第二章 カルミア
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*零said
なんだか、おかしい。晃牙の様子が明らかにおかしい。
何故かというと、さっきから水をがぶ飲みしながらこちらをチラチラと見ているからだ。
零「なんじゃ、晃牙。言いたいことがあるなら早く言うがよかろ」
大神「…な、なんでもねぇよ!勘違いすんな!」
乙狩「大神、水が溢れている。衣装にかけたら怒られるぞ」
アドニスくんに注意され、「うがああ」と声を上げながらタオルで水を拭く晃牙。いったい、なぜそんなに焦っている…動揺しているのか意味がわからん…。
零「薫くん、晃牙が何を隠しておるか知らんかのう?」
羽風「え〜?何も聞いてないけど、晃牙くん何かあったの?」
零「そうか…、まぁ本番しっかりやってくれればいいがのう」
大神「当然だろ!あんたに言われるまでもねぇ!……と、俺少し出てくる」
羽風「ボイコットはなしだよ〜?」
大神「戻ってくるに決まってんだろ!」
晃牙はそう言って楽屋から出て行く。珍しい誰かに呼ばれたのか電話片手に出て行った晃牙の顔は少しニヤニヤした顔をしていた。すると、薫くんが嬉しそうに話し出す。
羽風「晃牙くん、楽しそうな顔してたね〜♪好きな女の子でもくるのかなぁ♪」
乙狩「大神は好きな人がいたのか…」
羽風「予想だよ。よ・そ・う♪」
薫くんの言葉にふと『あの子』の事がよぎる。あの子は元気にしておるじゃろうか、別れて一ヶ月いつも対面で会っていたあの愛らしい笑顔は今や画面越しでしか見ることはできなくなってしまった。彼女は今もいろんな男や女とどんどん知り合って我輩が見たことない顔をしているのだろう。たった一ヶ月、されど一ヶ月…自分の知らない彼女がいると思うと胸が熱くなる。
するとボーッとしていたのか、薫くんが目の前で手を振る。
零「すまんすまん、どうかしたのかえ?」
薫「い〜や、浮いた話って結構零くん好きでしょ?話に入ってこなくて珍しいなって」
零「そうかのう?…まぁ、わんこにも春が来ても可笑しくないじゃろう♪男の子じゃしな…」
薫「うんうん♪あの子の好きな子が来てるならファンサービスしなきゃね♪」
零「これこれ、あまり偏ったファンサービスは『アイドル』らしくなかろう。平等に愛を与えるべきじゃ」
乙狩「あぁ、ライブ中はファンの方に幸せになってほしいな」
…あの子がもし、付き合う前や付き合っているときにライブにきてくれればこうやってみんなと会話できたのか、と思ってしまう。あの子には可哀想なことをした。2人の立場を守る為とはいえ、制限をかけすぎて楽しい思いをさせてやる事ができなかっただろう…。
もう、後悔しても遅い事なんじゃがな…。少し落ち込んでいると出て行ったはずの晃牙がドアから顔を出していた。
大神「おう、そろそろ出番だってよ。いこ〜ぜ」
羽風「晃牙くん、誰のとこに行ってたの〜♪彼女?」
大神「ちげ〜よ、知り合い。この間世話になったからお礼にチケットやったんだよ」
羽風「へ〜そんな気を遣えるようになったなんて、俺嬉しいよ〜!」
大神「やめろよ!抱きつくな気持ち悪りぃ!」
零「我輩も嬉しいぞ、我が子がこんなに成長しておる事実がのう…」
薫くんが、ふざけて晃牙に抱きつく。我輩もふざけて「おーいおいおい」と泣きながら晃牙の頭を撫でる。我が子の成長のように思えて、なんだか嬉しくなってしまう。この子が誘ったお客様にも『UNDEAD』のライブを楽しんでもらおうじゃないか、と意気込む。
ライブ前に4人が集まって円を作る。
零「よし、それでは今日も夜闇にお客様を誘おうぞ。We areーー」
「『UNDEAD』」
大神「よっしゃ!大暴れしてやるぜ!」
羽風「会場の女の子み〜んな虜にしてあげよう♪」
乙狩「行こうーー」
零「あぁ、楽しい時間の始まりじゃ」
それぞれが立ち位置につけば徐々に足元がせり上がってくる。その流れに身をまかせるために目を閉じる。流れる音楽を聴きながら、動いていた足元が止まった瞬間目を開けば、そこには『UNDEAD』の色のペンライトが一面に広がっていて菖蒲色の海が広がっていた。
しかし、いつもなら一番に目に止まるのはファンの笑顔のはずなのに…一番に見えたのは、いるはずもない美羽子の姿だった。
羽風「ちょっと零くん!踊り怠けないでよね!」
零「……っ!すまん!持ち直そう」
幻覚、そうだ他人の空似に違いないと気を逸らしてパフォーマンスに集中する。ファンにサービスをして、笑顔を与えなければならない。それが我輩たち『アイドル』の仕事だ、怠ることはあってはならない。ファンに最高のひと時を与えなければならない…。
零「あっ……」
やっぱり、ダメだ。彼女に目がいってしまう、間違いない。変装していようと、我輩があの子を見間違えることはない。隣に凛月がいるのが謎だが、それでも彼女が…我輩の…『UNDEAD』のライブに来ている。それだけで、もう自分の世界には君と我輩だけだ。
すると、晃牙の団扇を一生懸命に振って晃牙にアピールしていた君が、ふと我輩の方を見る。精一杯笑って手を振って見せれば、彼女の周りがザワッと歓声をあげる。彼女は団扇で顔を隠してしまう。届いた…一ヶ月ぶりに見る美羽子だ。
可愛い……、他の奴を見ているのは気にくわないけれどその喜んでいる顔も、目があった時に「あった」と驚く顔も、手を触れば純粋な女の子のようにはしゃぐ姿も…付き合っていた頃と何も変わらない。あの子のままだ。
あんなに喜ぶのであれば、早く連れて来てあげるべきだった。もっと早く見せてあげればよかった。
…後悔と喜びを胸に精一杯パフォーマンスを続けた。できるだけ、彼女を気にしすぎず…、それでも彼女にいいところを見せられるように。今まで見せられなかった分存分に見せてやろう『アイドル』の朔間零をーー。
第九話
零「どうじゃ、これが『UNDEAD』じゃ」
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