第四章 ハナミズキ
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ふたりで作ったパスタをテーブルに並べてふたり分の食器を並べる。キッチンに立っていた凛月が冷蔵庫を開ける。
凛月「なに飲む?」
『私は水でいいよ、凛月は好きなの飲んで〜』
凛月「う〜ん、そう言われると俺も水でいいんだけど」
『えぇ〜何飲みたいの?』
凛月「ワイン♪」
『えっ⁉︎そんなワインどこから…』
凛月「俺の懐から〜♪久しぶりのオフだから買ってみたんだけど飲まない?」
『明日早くて…う〜ん、でもせっかくだから一杯だけ…』
凛月「おっ♪飲もう飲もう〜」
凛月はウキウキしながら前に自分が持ち込んだワイングラスを食器棚から取り出す。グラスとボトルを持って椅子に座りボトルを開ける
『なんでワインなんて買ってきたの?あまり飲まないよね…お互い』
凛月「まぁ…久しぶりにオフが一日被ったからさ、お祝いじゃないけど飲みたいなと思って」
『…?そっか、楽しみ』
凛月「兄者のおすすめ」
『零さんの?そう、今度会ったらお礼言わないとね』
凛月「…うん♪」
凛月はグラスにワインを注ぎ、席につく。二人が座れば凛月が「乾杯」と声をかけてカシャンとガラスを合わせて喉に流し込む。
零さんオススメの赤ワインは飲みやすくて味が口に残るいいワインだった。パスタとも合っていて食い合わせとしては最高の友達だ。私はパスタを黙々と食べていった。
*凛月said
正直、状況は完璧だった。ふたりで穏やかな休日を過ごして、カップルらしいこともして…ふたりで並んで料理してお酒を飲むなんて最高のタイミングだ。言わないと…言ってしまおう。
嫌々ながら兄者に相談して選んだワイン…、失敗するわけにはいかないと思いながら美羽子を見ると幸せそうな顔でワインを飲むその姿に動かそうとした口が止まる。すると、それに気づいた彼女が先に話し出す。
『ねぇ、凛月。この間ね泉さんと話してたんだけど…頻繁に連絡くれるのって凛月にしては珍しいってほんと?』
凛月「またセッちゃんの話?」
『これは凛月の話だよ?いつも連絡くれるから…』
確かに、俺にしては一年半も毎日特定の人物に連絡するのは珍しいことだ。でも、美羽子には付き合う前から頻繁に連絡していたしそれを苦に思った事はない。俺が好きで連絡しているから、返信がこなくても怒った事はなかった…。
というか、雲行きがあやしい…。さっきまでいい雰囲気で……
『凛月も忙しいのに、毎日連絡してもらって申し訳なくて…』
凛月「俺が好きで連絡してるんだけど…それでもいや?」
『嬉しいんだよ⁉︎けど…返事できない自分が…なんていうか…』
凛月「ウザいって思った?」
『違う!そういう事じゃないの!』
美羽子のその焦った顔がさらに俺をムカムカさせる。嘘じゃないって言葉を裏返しに感じ取ってしまう。それを感じ取ったのか美羽子は俺の手をとって目と目をあわせる。
『凛月、連絡をくれるのはとても嬉しい…。愛されてるって思うし、大切にしてもらってるんだって感じる。私もそれを返したいのに忙しいを理由に返せなくて…でも凛月も同じくらい忙しい…
だから、申し訳なくて嬉しいの大好きなの…だけど…』
凛月「無理して連絡しないでって言いたいんでしょ」
『それは…その…』
凛月「…うん、わかったよ」
『凛月…?』
俺はなんて情けないんだろ。23にもなって俺はこんなに自分が子供だなんて思わなかった。彼女の言い分は一般的で仕方ない事なのに、俺はこんなに腹が立っている。『Knights』の策士なんてだれが言ったんだろうか…こんな浅はかで愚かな俺を…
凛月「ごめん、今日は帰る。」
『凛月…っ!待ってごめんなさい、謝るから待って!』
凛月「…悪いけど、今日は冷静に話せそうにない。ごめん」
『凛月…!』
俺は引き止める美羽子に謝って、彼女の部屋から出て行く。自分が本当に話したいことも話せず、自分に都合が悪くなって逃げるなんて子供以外の何者でもないけれど、冷静になったら改めて話そうと心に決めて、俺は彼女のマンションを後にした。
俺は必死に走った。彼女が追いかけてこないはずだから、必死にある人物の元へと走った。今日は家にいるはずだから…文句言ってしまおう…。いや、八つ当たりしに行く。
凛月「ほんと、どうしてくれるの」
「えぇ…幾ら何でも八つ当たりじゃ」
凛月「あんたがいけるっていうから!俺は家の合鍵用意して!渡すつもりだったのに!」
零「待て待て、凛月順番に話しておくれ?何があってそうなったんじゃ…」
そうやって焦る兄者に事の経緯を話す。兄者は元カノと弟のことにも関わらず、親身になって相談に乗ってくれた。最初は、なんとなく気まずくて美羽子のことを話せなくて…だけど、ある日兄者から相談に乗ってくれるようになった。
稀に…本当にごく稀にだけど相談するようになった。…この間だってオフが重なって彼女に同棲を切り出そうと思うことやそのために何かプレゼントでも送りたいと相談してワインを持たせて送り出してくれたのは間違いなく兄者だ
零「それは、帰ってきて正解とは言い難いのう…不機嫌になる気持ちもわかるが冷静になってじっくり話し合うべきだったんじゃないか?」
凛月「話し合うべきなのはわかってる…でも冷静でいられる自信がなくて…」
零「不安なのはお互い様じゃろうて…して、その件で別れでも切り出すのかのう?」
凛月「は?別れる気は無いけど」
零「美羽子ちゃんはどう思ってるかのう…逃げ出した彼氏に別れを切り出されるんじゃないかと怯えとることじゃろう…可哀想に」
可哀想に、と言って兄者は座っていた椅子から立ち上がる。まだ話したいことがあるのに…こいつはどこに行こうというのか
凛月「ちょっと…!まだ話は…!」
零「知っとるか凛月、女の子は傷ついておる時が一番油断しておるらしいよ」
凛月「あんたまだ美羽子のこと諦めてなかったの⁉︎」
零「さぁの…」
凛月「美羽子に手を出したら絶対許さないから…いくらあんたでも…」
殺す、そう言おうとしたら美羽子が止めたのを思い出す…。たった二人の兄弟だから殺すなんて思ってもないこと言わないでと…彼女と約束したから、ここは大人しく口を噤む。
すると、兄者が俺の頭を乱暴に撫でる。
凛月「ちょっと!なに!やめてよ!」
零「大丈夫じゃよ。凛月の大切な子に手出しはせんよ。ただ、ちゃんと謝っておあげ、そのあと落ち着いてからゆっくり話し合えばいい。別れたくない気持ちを伝えておくだけで違うじゃろう。」
凛月「うん……そうする、ありがとう」
俺は大人しく自分の部屋へと戻った。とりあえず、メールで美羽子に「ごめんね。今度ゆっくり話したい」と送信して、俺はベッドへと沈み込んだ。
第四話
凛月「ごめんね、でも別れたくないんだ」
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