第三章 カーネーション
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ついに、ドラマの撮影が始まった。
クランクインだ…、撮影のセットが整えば助監督が今日クランクインとなる役者の紹介をされる。私が最初に次に朔間さん、さらに凛月、私の友人役から舞台となるマンションの住民の役者まで定期的に出るメンバーの紹介がされる。
そして、監督の挨拶があってから撮影へと入る。メイクさんがメイクをなおしつつ、話しかけてくる。
メイク「こんなにイケメンが多いと誰かに惚れちゃうんじゃないの?大丈夫?」
『そんなこと言ったら、とっくに恋してますよ…でも、今回はテーマもあるからもしかしちゃうかもなぁ〜』
メイク「もう!そういって美羽子ちゃん色恋ないんだから〜」
『あはは〜、そんなそんな!』
朔間さんとのことが本当にバレていないんだと実感する。きっと、あの情報を知っているのはESとうちの事務所の上層部の人間と…。凛月くらいなんだろうと考えながら、ふと朔間さんの方を見れば監督と話していたにも関わらず同じタイミングでこちらを向いて手を振られたので振り返す。無視しても意味深になってしまうし、仲のいい共演者でいるべきだ。
『じゃあ、そろそろ行きます』
メイク「はい、頑張って」
メイクさんのもとを離れてセットに向かう。アシスタントさんが私に説明を始める。私演じる橘海咲(たちばなみさき)は、一人暮らしの大学生でこの作品のヒロインだ。趣味は少女漫画を読むことで、いつもな少女漫画のような展開が起こらないかと無意味に期待している。けど、本人はとても鈍いタイプで無意識に少女漫画のような展開を起こしているのに気づかない。そんな海咲の大学三年生の春休み、彼女に事件が起こる。家で、一人少女漫画を読んでいると家のチャイムが鳴る。漫画にしおりを挟んで玄関へと向かう。
海咲『はい…どちら様…?』
晴翔「隣に越してきた。神崎です。ご挨拶に…」
海咲『あぁ…どうも』
そこに現れたのは朔間さんが演じる神崎晴翔(はると)と凛月演じる月翔(つきと)の兄弟だった。
晴翔ははっきりとした顔立ちに少しつり目が印象的で、明るく人とのコミュニケーション能力が高い少し年上の男性、そして晴翔の後ろに少しだけ隠れて私を見ている月翔は少し甘い顔をしているが大きめの眼鏡をかけている、人とのコミュニケーションが苦手な同い年の男性だ。二人は遠い土地から引っ越してきて、周りのことがわからない、というのを海咲は私を頼ってくださいねというところから始まる。
歳が近いこともあってわずかな時間で晴翔と海咲は仲良くなっていく。
晴翔「すみません、長話をしました。月翔、お前も挨拶しとけって」
月翔「よろしく…」
海咲『はい、よろしくお願いします!』
それから、事あるごとに兄弟は海咲のことを頼るようになる。一般会社員だという晴翔と、少し離れた大学に通っている月翔は海咲と普段から話すような関係になっていく。そんな話をすれば、友達は大盛り上がりだ。少女漫画のような展開に気になる人を聞かれたり、どんな生活を送っているのかと事情聴取のように聞かれるが…
海咲『なかなかないって学んだよ…少女漫画のようにはいかないよね…あはは…』
友達「でも、イケメンなんでしょ?どっちが好みなの?」
海咲『そんな…好みとか…失礼じゃない…?』
友達「ほんとさぁ…少女漫画好きなのになんでグイグイいかないわけ?鈍感ラブコメヒロイン海咲〜!」
海咲『や〜め〜て〜よ〜』
大学の友達にからかわれながら、昨日あった話をする。その帰り道の出来事だった。夜も遅く、都内の夜の街へと消えていく晴翔の姿を見てしまう。まさか、明るくよく話す晴翔が夜の街に消えていく姿をついついジッと見てしまう海咲、女性と話していた晴翔がこちらを見る。悪いことをしていないはずなのに、謎の罪悪感に海咲は急いで自宅へと走る去っていった。
翌日、昨日見た晴翔の姿は今まで仲良くしていた晴翔から想像ができなくて戸惑いつつも気にしないようにしていた。しかし、ゴミ捨てをしようとした時だった。海咲の脳内をいっぱいにしている晴翔がゴミ捨て場から出てくるところだった。
海咲『お…おはようございます…』
晴翔「あぁ…おはよう」
顔を見たらダメだと思い彼から目を背けて挨拶をすれば、少し低い声で挨拶が返ってくる。心の中で「ゴミを捨てるだけゴミを捨てるだけ…」と唱えながらゴミ捨て場の方へと向かおうとするとバンッと目の前に知らない腕が行く手を阻む。
海咲『な…なんでしょう…その私はゴミを…』
晴翔「昨日見ただろ…」
海咲『なんのことだか…』
晴翔「みたな」
海咲『ぎゃああ!見ました!夜の街に消えていく晴翔さんと美人なボインのお姉さんを見ました!』
晴翔「……月翔には言うなよ。他にもな…もしいったら…わかってるよな?」
そう言って晴翔は脳みそに残りそうな笑顔で自分の部屋へと去っていった。私はゴミと一緒にマンションの廊下に取り残されることになってしまった。
海咲『こんなハズじゃなかった!こんなハズじゃ…!私はただ少女漫画みたいな恋がしたかっただけなのにー!』
大学三年生の春、橘海咲の望まない形で少女漫画のような展開は始まってしまったのだった。
そして、プツリとテレビの電源を落とす。私は、ソファーに沈み込む。
『少女漫画のような恋…、か』
私が演じる海咲の望む少女漫画のような恋と言うのは、一般人とアイドルが偶然知り合って噛み合わない二人が徐々に恋に落ちていくというもの、なのだが……そんな恋は存在しないよなぁ…。
一話が放送されることには二話三話と次のお話を撮影していく。撮影が進めれば進めるほど、海咲という女の子を演じるのが面白くなっていく。
SNSでは、『天使様』の名に相応しくない役だと賛否両論だった。エゴサ…、なんてものは普段しないのだけど私自身気になったのだ。この役は珍しい、普段は静かで大人しく微笑む役が多いのにこの役は喜怒哀楽が激しいしよく叫ぶ。反応は見ていて楽しいけど…私のイメージというものにはかけ離れている。でも…、演じていて楽しい。
もちろん、『天使様』である私を好きといってくれる人には相応しくない、似合わないと言われてもおかしくないことだけど、その反面新しい私の一面を見れて嬉しいやイメージを壊しているからこそその役の子がイメージしやすいなど喜ばしいコメントも多くあった。
そして、何よりもずっとやりたかった『天使様』をぶち壊すような役柄に当てはまっていた。だから、誰がなんと言おうとこの海咲という役は私の役だ。誰にも譲れる気がしない…。
第三話
『最後まで演じきってみせる』
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