第三章 カーネーション
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凛月に呼ばれて、待ち合わせの駅に行けば見慣れない車が目の前で止まる。驚いて見ていると急に助手席が開いて腕を引かれる。そこには深めの帽子に黒いマスクをした凛月がハンドルを握って座っていた。
『り…つ…?』
凛月「いいから、早くシートベルトしてドア閉めて」
『は…はい…』
凛月の指示に従ってドアを閉めれば、車は走り出した。車内は会話はなく、モーツァルトのクラシックが静かに流れていた。少し居た堪れなくなって私から口を開く。
『凛月って運転するんだね。』
凛月「免許くらい持ってるよ。けど、運転はあまりしない…寝れないしね」
『じゃあ車だけ持ってるの?…すごいね運転しないのに…』
凛月「この車は借りた。こんな可愛らしい車俺は乗らないよ」
確かに、男性が乗るには可愛らしいオレンジと白のツートーンで丸みを帯びたフォルムは女性に人気の車種だ。凛月らしくないと言えばそう思える。じゃあ…誰の……?
『じゃあ…誰の?』
凛月「誰だと思う?」
凛月がマスクの下で笑うのがわかる。これは私を揶揄う時の凛月の声のトーンだ…。私がわからないだろうと思っているに違いない…。こんな車に乗る人…凛月と仲良しな人…
『『Knights』の人だよね…?う〜ん、色はレオさんだけど…車種的に鳴上さん…?』
凛月「違うよ、月ぴ〜は確か紺の外車、ナッちゃんは車運転しない」
『…じゃあ瀬名さん?』
凛月「セッちゃんは高校の時からバイク」
『じゃあ朱桜さん!』
凛月「ス〜ちゃんは、昔から家の送り迎え」
『…じゃあ誰なの?』
凛月「……もう一人『Knights』のメンバーはいるよ?」
『え…』
レオさんに、鳴上さん、瀬名さん、朱桜さん…それと凛月…『Knights』のメンバーは5人だったはず…と思考を巡らせているとたったひとり思いつく人物がいた。
『月永さん…?』
凛月「そう、うちの女王様の車」
『えぇ!つ、月永さんの車⁉︎』
凛月「そうだよ。嬉しい?」
『できれば月永さんが運転するところが見たかった!』
凛月「こら」
凛月は隣にいる私のおでこを小突いた。でも、その瞳はどこか楽しそうで、尚且つ嬉しそうに笑っている気がした。
『じゃあこのモーツァルトは…?』
凛月「それは女王様の趣味」
『…そうなんだぁ…』
凛月「月ぴ〜はモーツァルトが嫌いだから、ここでしか聞けないんだって」
『へぇ…』
その後も、凛月は楽しそうに『Knights』のことを話してくれた。いつもは自分の周りのことを話さない凛月がこんなにも自分のことを話してくれるのが嬉しくてつい私もその話に聞き入ってしまう。
すると、車が止まり凛月がサイドブレーキを引く。私はそれをジッと見ていると、運転席を降りた凛月が助手席に回ってドアを開けて手を差し伸べてくれる。私はそれに手を乗せて彼についていく。
凛月「ここに連れて来たかったんだ」
『あっ…ここ…』
そこは最終回の撮影でやって来た丘の上だった。昼間ということもあり、夜景ではないけどそれでも高いところから見る街の景色はとても綺麗だった。凛月は「少し待ってて」と何かを取りに行くのか車に戻っていったので、私は街並みを眺めていた。七月に入ろうとしている中でカラッとした晴れ模様に街並みも綺麗に太陽に照らされていた。
深呼吸すれば都会の喧騒では感じられない綺麗な空気が肺をいっぱいにしてくれた。その瞬間、カサリと目の前に真っ赤な花が視界をいっぱいにした。
凛月「はい、クランクアップおめでとう」
『え?なにこれ…』
凛月「お祝いの花」
『あ…ありがとう…え…本当になに…今日の凛月いつもより変』
凛月「いつも変だって思ってるわけだ」
『ち…違うよ!…だって、いつもは自分の話も、自分の周りの話もあまりしないから…なんだか変だし、自分で運転するなんて口ぶりからして珍しいし…』
凛月「…はぁっ、鈍いなぁ…美羽子は」
『えっ…悪口…?』
凛月は私が受け取らないのが嫌になったのか無理やり花束を渡して、私の手を取りベンチのところへと導く。
凛月「花言葉は試練に耐えた誠実。美羽子は与えられた試練によく誠実に耐えたね。えらいえらい」
『試練…?花言葉…?』
凛月「だから、俺もその誠実に答えないといけないと思ったんだ。そう、月翔が教えてくれた」
『月翔が…』
凛月「あの時、俺は月翔で美羽子は海咲だった。でも本当はどこかいつもの俺らになってたって…そう思わなかった…?」
『…』
凛月「だからちゃんと話そう。俺らも、俺は美羽子を笑顔にしたい。ずっとこれからも」
『……』
凛月「俺が美羽子を幸せそうに笑わせてあげたいんだ」
『…私も、同じように感じてた…。というより、もともとそういうお話なんじゃないかと思ってた。凛月はこのドラマが始まるずっと前から…私にいろいろ教えてくれた。それから、辛い時や悲しい時…いつもそばにいてくれたね。それで私を笑顔にしてくれた、辛いことを忘れさせてくれた。本当にありがとう…
あの最終回の時、確かに凛月と月翔が重なってた。だからこそ、いいセリフを言えた。
凛月が誠実に試練を乗り越えたっていうなら、それは凛月のおかげだよ。朔間さんとモヤモヤしてたのをハッキリできたのは凛月のおかげだよ。
ありがとう、凛月。いつもそばにいてくれて。
ありがとう、凛月。私を悲しみから守ってくれて。
だからね、凛月。私と……
幸せになってくれませんか』
凛月は綺麗な赤い目を見開いて、私をきつく抱きしめた。
21歳の夏、私は諦められない恋を知りました。
第十一話
『ありがとう、凛月。そして、大好き』
【カーネーション】
花言葉*試練に耐えた誠実
第三章 カーネーション end.
……To be continued