第四章 ハナミズキ
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『ゆ〜うく〜ん!』
悠人「おまえっ!まじふざけるなよ!大声出すな!」
久しぶりのゆうくんとのお出かけに喜びすぎてつい大きな声を出してしまい、向こう側から歩いていたゆうくんが走ってきて私の口を押さえる。
『ご、ごめんなさい…久しぶりのゆうくんに喜びすぎて…』
弟の悠人は私の一つ年下の弟だ。看護学を学びに短期大学へ進学していたが、去年無事卒業して今は新入り看護師として日々奮闘している。忙しいなか、姉のワガママに付き合ってくれるなんとも優しい弟だ。
悠人「関係者席に家族が座ってもいいものなのか?」
『うん、基本問題ないよ。むしろ、一枚でくれる人少ないからいつも困っちゃうけど、今回はゆうくんがきてくれてよかった!ありがとう!』
悠人「…まぁ…『Knights』のライブなんて滅多に見れないし」
『私も実は初めてなの!楽しみ!ゆうくん、凛月の団扇一緒に買おう!』
悠人「…は?団扇?」
『早く!並ばないと!』
悠人「は⁉︎」
私はゆうくんの腕を引っ張って物販の列へと並んでいった。気持ち変装しているとはいえ、やっぱりわかる人にはわかるみたいだけどゆうくんの影に隠れて携帯を黙々と触る。
「ねぇ…あれって…」
「やっぱり、?天崎美羽子だよね?可愛い〜」
「え…じゃあ彼氏?やっぱ美形だねぇ〜!」
「バカ、彼氏とライブは来ないでしょ〜」
なんて女の子同士の会話を弟の後ろに隠れて聞く。あああ…ゆうくんのいうことを聞いておけばよかった…。止めていたのを忘れてウキウキで物販に並んでいればすれ違う子がみんなコソコソと話す。
悠人「ねえちゃんより俺の方が気まずいんだけど」
『ごめんね?ごめんねゆうくん…』
悠人「俺が買って行こうか?」
『ううん、自分で買いたい…。凛月のうちわ…』
悠人「…そう…」
ゆうくんは静かに前を向いて背中を貸してくれた。私はすれ違う人の声をできるだけシャットダウンして携帯の画面に集中する。その画面には『Knights』のライブの楽しみ方が書かれていて、忙しさのあまり読めなかった記事を一生懸命見て行く。
『Knights』のライブは毎回演出が拘られていて、セットリストから衣装の一部まで考え抜かれたライブをするそうで、それは全て会場に来てライブを見に来てくれる『お姫さま』たちのために作られている。特に毎年行われるゴールデンウィークのライブではテーマがありそれを一年のテーマにかかげて活動にするそうだ。
その細かい芸はきっとプロデューサーである月永さんがファンの皆さんを思って毎年決めているのだと思うとすごい努力に思う。
『今年のテーマは『囁き言』?ねぇ、ゆうくん。囁き言ってどういう意味だと思う?』
悠人「…囁き言?あ〜…ひそひそ話とか内緒話ってなんかの小説で読んだことあるけど、なんだそれ」
『今年って言うか去年の『Knights』のライブテーマだって!』
悠人「へ〜テーマあるんだ。それ毎回考えるの大変そうだな」
『そうだよね〜でも、今日でこのテーマは終わりみたい…次のライブはゴールデンウィークになっちゃうから』
悠人「アイドルも大変だなぁ…ねえちゃんだけでも大変だと思うのに凛月さんすごいな」
こうやって、いつも自分に気を遣ってくれるだけでも嬉しいのになんて良い子なんだろう。
悠人「なぁ背中撫でないでくれる?気持ち悪い」
『弟が可愛く育ってくれて嬉しくて…』
悠人「…ねえちゃんって、そう言うところなかったらマジで『天使様』なのにな。俺は残念だなってすごい思う」
『残念な姉の弟は嫌?』
悠人「もう慣れた」
ゆうくんはきっと好きって言うのが恥ずかしくて慣れたって濁したのだと思う。その証拠に顔を真っ赤にして他所を見ているからそれがまた可愛くて彼の背中に頭をぶつけてしまった。
「いや、カップルじゃない?」
「確かに…カップルみたいだよね」
その言葉にバッと顔をあげる。そうだ、外だということを忘れてしまっていた。いつもの距離感だとダメだと思い直す。
気づけば順番になっていて物販のスタッフの方が「こちらへ」と大きな声で呼ぶのでそれに気づいたゆうくんが私の腕を引いて向かう。
スタッフ「…あ」
『えっと、凛月くんのうちわ2枚とパンフレットと、ライブのキーホルダー…』
悠人「え…俺もパンフレット欲しい」
『じゃあパンフレット二つ…あの…?』
スタッフ「あ…はい!少々お待ちを」
スタッフさんは私の顔をガン見して固まっていた。あと、隣のスタッフさんとお客さんもなぜかだんまりでこちらを見ていた。
『何かしちゃったかな…?』
悠人「どう考えても、お前がここで普通に買い物してるからだろ」
『だって…』
悠人「ブロマイドは買わないの?」
『…欲しいけど…』
悠人「俺が言ってやるから」
頼んだものを全て持って来たスタッフさんにゆうくんが「凛月さんのブロマイド2つ」と声をかける。なんだか恥ずかしくなって帽子を深くかぶる。でも、こうやって彼のライブを楽しめることが嬉しくて口元が緩んでしまった。物販のお金を払って出口へと向かう。
『ゆうくん、ありがとう』
悠人「ねえちゃんがそんな笑顔なの珍しいから気にしなくて良いよ。よかったな、ライブ来れて」
『うん、嬉しい』
物販で買った凛月のうちわはいつもと違った笑顔で笑っていて本当に綺麗な顔だなってなんとなく余計なことを考えてしまった。
すると、隣でカシャリと音がなる。音の方を向くと、ゆうくんが携帯をこちらに向けていた。
『え…撮った?』
悠人「うん、凛月さんのうちわ撮った」
『なんだうちわかぁ…』
流石に自意識過剰だったみたいで、凛月のうちわに顔を戻す。なんとなく気恥ずかしくてカバンに仕舞ってベンチから立ち上がる。そろそろ開演時間だから、会場に入らなければならない。
関係者用の受付にいってチケットを渡せば少し難しい顔をしてからチケットを返される。
受付「こちらは一般チケットですね」
『へ…?』
悠人「じゃあ普通に一般の方と一緒に入れば入れるんですね?」
『…え?』
受付「問題ありません、ご案内しますか?」
『い…いえ!大丈夫です!』
私は恥ずかしくなってゆうくんの腕を取って歩き出す。月永さんんん!どう言うことですか…一般チケットなんて関係者席より価値のある…!ひどい…!
悠人「ねえちゃん、とりあえず席に行こう。ライブ始まるって」
『うう…芸能人のあまり自意識過剰すぎたか…』
悠人「…これは俺の予想だけど、それをくれた人はファンの近くでアイドルの凛月さんを見てほしかったんじゃないの?」
『誰にもらったか言ったっけ…?』
悠人「いや、俺の予想だって」
ゆうくんはそう言うとそのあとは黙って一般の入り口で一般のお客さんに混じって入場した。私は、大人しく手を引かれるままに進んで席についた。片方はゆうくんだけど、もう片方は一般のファンの方だ。バレてももう気にしないけど…なんだか気まずくてカバンに入れたままのうちわをギュッと抱きしめた。
第八話
『いろんな意味でドキドキして来た…』
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