第三章 カーネーション
NameChange
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
4月から始まったドラマが中盤へと差し掛かってきた頃、物語は大きく動き出していた。
夜の仕事をしていることを隠していた晴翔はそれを知っているが、誰にも話す気配のない海咲に少しずつ気を許しはじめていた。そして、風邪で休んでしまった晴翔の看病をした時に寝惚けた晴翔にキスされてしまう…。
海咲『は…晴翔…さん…?』
晴翔「…わ…か……」
海咲『わか…?』
そのまま眠りにつく晴翔、そして彼の残した『わか』という言葉から他の女性と勘違いしてキスされたと思い、海咲は顔を真っ赤にして部屋を後にする。玄関を出ると、学校から帰ってきた月翔と会ってしまう。
月翔「…わっ…どうしたの…?そんなに急いで…」
海咲『…な、なんでもない…!』
海咲は急いで、自分の家へと入ってしまう。月翔は不思議に思いながらも自宅へと入る。月翔は人付き合いが苦手だ。けれど、いつも声をかけてくれる海咲のことは普通に接することができるし、嫌いじゃない。むしろ、何事にも一生懸命でこんな自分に笑いかけてくれる彼女のあんな表情を初めて見た。部屋に入ると、綺麗にされた部屋といつもは家にいない兄がいた。
月翔「にいちゃん…?」
晴翔「…つきと…か。悪い、自分の部屋で寝るから…。」
月翔「もしかして、海咲が看病してくれた…の…?」
晴翔「はぁ…?そんなわけ…」
言いかけた晴翔がバッと起き上がる。そして、焦った顔で玄関にかけて行ってしまう。月翔は、平然な顔をしていたが内心焦っていた自分の知らないモヤモヤの理由を理解することはできなかった。
『凛月…?次のシーン呼ばれてるよ』
凛月「んぁ……ふぁあ、ふ…」
『大丈夫そう?朝早くてしんどいの?』
凛月「うん、大丈夫だよ♪少し休んだら楽になった、いってくるね♪」
朔間さんとの撮影シーンを終えて、凛月ひとりのシーンの撮影に移行する。私は朔間さんと並んでそのシーンの撮影を眺める。
零「凛月が心配かのう?」
『そう…ですね。やっぱり、朝早い時間続きで体調悪そう…もちろん朔間さんもですけど』
零「…それもあるけど、ちょっといいかのう?」
朔間さんは手招きをして撮影スタジオを少しでたところへと案内される。二人向かい合って、朔間さんは少し真剣な顔で話し出す。
零「もう少しで、ドラマの分岐じゃ…そこでなんじゃが」
『…?はい』
零「我輩の……晴翔のエンディングを迎えたらやり直さんか」
『へ…?』
零「…未練がましいとは思うが、我輩は美羽子ちゃんのことが好きなんじゃ…」
『そんな…』
凛月「いいじゃん。」
『…凛月』
凛月「じゃあ、俺の……月翔のエンディングを迎えたら美羽子のこときっぱり諦めて」
『そんな!凛月、賭けごとみたいなことを…』
凛月「大丈夫、ちゃんと仕事はするよ。あくまでどっちかのエンディングを迎えたらって話」
零「……わかった」
『零さんまで!』
凛月と朔間さんは向かい合いながらお互いを見つめ合う。私はその間でハラハラと両者を見る。朔間さんはッフと笑って現場に戻っていく。私は凛月とふたり取り残されてしまう。
『なんでこんなことに…』
凛月「…ひとつの区切りをつけないといけなかったんだよ。俺もアイツも……」
『凛月?』
凛月「大丈夫、俺は月翔のエンディングになっても付き合ってなんて言わないよ。ただ、兄者に負けるつもりはないから。まだ、月翔は自分の気持ちに気づいてないけど変な性格の自分に迷いなくそばにいてくれる海咲のこと好きだってすぐに気づくよ。そのあとは兄になんて負けない。絶対海咲のことも視聴者のファンのことも落としてみせるよ♪」
『すごい自信だね…?』
凛月「ん〜…俺と月翔は似てるから…?なんだかそんな気がするんだぁ〜♪」
『似てる…?』
凛月「海咲と美羽子もソックリ」
『ほんと?』
凛月「うん♪バカみたいな反応するところとかねっ♪」
『へぇ⁉︎なにそれ…あっ!待って!』
凛月は私の頭をグシャグシャにて現場へと去っていった。まさかのことが多すぎて、頭が混乱してきているのを一気に真っさらにされたから、少し落ち着いて考えられそうだ…。けど、その前に…
『バカな反応って失礼すぎるっ!』
私はスタジオの端っこに体育座りして考え事を始めた。零さんがまさか自分とのことに未練というものを持っているとは思っていなかった。だからこそ、彼の言葉にあまりに現実味がなく受け止めるのに時間がかかってしまった。だからこそ、私より先に凛月が返事をしてしまった…。
もし晴翔のエンディングになったら…零さんとやり直せる…?…そんなことができるのだろうか。…私はどうしたいんだろう、やり直したいのかそうじゃないのか…。それとも…
『それとも…なんですか…』
私は、今自分が一番わからない。まるで、晴翔にキスされて困惑する海咲と同じだ。私の場合は零さんも凛月も自分を好いてくれていることがわかっている状態だけど…
どんどんと自分とヒロインである海咲との共通点が増えていき、海咲になりきるのではなく海咲が私自身になっていく。不思議な感覚に陥っていく。
最初は批判もあったSNSでも徐々に違和感がなくなったのか誹謗中傷のような発言は薄くなっていった。そして、話が進むごとに兄弟のどちらがいいか派閥が生まれ、エンディングを楽しみにする声が増えていく。
そんな中で度々出てくるのが「私が海咲だったら…」「海咲が自分みたいに…」というヒロインへの自己投影をする発言だ。もちろん、それを目的とした作品だからいいことのはずなのに…役者である自分まで役に飲み込まれてしまうなんて…こんなはずではなかったのに…この後のシーンやこの後の話数をどうこなしていけばいいのか…わからない…
『どうすればいいのぉ…』
第六話
『なんだか女王様の大爆笑が聞こえます…月永さん…』
→