第三章 カーネーション
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こんなハズじゃなかった。誰もがそういう経験をすることだって、あるはずだ。だから、今起こっている状況に私はどう反応していいかわからずにただ唖然と見ることしかできなかった。
年も明けて、ついに月永さんが脚本を担当するドラマの顔合わせ当日を迎えた。結局テンションが上がりすぎて役者陣を見ておらず、ただひたすら台本を読み込んでいた。どんなメンバーが来ても主役であるヒロインを演じきる。その一心で、今日まで過ごしてきたのだが…
凛月「おい〜っす、美羽子」
零「おぉ、美羽子ちゃん。おはよう」
『お、おはようございます…。』
メインキャストの席に座っていたのは、言わずと知れた朔間兄弟だった。朔間さんと久しぶりに会えたことを喜んでいいのか、それともこの兄弟にまた挟まれることを悲しむべきなのか…こんなハズじゃなかった。もっと、ESのアイドルから離れたような俳優陣に囲まれて月永さんの脚本をやるつもりだったのに…
零「去年はライブ来てくれてありがとのう。楽しめたかえ?」
『あ、はい!楽しかったです!『UNDEAD』のファンになりました!今度は一般チケットで見に行きます!』
凛月「それより先に『Knights』のライブ見に来てよ〜『UNDAED』より絶対最高の時間にするからさぁ〜」
『だって、凛月チケットくれないから…』
凛月「あげたら、俺の団扇ふってくれる…?」
『凛月の団扇あるの…?』
零「…随分、仲が良いんじゃな」
『えっ…あぁ、2年前のドラマから結構会うこと多くて、でもタメ口になったのは最近なんです。』
零「そうか、我輩にもタメ口でええんじゃよ?」
『えぇ〜、朔間さんは年上だから』
凛月「俺らは同い年だもんね〜」
『ね〜』
なんとか、前と同じようにやり取りをする。朔間さんも最初は緊張していた感じだったけど事情を知っている凛月がいたおかげでなんとか普通にやり取りすることができている。
話している間に、スタッフ陣が集まり始めて最後に見知った女性が入室し監督と話し始める。その様子をみんながジッと見つめる。
すこし話してからふたりはそれぞれの席につく、すると助監督が立ち上がり仕切りながら、監督から順番に挨拶をしていく月永さんはその間も何かをずっとメモしている。
助監「月永さん…あの…よろしければご挨拶を…」
女王「脚本家の月永です、頑張ります」
月永さんは必要最低限の内容を述べて、またメモを続けた。すると、隣の凛月がクツクツと笑いだす。そしてもう片方の隣にいた朔間さんは口元を隠して肩を揺らしている。あぁ、月永さんって現場だとこんな感じなのだと察する。他のスタッフも特に触れることなく話を進めていく。助監督から監督へ話が移る。撮影のスケジュールやスタッフの打ち合わせの話をしていた。私はその間も初めて見る月永さんの仕事姿を見ていた。
ふと、月永さんが顔を上げて目が合う。見つめていることがバレてアワアワしていると月永さんは笑顔で手を振ってくれた。私もそれに応えると、監督が月永さんを注意する。その流れで月永さんが脚本の内容を説明することになる。
女王「それでは、脚本の内容についてご説明いたします。
主人公は橘海咲という一人暮らしの女性とその隣に引っ越して来た神崎という兄弟です。
ふたりに挟まれたひとりの女の子を取り合う、できるだけ伏線のないシンプルなラブストーリーを書くつもりです。ただし、どちらのエンディングを迎えるかはSNSのアンケートを通じて決定します。」
その瞬間、ザワッとする。月永さんはメモしていたノートをバンっと叩き一瞬で静まる。
女王「とにかく、私がやりたいのは視聴者がキャラクターに感情移入できるドラマの制作です。制作陣にワガママを通しまくって金をかけてるので役者陣には頑張ってもらわないと困ります。
死ぬ気でやってください。そして、できるだけ放送中にはSNSでの発信をお願いします。」
凛月「おぉ…こわ…」
零「顔が笑っておらんのう…」
月永さんのこのドラマへの意気込みがわかる。このドラマはどうやら月永さんの新しい挑戦なんだ、だから役者陣も月永さんの推薦がかなり採用されている。しかし、それを否定することもできないほどに完璧な人選なのだから製作陣も納得したのだろう。
女王「この作品は、私たちと視聴者で作る作品です。完成までよろしくお願いします。」
監督「それでは、この後は本読みに入るので一度休憩に」
そういって、時間を告げてみんなが休憩に入る。私は月永さんのところへ行こうとすると隣にいた凛月がそれを止める。そして、朔間さんが立ち上がって月永さんの方へ行く。私は、凛月と一緒にそれを見る。
二人は楽しそうに話して、ついついジッと見てしまう。
凛月「ねぇ…未練あんの?」
『…未練、あるのかなぁ…』
凛月「……」
『でも…また共演できて嬉しい。もちろん、凛月とも一緒にドラマができて嬉しい!』
凛月「そう…」
『凛月?』
凛月「俺も嬉しいよ。兄者がいるのは嫌だけど、美羽子と共演できて」
『…うん!』
凛月と会話していると、朔間さんは隣に戻ってきていてさっきまで話していた月永さんはいなくなっていた。一部のスタッフも帰り始めて主要なメンバーだけが残っているなかで、本読みが始まった。
こんなハズじゃなかった…だけど、何かのきっかけになりそうなそんな予感がしていた。
第一話
『残酷だけど、それがまた良い』
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