第二章 カルミア
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初めて訪れる『UNDEAD』の開場前のライブ会場に私は戸惑っていた。様々なファッションの女の子がそれぞれ好きなアイドルの団扇やタオルなどのグッズを身につけ、歩き回っていた。
いつもなら、仕事の都合でギリギリに入場するのでこのような光景は他のアイドルでもあまり見ることはなかったので焦る。
彼女たちが、今から朔間さんたちのライブを見てどんな感情になるのか…笑って泣いて…緊張して…どんな表情になるのか…役者として知りたい自分とあの中に入る勇気が私にあるのかと怯える自分がいた。戸惑っていると、誰かに腕を捕まえれ振り返る。
凛月「ちょっと!有名人があんまりウロウロしないでくれる⁉︎まじで馬鹿じゃないの⁉︎」
『り…凛月…』
凛月は、掴んだ腕を引っ張ってすぐに関係者だけが入れる入り口に連れて行かれる。でも、私は別にライブ関係者でもなければ凛月のように出演者に兄弟がいるわけでもないので躊躇う。
凛月「大丈夫だから、せめてコーギーにだけ挨拶しよ。」
『こ…コーギー…?』
凛月「大神晃牙、チケットくれたんでしょ?」
『あ、うん…』
凛月にされるがままに関係者入り口から入って楽屋がある方へと進んで行く。道の途中、凛月は誰かに連絡していたけどきっと大神さんに出てくるようにお願いしたんだと思う。
少し進んだ廊下には大神さんだけが立っていて、私たちを見つけたら片手をあげて「おう」と声をかけてくれた。
大神「美羽子、来るの早かったんだってな」
『あっ…おはようございます!チケットありがとうございます!楽しみでつい…』
大神「楽しみなのはいいけどよぉ…お前ファンの中にいたんだって?度胸あるよな」
『…私も、ファン…なので…』
凛月「にしては、戸惑ってますってオーラすごかったけどね」
『あれは…!…まだまだ勉強不足だっただけ…です…』
大神「まぁ、楽しんでいけよ。来たこと、ぜってぇ後悔させねぇから」
『は…はい!大神さんの団扇も買ったので!全力で振ります!』
そう意気込んで買った団扇を見せれば、凛月と大神さんは「ぶはっ!」と笑う。驚いて2人の顔を交互に見れば凛月が私の頭を撫でる。
凛月「あははっ!本当に面白いよね、美羽子って」
大神「…ははっ!ありがとうな!ファンサービスしてやるよ!」
『それは…ファンの人に…』
大神「今日は、お前もファンなんだろ?」
『…!はい!』
そう言って、大神さんは私の頭をひと撫でして廊下の奥へと消えていった。凛月は大神さんが見えなくなると「行こうか」とまた腕を引いてくれた。世間話をしている間に、会場前にいたファンの皆さんのほとんどが入っていて、そこはもぬけの殻と言えるほどに人がいなくなっていた。私たちはそこから関係者チケットで会場に入り、自分たちの座席へと向かう。その途中、あるものを目にして引かれる腕を引き止める。
凛月「なに?」
『あれ…プレゼントボックス?』
凛月「そうだけど…」
『朔間さんの…どれ?』
凛月「……あとで会うんだよ?」
『ううん、会わないよ。ファンだから、会ったらダメなんだ』
凛月「そう…じゃあ、あれ…一番端の3箱、全部兄者の」
『え…全部?』
凛月「そう、全部」
凛月が指差すほうには箱いっぱいに積み上げられたプレゼントの山をに驚く。ファンの皆さんが入れたであろうその山にはブランドものもあれば、百貨店の袋、某有名雑貨店の袋も入っていた。様々な人が『朔間零』というアイドルのことを思って、自分の時間を彼に費やした証拠だ。そして、何より彼というアイドルが愛されている証拠だ。私は、そんな愛情のこもったプレゼントの上に未練で買った愚かなプレゼントを乗せる気持ちになれず、箱の横に寄り添うように自分のプレゼントを置いた。
そして、待っていてくれた凛月のもとに戻って自分の座席へと向かった。
凛月「アイドルのライブって初めて?」
『いや…、何回か共演者のライブには行ったことあります…。ただ、こんなに余裕をもって来たことはなくて会場前のファンやプレゼントボックスや…初めて見ました。
すごいですね…開演を待ってるお客さんみんな笑顔で…ワクワクしてるのが伝わって来ます…。』
凛月「そう…それで、俺たち『アイドル』はこのワクワクを幸せに変えてあげるのが仕事なんだ」
『…そうなんですね…。』
凛月さんはそう言って会場を見渡す。その顔にはこの『アイドル』という仕事に対する自信とやりがいを孕んでいた。
役者だってそうだ。公開を楽しみにしているファンに作品を楽しんでもらうために一生懸命演じて、作品の素晴らしさを伝えたい。それが伝わった時に自分自身も喜びを感じることができる。幸せを与えて幸せをもらう、そんな関係なんだと思う。
役者もアイドルも同じ…。ファンに支えられて、ファンを支えたい。そして、幸せをあげて、幸せをもらっている。それを表現する場所が違うだけ…。
『いつか、凛月のライブにも行ってみたいな』
凛月「…うん♪『Knights』のみんなも美羽子がきたら喜ぶと思う」
『…そっか、月永さんにも会いたいな』
凛月「…俺じゃなくて女王様か…なんか妬けるんだけど」
『…嘘だよ!凛月の団扇振り回しに行く!』
凛月「…『Knights』は振り回すような曲ないけど」
『…残念…』
凛月「でも、今度おいでよ。最高のひと時をプレゼントするよ」
『…うん!』
そんな会話をしていると、会場が暗くなって先ほどまで見ていた会場が紫一色に染め上がる。そして、スモークと一緒に『UNDEAD』の4人が登場する。
そこにはもちろん一ヶ月テレビでしか見ることのなかった。
『朔間零』がいたーー。
歓声が鳴り響くなか、なぜか彼と目が合った気がした。
第八話
『こんなに遠いのに気のせいだよね』
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