第三章 カーネーション
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分岐までの撮影を終えれば、番宣のために出ているバラエティやニュース番組のワンコーナーで訊ねられるのはエンディングの話ばかりだ。「どちらのエンディングがいいのか」「天崎さんとしてはどちらがいいと思っているのか」…それを答えることなくはぐらかしてきた。だって、その裏で本当に二人が賭けのようになことをしているんだから、私の一言でエンディングが決まるなんてことがあってはならない。左右する要素すら与えてはならないのだから…
今までのお話の中で友人や住民とした会話。晴翔との思い出、月翔との思い出、そのどちらもが海咲にとっては大切なはず…そのどちらかを結果的に選べるのは視聴者の皆さんだ…私という役者じゃない。
そして、今日最終回の台本が事務所に届く日だ。どちらのエンディングになっても…、登場するみんなが幸せになってくれればいいのだけど……
マネ「美羽子、台本…受け取ってきたよ」
『……!エンディングは……!待って待って!読む、読んでいい⁉︎』
マネ「落ち着いて…はい、読んでいいわよ。時間になったら呼ぶから」
『ありがとう!』
私は勢いよくマネージャーから台本を奪い取る。ソファーに座り台本に穴があくほどじっくり文字を追う。キャラクターの放つひとこと一言に目を通し、心情を探っていく。
読み終わった頃には、私は呆然とする。そうか…、月永さんが伝えたかったのはこういうことなんだ…。レオさんが言っていたのはこういうことなんだ…。
だから、私は海咲役に指名されたんだーーー
晴翔はマンションを後にして、月翔の友人の家に向かおうと走っていた。ふと、二人で小さい頃に遊んだ公園の前を通りかかり中を見るとそこには目当ての人物がブランコに腰掛けていた。
晴翔「月翔…ここにいたのか」
月翔「にいちゃん…」
晴翔「…悪かった」
月翔「ごめん!」
ふたりの謝罪の声が重なる。まるで小さかった頃にくだらない喧嘩をした時みたいで…。なんとなく笑いがこみ上げる。
晴翔「悪かったな。仕事のこと隠してて、親父たちが居なくなってからお前を不自由なく生活させるためにはこの道が早かったんだ…」
月翔「ううん、俺こそごめん。にいちゃんの話何も聞かずに出て行った。にいちゃんは、考えなしそんなことする人じゃないって知ってたのに…」
晴翔「また、一緒に暮らしてくれるか?」
月翔「…まぁ…一緒にいたいっていうなら居てやってもいいけど」
晴翔「…っは…あははは!もちろんだよ!大好きだよ、月翔!」
月翔「ちょっ…やめてよ!気持ち悪い!」
そういうと、晴翔は月翔をギュッと抱きしめる。第三者から見れば異様な光景のようにも思うけれど、一瞬で離れ離れになった心を再び繋ぎ合わせるには手早い行動だったのかもしれない。
ずっと黙ってお互いが気持ち悪い思いをするよりも、お互い話し合って気持ちよく過ごせたほうがいいに決まってる。それを教えてくれたのは間違いなくあの海咲という女の子に違いない。
彼女のまっすぐさが今までモヤモヤしていたこの兄弟を変えてくれたに違いない。月翔はゆっくりと兄から離れ、まっすぐ前にいる兄を見る。
月翔「…にいちゃんは、海咲のこと本気で好きなの」
晴翔「あぁ…お前も好きだなんてな」
月翔「…俺は本気の本気だよ。正直、にいちゃんにも負けない。」
晴翔「俺も負ける気は無い」
勝ち負けの話ではない…結局は彼女が選ぶことなのだから。それでも、お互いの気持ちを正直に話したことで二人は昔からあった壁を一つ乗り越えた確固たる証拠なのかもしれない。
二人はこの答えがどうなっても崩れることのない絆を持ち続けることだろう。そして、帰ってきた二人を海咲はまた笑顔で迎えてくれるに違いない。
海咲『どっちかを選ぶなんてむりだよ…』
友人「無理でも選ばないと…ていうか答えを出さないと二人とも失うわけだけど〜?」
海咲『ふたりとも失うってなに…』
友人「ハッキリしたほうがいいって話〜あんたは優しすぎるんだよぉ!」
海咲『でも意地悪だよ。同じ時間に呼び出すなんて…』
友人「まぁ好きな方に行けってことでしょ…?答えは出てないの…」
海咲『……』
友人「…出てるんだ…」
海咲『…でも、片方を待たせるなんて…』
友人「それが優しすぎるんだよ!二人がそれを望んでるんだからあんた次第でしょ!あんたは周りを気にしすぎ!自分のことだけ考えてもいい時だってある‼︎」
海咲『…ぁ…』
友人「他人の幸せより優先したい幸せがあるでしょ…⁉︎あんたの恋はその程度か橘海咲!誰かのことを気にして諦める恋なのか!あんたの大好きな少女漫画のヒロインはいつもまっすぐで恋に真剣だったでしょ⁉︎ハッキリしろ!ヒロインはあんただぞ!」
海咲『…ぅ…うん…私、諦めたくない…!あの人を笑顔にするのは私でありたい…だから…だから私は!』
そう言って海咲はカフェの椅子を立ち上がり、彼が待つ場所へと走った。自分はきっと大好きな少女漫画のヒロインみたいにはなれない。だって、周りの目は気になるし世間体って言葉に縛られている。でも、周りの目が気になっても誰になんと言われようと私は好きな人と一緒にいて好きな人を笑顔にしてあげたい。
だから、海咲は走った。暑くなってきてジメジメした熱が身体を溶かしそうでもただただ前に進んでいった。走っていた足が止まった先にいたのは…
第九話
『それでも答えを出すのは苦しく悲しい』
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