第四章 ハナミズキ
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『ひゃああ!ゆ、ゆうくんから電話だ!』
珍しい人物から電話に一人飛び上がる。同じくCMの撮影で待機していた嵐ちゃんと泉さんがビクリと肩を揺らす。
私は、急いで着信ボタンを押して部屋の隅へと寄る。
『もしもし!ど、どうしたの!』
悠人「別に、急ぎでもないんだけど朔間さんとうまくいってるのかなって」
『えっと…どっちのかな…』
悠人「ねえちゃんの好きな人」
『…私が好きなのはゆうくんだよぉっ!今度はいつ遊びに来てくれるのかなっ!ていうか家に行ってもいい⁉︎お仕事忙しくない?私が会いに行ってもいいかな!』
悠人「恥ずかしがってるのか知らないけど話逸らしてるのバレバレ…、あと職場に来るのは普通にウザイ」
『…う、ウザイ…ぉぅ…意地悪なゆうくん』
悠人「凛月さん、不安がってるからしっかり二人で話した方がいいと思うぞ」
『不安…?なんで…』
悠人「その感じだと特にそんなこと思ってないと思うけど、お互い忙しいんだし会話大事にしろよって話。そんで、ふたりでウチに来なよ。ねえちゃん」
『キュンとしたよ、ゆうくん……』
悠人「俺じゃなくて凛月さんに言えばいいのに、じゃそんだけだから仕事頑張れよ」
『うん!うん!じゃあね、ゆうくんもお仕事頑張って!』
着信が切れてウキウキ気分で振り返れば、厳しい表情をした泉さんと呆れ顔の嵐ちゃんが立っていてビクリと今度は私が肩を揺らす番だった。
『な…なんですか…泉さん…』
瀬名「今の電話誰…」
『誰って…泉さんが何故そんなことを…』
瀬名「ゆうくんが誰かって聞いてるの!」
『ひぃいあああ!助けて嵐ちゃん!』
鳴上「ちょっと泉ちゃん〜、説明しないと美羽子ちゃんが怯えてるじゃない」
泉さんはジリジリと私ににじり寄ってきて壁に追い込み、それを嵐ちゃんが声のみで止める。私は携帯を抱えガクガク震えながら壁際で縮こまる。すると、待機の原因であった男が楽屋へと入って来る。
凛月「ねぇ、何してるの」
鳴上「あら王子様登場ね」
凛月「え…?」
『お助けぇ…』
瀬名「あんたの彼女、浮気してんじゃないのぉ⁉︎他の男と電話とか…!しかもゆ…ゆうくんとなんて!許さない!」
『ゆうくんと電話して何がいけないんですか!泉さんには関係ない!』
到着したばかりの凛月には状況が読めなかった。大切な彼女が大事な友人に壁に追いやられているという、とんでもない浮気現場を目の当たりにしている。しかし、その話題は『ゆうくん』という人物で両方の事情を知っている凛月にはこの二人の不毛な争いが理解できていた。
凛月は瀬名の肩にポンっと手を置き、にこりと微笑んだ。流石の瀬名も壁ドンしていた手をゆっくりと下ろし数歩下がる。
凛月「セッちゃん、勘違いしてるからとりあえず美羽子から離れてくれる?」
瀬名「…勘違いって何。」
凛月「美羽子、『ゆうくん』に電話してたんだよね。」
『う…うん、ふたりで遊びにおいでって』
凛月「…そう、今度行くって伝えといて」
瀬名「ちょっとくまくん!どういうつもり!」
凛月「セッちゃん、美羽子のいう『ゆうくん』っていうのはね天崎悠人くんだよ。美羽子の弟」
瀬名「はっ……お……弟…?」
『はい…弟のゆうくんです…へ…?』
凛月「それで、セッちゃんのいう『ゆうくん』は遊木真くん。知ってるでしょ?『Trickstar』の…」
『もちろん、遊木さんは…知ってるけど…へ…遊木さんが『ゆうくん』?ま〜くんと同じ感じ…?』
凛月「そうそう…、ま〜くんと一緒」
鳴上「あら、ま〜くんで伝わるのねェ」
『先日ま〜くんとはご飯に行きました!』
鳴上「あら凛月ちゃんって外堀から埋めるタイプなのねェ…」
凛月「同業者のご飯会でしょ?普通のことじゃん」
凛月は状況を理解できたので自分の席に座ってスタッフさんが来るのを待った。私もそれにならって元の位置に座ろうとすればそこには嵐ちゃんがいて、その隣には泉さんが座っていた。どうしようもなくなって大人しく凛月の隣に座ると、目の前の嵐ちゃんは嬉しそうに笑いながら話出す。
鳴上「美羽子ちゃんは、ご実家に凛月ちゃんと行ったことがあるのォ?」
『えっと…、家には行ったことないけど…一緒にご飯はね』
凛月「あれは俺の誕生日に予定ブッキングする美羽子が悪い」
『ごめんね?でも、ゆうくんも凛月に会いたがってたし面白かったでしょ?』
瀬名「そのゆうくんっていうのやめてくんない?なんか違うってわかってるのにストレスでおかしくなりそう」
『えっと…悠人と会えてよかったでしょ…?』
凛月「その悠人っていうのやめて、他の男みたいですごく嫌だ」
『えぇ…これはどうすればいいの嵐ちゃん…』
鳴上「じゃあアタシとふたりで恋バナしましょ☆」
私はこの自由空間についていけず、早く撮影が始まらないかと頭を抱えてしまう。
誤解が解けたのは嬉しいがゆうくんとは呼べないし、名前でも呼べない。つまり、弟の話題がこの二人がいてはできないことが決まってしまった…。厄介なことだ…そうこう考えているうちにスタッフさんが呼びに来てそれぞれ立ち上がる。『Knights』の皆さんと共演できるのは嬉しいけれどこうやって凛月とのことが話題にされてしまうのが少し恥ずかしい。だったらレオさんみたいに永遠と自分の音楽の話をしてくれた方が幾分かマシ…なんて言ったら失礼かもしれないけど…
すると、前を歩いていた凛月がのんびり下がってきて私の隣を歩く。
凛月「セッちゃんの前でゆうくんと電話なんて大変だったね」
『早く教えてよ…ゆうくんが禁句だってこと』
凛月「いつか芸人さんのネタみたいにならないかなって思って楽しみにしてたら壁ドンされてるなんて思わなかった。」
『あんなに怒られるとは思わなかった…。怖かった…』
凛月「あははっ、気をつけてね。最近は落ち着いて来たみたいだけど、自分以外の女がゆうくんっていうとムカつくらしいよ。」
凛月は笑って私より先に撮影現場へと入っていく。私もそれに続いて現場に挨拶をしながら入っていく。とりあえずは仕事に集中しようと心を切り替える。
第二話
『おはようございます!よろしくお願い致します!』
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