回りをするためにマネージャーの車に乗せられ、都内を回る。子供の頃から関わったスタッフの人や監督さん…共演したことのある先輩や後輩たち…と行くとこ行くとこで卒業のお祝いに花束やプレゼントに…両手には花とプレゼントでいっぱいだ。
その度に、お礼を言ってはマネージャーにそれを渡すの繰り返し。流石に疲れて事務所に戻って、控え室の一室に入る。後から入ったマネージャーが荷物を置いて、見たことない資料を取り出す。あぁ…また仕事の話だと思って、ソファーに座り直す。
『こんなに疲れてるのに…仕事の話をするの…?いじわる…』
マネ「いじわるで結構です。卒業して初めての作品になるわけだから、どこもかしこも『天使様』がほしいんだよ。」
『それで…そんなマネージャー様が選んだ私の卒業初作品はなんですか…』
マネ「よくぞ聞いてくれました!あの『UNDEAD』の朔間零とW主演よ!向こうも卒業初作品でなかなかにキャッチーでしょ?」
『朔間…零…?だれ…?』
マネ「だれ…って知らないの⁉︎夢ノ咲学院の人気ユニットのリーダーよ!」
『夢ノ咲…あぁ…氷鷹さんのところの息子さんがいってるとこだ!』
マネ「演劇関連でしか、その知識ないの…?」
氷鷹ご夫妻には何かとお世話になっていて、息子である北斗くんとは年も一つ違いで何度か話したこともある。その卒業生ということは同い年の人かな…?確かに、キャッチーではある。でもW主演ってことは二人が関わる役ってこと…でしょう。今までラブストーリーはしていなかったし、きっと今回も違うだろうと思いつつマネージャーに続きを聞く。
『そっかぁ…それで、どんなストーリーなの?』
マネ「ラブストーリー」
『ら”…ら”ブスドーリー…私が…?』
マネ「そうよ、あんたが」
『誰と…』
マネ「朔間零と」
『なんと…まぁ…』
驚いた今まで出演してきた恋愛作品すべてが準ヒロインで、自分自身には恋愛要素が皆無だった。主演をした時も基本恋愛要素のないものが多くて、事務所が避けているのだと思ったけどまさかこれを機に恋愛ものを取り入れていくのか。それにしても、自分が恋愛もまともにしたことないのに恋愛ものなんてできるのかな…。
マネ「これ、台本ね。ゴールデンタイムのワンクールドラマよ。」
『なるほど…。お話はすごくいいんだけどなぁ…ラブストーリーなんてできるのかな…』
マネ「大丈夫よ。あなたはウチの事務所の『天使様』ですもの。今回も大成功間違いなしよ」
『やだなぁ…またそれ…『天使様』って恐れ多い。』
子供の頃から呼ばれる『天使様』というキャッチフレーズを私は一生愛せないと思う。しかし、世間でそう認識されてしまったからには常にそのイメージを崩さないように務めてきた。だって、私にはそのイメージを壊す方法がわからなかったから…。
『うん…わかった。やるよ、マネージャーの選んだものなら間違いないと思うし…頑張るね?』
マネ「うん、頑張って。今日の予定は終わりだから家まで送るわ。この荷物じゃ一人で帰れないでしょ?」
『大丈夫、今日はママが送ってくれるって言ってたから』
マネ「あぁ、天崎さんが…じゃあ安心ね。気をつけて帰るのよ?また、迎えにいくから」
『は〜い、お疲れ様です』
マネージャーは手を振って控え室から出て行った。私は机の上に残された新しいドラマの資料と台本を再度確認するために手に取る。
内容は中学の時に転校をきっかけに離れ離れになった幼馴染が大人になって再会し、恋に落ちるというものだ。まだ、学生だった身だったこともあり中学の時と社会人と両方を二人がそのまま演じるというものだ…。
子役の時から老若男女に人気な天崎美羽子と夢ノ咲学院の中でも有名度の高い『朔間零』の高校卒業初作品にして初共演作…。名前で人気をとるつもりにしてはその脚本の内容はなかなかにシンプルで面白い。
『…というか『UNDEAD』って…穏やかな名前じゃないよね…』
資料に書いてある『朔間零』が所属しているユニットの名前をみる。流石に共演するのに何も知らないというのは失礼だと思い、その名前を携帯電話で調べればすぐにその正体はヒットした。
『朔間零率いるワイルドユニット…。えっ、リーダーなんだ。あっ…マネージャーがそう言ってたっけ…えっと…ファンサービスは各々で振る舞う自由な気質ではあるものの、柔軟性が高く…ビジュアルとキャラクターを活かした仕事が中心的。へぇ…ドラマって初めてなのかな…』
そして、メンバー写真のページを開くと四人の男性の写真が並んでいる。『朔間零』の写真は美しい黒髪に印象的な赤い目をした男の人だった。体調が悪く見えるほどに白肌、鋭い目は一度合えば離せないほどだった。彼が私と共演する『朔間零』…。人気なのも頷ける容姿だ。
この人が私とラブストーリー…
『…だめだめ!共演者に無駄な意識をしない!』
母「そうよ、本気で恋なんてしないでよね」
『…ママ!お仕事お疲れ様!』
母「あなたも挨拶回りお疲れ様、仕事の話聞いたみたいね?大きな仕事になりそうだから頑張るのよ?」
『うん!頑張るね!お話も読みやすくて続きが気になる!知らない脚本家さんだと思ったけど新人さんかなぁ?』
母「その人はフリーの脚本家さんで、今は留学中らしいわよ。」
『へぇ〜留学中ってことは若い人なんだ!』
通りで、伏線のはりかたも回収の仕方もシンプルで読みやすいんだ。経験豊富な人は複雑で視聴者がわからなくなることも多くて大変なんだよなぁ…。これは売れそうな予感…
母「よし、帰ろっか。」
『うん!』
私と母は荷物を分け合ってもち、事務所の地下に止めてある母の車に乗り込む。私は、このドラマがただただ成功すればそれでいい。そう思っていただけだけど、なぜか画面越しに見た『朔間零』の目が頭の片隅に残った。それがただ共演者としてのワクワクなのか、貴方という人へのワクワクなのか…。あの時の私にはわからなかった。
第一話
『ちょっとだけ楽しみになってきたかも』
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