第三章 カーネーション
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*凛月said
女王様の高笑いが聞こえて、振り向けばまさにその人物がいてなぜか監督とスタッフと談笑していた。流石に、兄者も知らなかったのか唖然と見ている。
凛月「ちょっとぉ〜…撮影中なんですけど」
零「脚本家が撮影の邪魔をするとは感心せんのぅ…」
女王「おぉ…怖いなぁ。珍しく、仕事熱心な兄弟なぁ…邪魔しないから続けてどうぞ」
女王様は手をあげて監督の少し後ろの椅子にボフッと座っていつものようにメモとペンを取り出す。脚本家が現場にくるのは極めて異例で、さらには撮影に口出すなんてことは普通の現場ではありえない。しかし、このドラマは特例なのかたまに進捗を見に来ることがある。そろそろ分岐だからか、よく現れる。
でも、自分も聞きたいことがあったしちょうどいい。このシーンが終われば俺には休憩時間がある…。
月翔「にいちゃんは、俺に隠してること…あるよね?」
晴翔「なんだよ…、隠してることって」
月翔「もう…俺子供じゃないよ…にいちゃんに守られてばっかの子供じゃない!なんで何も言ってくれないんだよ!」
そう、あんたはいつも何も言ってくれなかった…勝手にいなくなって勝手に俺のことをまもって…いい迷惑だ。俺と月翔は似てる。そして、海咲と美羽子も、晴翔と兄者も……似てる。
月翔「ずっと…にいちゃんのこと信じてたけど、にいちゃんは俺のこと信じてくれないんだね…。」
晴翔「月翔…?…おい!どこ行くんだよ!待て…!」
それで、俺も月翔も結局……あんたから逃げるんだよ。ちゃんと向き合わないで逃げちゃうんだ…。だって、あんたは俺に何も話してくれないから。監督のカットの声にみんなが確認画面に目をやる。俺も確認しようと動けば、その奥の名前が涙を流していた。
凛月「なんで、美羽子が泣いてるの?」
『だって…だってぇ…お二人が仲違いするのが辛くて……』
凛月「いや、泣く要素あったかな?」
『私が二人にちゃんと話していれば…二人の関係はキープできたはずなのにぃ…』
凛月「…海咲目線なのね…」
美羽子は大泣きしているところをメイクさんに見つかり、直すためにメイクルームに連れて行かれた。俺はそのあと監督たちがいるところへと向かい、目当ての人物に声をかける。
凛月「ちょっと来い」
女王「え…珍しく怖い…」
凛月「早く立って」
女王「…はい」
女王様は大人しく席を立ってついてくる。俺は撮影現場から少し離れたベンチに座る。女王様もそれにならって隣に腰掛ける。
凛月「脚本家さん的にドラマは順調ですか」
女王「急にインタビュー…?まぁ、順調ですね。SNSでも好評だし、ESとしても話題作りになってる。今期のドラマの中でもトップ争いしているレベルだしいい作品になっていると思いますが…?」
凛月「今回の作品はどう言ったテーマで作られたんですか?」
女王「まだこのボケ続くの…?」
凛月「いいから」
女王「ん〜…視聴者が作品の中に入り込んでヒロインとして楽しめるドラマにしたいと考えています。」
凛月「本当にそれだけなのでしょうか?」
女王「それだけ…と言いますと」
凛月「他にも意図があるのではと感じるのですが…」
女王「……そうですね。他の意図もありますね…でも言いませんよ凛月さん?」
凛月「ケチ」
女王「ケチで結構」
女王様はそう言い残して立ち上がろうとしたが、俺はそれを止める。女王様は服の袖を掴んだ俺の手をゆっくりと離して座り直す。
そして、何も言わずに俺の顔をジッと見つめる。
凛月「女王様は本当の愛を知ってる…?」
女王「本当の愛…?」
凛月「そう…」
女王「…本当の愛は知らない。でも、恋と愛が違うのは知ってる。それは、それぞれの形をしてるから説明はできない。
でもね、凛月。私は月翔はそれを見つける力があると思ってる…。だから、どちらのエンディングを迎えても月翔には幸せになってほしい。」
凛月「幸せに…」
女王「そう、でもこのドラマの結末は視聴者…つまり、世間が決める。どっちが認められるのか。どちらとなら海咲が幸せになれるのかを世間に…海咲に決めてもらうの。」
凛月「海咲に…」
女王「自信を持って、凛月。あなたは素晴らしい役者だよ。海咲を幸せにするのは俺だって思ってれば、海咲もそれに答えてくれる。だから頑張れ」
その言葉に、本当の意味がわかってしまった気がした。兄者は世間という目を気にして美羽子に別れを告げてしまった。それをずっと気にしていたんだ二人も俺も…そしてこの件を知っているみんなが…でも、女王様はずっとそんなの気にしなくていいって伝えたかったんだ。ただ、自分の信じることを迷いなく進んでほしい。そういう思いが含まれているんだって
凛月「…頑張る…。」
女王「エンディング、楽しみにしてるよ」
凛月「月翔は幸せになれるの…?」
女王「エンディングを聞いたら面白くないでしょ?月翔を幸せにしてあげられるのは凛月だよ」
女王様はそういって綺麗に笑った。その笑顔でどれだけ救われてきたのか…もう数えきれなくなってしまった。きっと、彼女も俺が幸せを祈るように『Knights』の幸せを祈っているのだと感じた。
ずっと疑問だった。このドラマの意図はきっと俺たちの曖昧になっている関係をハッキリさせること。そして、どんな恋をしたとしても世間…周りの目を気にする事はないって事、結局自分の幸せを決めるのは自分自身って事だよね。昔あんたがそうであったように悩んで悩んで結果を出すのは…自分自身なんだよね。
凛月「…ふふ、ほんと世話好きっていうかお節介さんだよね。相変わらず」
女王「…仕事に戻ります」
凛月「ありがとうね」
女王「…別に、『友達』の幸せを願うのは普通のことでしょ」
凛月「うん、俺もあんたの幸せをずっと祈ってるよ」
女王「幸せだよ。もうずっと前から」
女王様はそう言うとこちらを見ずに去っていった。本当に高校の時から世話焼きさんだ。でも、それが嫌にならないのは彼女が持っているいいところの一つでもある。
だからちゃんと頑張るよ。このドラマも…美羽子のことも…
第七話
凛月「もう大丈夫、迷わないよ」
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