第四章 ハナミズキ
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凛月が帰ってしまった。
私が伝え方を間違えたのか、彼を傷つけてしまった。もっと泉さんの言葉を真摯に受け止めて、彼に渡す言葉を考えるべきであったと後悔の念がどんどん湧いてきて私を襲う。
後悔すればするほど心が暗雲が立ち込めて…私の目から雫が溢れて行く。それをいつも拭ってくれる彼はもう私のそばにはいなくなってしまった。
『ごめんね、ごめんね凛月…本当にごめん…』
本当は、本当は彼と同棲したいって伝えたくて…一つの区切りとしてウチの家族と食事に行こうと誘うつもりだった。返信できないのが辛くてだったら寝ててもお互いの顔が見える方が嬉しい。そう思って…そう思ったのに、それを伝える前に彼は…出て行ってしまった。
明日からどうすればいいのか…仕事もままならないかもしれないとプロ意識にかける思考が私を襲った。
食べかけのパスタをゴミ箱に捨てて、彼の残したワイングラスを洗浄器にかけてテーブルを拭いてしまえば、彼がいた痕跡が消えて…さらに寂しくなってしまった。それ以上私の記憶はなくなってしまった。
月永「へ〜リッツってそんな子供っぽいところあるんだな!かわいいじゃん!」
『か…かわいい』
月永「おれの知ってるリッツって甘えん坊だけどやっぱしっかりしてて子供っぽさはあんまり感じたことないな〜って!」
次の日、偶然隣のスタジオで収録があるレオさんが楽屋に遊びに来て話を聞いてもらったらこの感想だ…。
話を聞いてもらえて嬉しいけれど…
月永「う〜ん、本当に伝えたいことは絶対に伝えた方がいいぞ…、きっと後悔する。おれも後悔したことはいっぱいあるし」
『レオさんもですか?』
月永「そうそう、家内にはいっぱい悪いことしたからなぁ…」
『ふと思ったんですけど、レオさんって奥さんの呼び方コロコロ変りませんか…?』
ふとした疑問をポロっとこぼせばキラキラした目でレオさんが喜ぶ。
月永「それツッコんでくれるの嬉しい!そうなんだよ〜今マンネリ化防止のため呼び方を試行錯誤してるんだ!お前はどう思う?何がいいかな!今のとことアモーレ結構気に入ってる!」
『……そうですね…アモーレは私だったら恥ずかしいです…』
月永「そうかぁ…じゃあ、美羽子はリッツになんて呼ばれたいんだ?」
『え…凛月にですか?』
月永「結婚したら、なんて呼ばれたい?奥さん?家内?ウチの嫁さん?」
『考えたことありません…。』
月永「お前はリッツをなんて呼びたい?」
『凛月を…』
月永「同棲するってそういうことだろ?結婚を前提にしないで同棲するのか?」
レオさんの言葉が深く心に刺さる。もちろん、私個人はなんとなくそのつもりでいた。だから家族とご飯に行ったし、実家に呼ぼうとも考えていた。けど、凛月はそうじゃないかもしれない…。凛月は私との将来をどこまで、考えてくれるんだろう…。
『レオさんは奥さんになんて呼ばれると嬉しいんですか?』
月永「う〜ん、おれは『レオ』って呼ばれたい。夫でもいい、旦那でもいい…、けどアイツの声で『レオ』って呼ばれると生きてるって感じする」
『生きてる…、』
月永「なんかさ!好きな人に呼ばれる自分の名前って格別じゃないか?この名前でよかった〜って思わない?」
『ちょっとわかります。凛月って少し独特な甘い声で話すから…格別耳に残るっていうか…』
月永「わかるぞ!リッツはいい声だよな!アイツの声はおれも大好きだ!」
凛月は甘い声で話す。通常時も…恋人の時も…でも、その声で呼ばれる自分の名前は格別甘くて、耳元で名前を呼ばれてもそれが自分の名前じゃないのではないかと、愛の囁きのようにも聞こえる。きっとレオさんが言いたいのってそういうことなんだと思う。
『私も、名前で呼ばれたいです…。ずっと、おじいさんとおばあさんになっても…』
月永「うんうん…わかるぞぉ…いいよな、好きな人って…愛する者って…」
『…ふふっ』
月永「ん?なんだよ、その笑い〜!面白いことあったか?」
『いえ、レオさんと話してると本当に好きなんだなって感じれて私まで幸せになります』
月永「お前は?今幸せじゃないのか?」
『…今は少し…でも、幸せになります。…いえ、凛月を幸せにしてあげたいんです…他の誰でもない…私が…』
月永「……そっか!応援してる!何かあったら相談乗るぞ!まぁおれはあんまり役に立てないけど!」
『いえ…話を聞いていただいてありがとうございます。少し楽になりました。』
レオさんは笑って「またな!」と私の楽屋を後にした。私は、自分の収録が始まるまで楽屋で凛月とどうやって話し合おうか頭を巡らせていた。きっとすぐには会ってくれないかもしれない。けど私はこの想いを今すぐにでも彼に伝えたい。
だから、彼に一言だけメッセージを送ろう。今日も明日も…これからもただ偽りなく想うことを
『凛月、大好きーー』
私は携帯の画面を閉じて、楽屋を後にした。
私はこの恋を諦めない。捨てたりしない…、彼が例え別れを切り出しても一度は必ず話し合おう。顔と顔を合わせて本当の気持ちを語り尽くして、それでも彼が嫌だと言えば大人しく身を引こう。
会ってもいないのに、諦められるほどこの恋は軽くないし崩れはしない。
まずは彼の返信を見たい、彼の気持ちを知りたい。彼が昨日何もないただのオフにワインを持ってきた理由を知りたい。
彼がこの恋を諦める気があるのかは彼が落ち着いたらでいい。ゆっくり聞こう。
私たちにはまだまだ時間があるはずだから
私のおいた携帯の通知欄には一つだけ返事が来ていた
凛月「俺もだよ」
それに気がつくのは数時間後の話ーー。
第五話
『また、あなたの声で私の名前を呼んで』
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