第二章 カルミア
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私と月永さんは隣同士で座って話出す。飲み物やお菓子を自由に取ることができる。休憩スペースを月永さんは慣れたようにお茶を入れ、お菓子を持ってきてくれる。隣に座った月永さんは静かに私の話を聞いてくれた。
『実は、凛月さんを怒らせてしまったみたいで…
とある事情で、ずっとある人のお願いで傍にいてくれているんだと思ってて…それで…あの…』
「零さんと付き合ってたんだよね…?」
『そ……そんなことないよ…?』
「あぁ…大丈夫だよ。零さんから聞いてるの…、他の人間に言うつもりもないし」
『朔間さん…から…?』
まさかと思った。朔間さんが、他の人にましてや凛月さん以外の人にこの関係を話してるなんて思っておらず驚く。私が悲しそうにしてたのか、月永さんが「違うの!」と焦った声をあげる。
「あの…二人の演技を見てたらわかって…。それを零さんに冗談のつもりでからかったら…認められちゃって…」
『…あはは…すごい…ですね…』
「ごめんね、自分の作品は何度も見返す癖があって…」
『いえ、それで…えっと…』
「零さんと付き合ってて、別れるときに凛月が迎えに行ったんだよね?」
そこまでバレているとは思わず、また驚くことしかできず月永さんを凝視する。月永さんは苦笑いして私を見つめる。
「実は、零さんと凛月の間によく入ってて…2人は何かと…いや、凛月が一方的にあたりが強くて…高校の時からあの兄弟には何かとお世話になってるから…でも、大変だったよね。雑誌の件、会議に参加したけど…役者の売り方でプライベートの恋愛まで左右されるなんて私も思ってもなくて…。
私が言うのも変だけど、零さんもきっと別れたくなかったと思うし、もちろんお互いちゃんと好きだったと思う…。でも、2人が決めたことが正解とも不正解とも言えないけど…でも無理はしないで?大丈夫だよ、天崎さんは間違ってないと私は思う。とても悲しい事だけど……!私いつでも話聞くので…私の口めちゃくちゃ固いので!」
『…はい…はいっ…』
私はまた流れた涙を隠すように下を向く。すると、月永さんが頭を撫でてくれてゆっくりと抱きしめてくれた。それが暖かくて、もっと涙が溢れてきた。きっと朔間さんも別れたくなかったって誰かから言われることで支えられた気がした。この別れを誰かに肯定して欲しかったのかもしれない。間違ってなかったんだよ、大丈夫だよって言って欲しかったのかもしれない…。
『それで、ずっと凛月さんが傍にいてくれたんです。きっと朔間さんが気を回してくれて、私がおかしくならないように凛月さんを傍に…って思って、凛月さんに「もう大丈夫だよ」って言ったら凛月さんが怒っちゃって…!でも、どうしてかわからなくて!…でも『Knights』の皆さんといる凛月さんは今まで見たことないくらい幸せに笑ってて…!』
「…あの子も男の子なんだよ。」
『っへ?』
「…天崎さんだから言っちゃう、零さんと天崎さんが別れることになった時、実は凛月が傍にいて…、すごく悩んでた。いつも収録をそつなくこなす凛月がボーッとマイクと見つめ合うほどには」
『マイクと見つめ合う…』
「そしたら、凛月が珍しく弱音をはいてたの。どうしていいかわからないって…でも私が思ったことを言ったら、自分なりの答えを出したみたいだよ?」
『答え…』
「だから、答えを出した彼の事ちょっと見てみてください。あの子なりに頑張ってるから…、それと天崎さんの隣にいる凛月もすごく幸せそうに笑ってるよ。それこそ私が見た事ないような幸せそうな顔で笑ってた。
だから、あの子の前でもっと笑ってあげて…?そしたら凛月も笑うよ。それと、凛月は自分から望んで天崎さんの傍にいるから、守りたい子ができたんだってそう言ってた。…あ、私が言ったことは内緒ね?」
『え…あ、はい…』
月永さんはそう言うと、「そろそろ時間なので」と笑って休憩スペースから去っていった。私は呆然とその後ろ姿を見つめる。
『守りたい子できた』という言葉、月永さんから見た凛月さんは幸せそうに笑っている…凛月さんは自ら望んで私の傍にいる…?月永さんのいっていた言葉を繋ぎ合わせてなけなしの脳みそで働かせる。
凛月さんは自ら望んで私の傍にいて、月永さんから見れば私の傍にいる凛月さんもみたことのない笑顔で笑っている…凛月さんが「守りたい子ができた」と言っていた…それが、私…?
『それって…凛月さんが…』
凛月「美羽子!」
『あっ…り…凛月さん…』
凛月「急にいなくなるから、あんずが心配してたよ。」
『す…すみません』
凛月「…?何かあった?顔が赤いけど…」
『いえ、何も…』
自分が導き出した自意識過剰な答えが脳内でいっぱいでまともに凛月さんの顔が見れなくなってしまった…。あんなに怖い顔をしてた、凛月さんが私にそんな…恋心を持っているなんて、思えない…
…凛月さんが、私と一緒にいるときにそんなに優しい顔をしていたのかもよくわからないし…、混乱してしまう…。
凛月「…ちゃんと俺の顔見て?何もないようには見えないけど…?」
『えっと…その…知りたいんです…。凛月さんが、私の傍にいる理由が…』
だから、もっと知りたい…。凛月さんの本心を、凛月さん自身のことを…もっともっと知りたい。
凛月「傍にいる理由…?そんなの一つしかないよ」
『一つ…?』
凛月「美羽子が心配だったから…ううん、俺が傍に居たかったからかな?」
『そんな…勘違いされちゃいますよ…失恋後の女の子は揺らぎやすいんですから…』
凛月「勘違いしてくれてもいいけど…?」
凛月さんはいつもみたいにからかったような…それでいて優しさも含んだ、そんな甘い表情をしていた。自意識過剰でなければ、もしかして先ほど導き出された答えが事実なのではないかと、私の脳内がざわつく。
『凛月さん…えっと…その…私…』
凛月「ストレートに言わないとわからない?」
『…何をですか…』
凛月「好きなの。美羽子のこと、2年前から」
『2年前から…』
凛月「そう…別に答えは急がないけど、今度からそういう目で『朔間凛月』のことを見てね」
『え……へっ…?』
凛月さんは私の手を取り、会場へと歩いた。私の脳内はお祭り騒ぎしていた。…というより情報処理が追いつかないで混乱しているだけだった。顔を上げると、凛月さんは楽しそうに笑っていた。あっ…さっき見た笑顔と似てる…。そう思うと、私も自然と笑顔になった。
第五話
『今は私がその笑顔を作ったってことでいいんですよね…?』
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