第二章 カルミア
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朔間さんと別れて、約一ヶ月が過ぎようとしていた。気持ちの整理は正直まだついていないけど彼とは事務所を通して少しの間距離をおきましょうということで話がついている。
その、少しの間っていうのがどのくらいの期間をさすのかはわからないけれど、今年いっぱいは彼に会うことはないと思う。
『今日…誕生日だったのに…』
今日…11月2日は朔間さんの誕生日だった。もし、まだ付き合っていれば…、きっと一緒に過ごしていただろう。一緒にお祝いして、ケーキや彼の好きだったワインを飲んでふたりで夜が明けるまで語り合って…と考えていると視界が揺らぐ。ダメだ、忘れるといったのに全然忘れられてない。未練タラタラだ…会えるわけもないのにプレゼントを用意して、これをどうすればいいのかとなぜか現場にまで持ってくる始末だ。
メイクさんにも大丈夫かと何度も確認された。その度に大丈夫と笑えば苦笑いされる。きっと大丈夫って顔じゃないに違いない…。
収録が始まるのに…、「はぁ…」とため息をこぼせば楽屋の扉をノックする音が聞こえる。メイクさんが私の方を見て、確認するのをコクリと頷いて許可すればメイクさんが代わりに「どうぞ」と声をかける。
朱桜「おはようございます。天崎 美羽子さんにご挨拶に伺いました。」
『朱桜くんですよね…?おはよございます!』
朱桜「はい!お久しぶりです。もうすぐ先輩方もいらっしゃいますので」
朱桜くんがいう先輩方に?を浮かべていると、開いた扉から見知った顔が現れる。
凛月「おい〜っす、美羽子昨日ぶり」
『凛月さん、おはようございます!』
鳴上「おはようございます♪今日はよろしくお願いします〜!」
瀬名「おはようございます。よろしくお願いします」
『瀬名さんに鳴上さんも…おはようございます!今日は『Knights』さん大集合なんですね!』
凛月さんに瀬名さん、鳴上さんと続いて入ってくる。今まで悲しい雰囲気だった楽屋が一気に明るくなる。助かった、と思いつつ世間話に花を咲かせていると、廊下から『Knights』の皆さんを呼ぶ声が聞こえる。
月永「お〜い!お前ら迷子になるなよなぁ…!探したぞ!」
瀬名「迷子になったのはあんたでしょ?天崎さんのところに、挨拶行くって言ったじゃん」
月永「お〜!『天使様』だ!おはよう!そしてよろしく!」
『つ…月永さん…おはようございます。こちらこそよろしくお願いします。』
月永「今日はバラエティだよな!負けないからな!あはは☆」
『あっ…はい!私も負けません!』
そうやって意気込めば、皆さんが笑う。あぁ…なんとか今日も仕事ができそうだと自分も笑う。よかった、『Knights』の皆さんが来てくれて…
『そういえば、瀬名さんお誕生日ですよね…?おめでとうございます!』
瀬名「…え?あぁ…ありがとう…」
凛月「セッちゃんもやっと21ファミリーの仲間入りだねぇ♪今日はお祝いなんだぁ♪」
『お祝い…いいですね♪楽しんでください!』
瀬名「……天崎さんも、くる?」
『え…いや、『Knights』の皆さんで楽しむ場所なのでは…?』
月永「いいじゃんいいじゃん!主役がこう言ってるわけだし来ちゃえよ!」
鳴上「お祝いごとは多い方が楽しいわァ…?嫌じゃなければいらっしゃいよ!」
朱桜「はい!天崎さんとはなかなか会う機会も多いですし、ぜひいらしてください!」
『そんな…私なんて…』
皆さんがグイグイ押してくるので困惑していると、隣にいた凛月さんが私の肩を掴み顔を寄せる。
凛月「いいじゃん、どうせ一人でしょ?おいでよ、楽しい日はみんなで祝ったほうが幸せだしね」
『凛月さん…?』
凛月「それとも、先約があった…?」
『…ない…です。』
凛月「じゃあ、決まり♪」
凛月さんは笑って私から離れた。了承すれば、鳴上さんが「あとで会場連絡するわね♪」と言って『Knights』の皆さんは自分たちの楽屋へと戻っていった。きっと、凛月さんなりに気を遣ってくれたんだって思って椅子に座りなおせば、微笑ましくやり取りを見てたメイクさんが「表情柔らかくなってる、よかった」と言われて、確かに気持ち楽になったなと感じる。
今日の仕事はなんとか乗り切れそうだと心穏やかに楽屋での時間を過ごした。
そのあとの収録も上手くいって夜になるまでの時間に余裕ができた。マネージャーにお願いして、少し高めのブティックへ行って瀬名さんへの誕生日プレゼントを吟味する。
瀬名さんはたまに雑誌のお仕事でご一緒することもあるし、モデルとしては有名な方だ。きっと私なんかよりセンスがあってプレゼントもみんな拘ったものをあげるに違いない…。私も少しでも喜んでもらえるものをあげたい…せっかく大切な誕生日を祝うことができるなら瀬名さんに一秒でも多く笑ってほしい…。
『これ…か…これ…う〜ん、瀬名さんって何が好きなんだろ』
凛月「セッちゃんはね?ゆうくんが一番好きなんだよ?」
『ふみゃっ!』
凛月「ふみゃあ…?」
『り…りつさん…なんで…』
凛月「今日まで時間なくてセッちゃんのプレゼント選びしてたんだけど、ちょうどいいところに見知った後ろ姿があったからさぁ…」
『…そう…ですか…』
凛月「うん♪そっちもプレゼント選び…?」
『はい、どうせなら喜んでもらえるものがいいですし、撮影も早く終わったので…』
凛月「へぇ〜、にしてもセンスいいね。この店セッちゃん結構好きだよ」
『そうなんですか⁉︎じゃあ…持ってるものも多いかな…』
凛月「ちなみに、今見てたネックレスは持ってるの見たことない。でももう一個のブレスレットは見たことある」
『…っ!助かります!じゃあこれにします!』
急に現れた凛月さんの的確なご意見を参考にして、プレゼントを決めることができた。シルバーのネックレスが綺麗で瀬名さんっぽいなと思っていたのだけど、持っていないのならばこれにしてしまおう。私は迷うことなくレジにそれを持っていき、プレゼント梱包をお願いしそれを待っていた。
凛月「それで、その紙袋は誰へのプレゼントなの…?」
『これは…貰い物です』
凛月「へぇ…男物のブランド貰うなんて、相手はセンスがないねぇ…」
『凛月さんは、優しいのか意地悪なのかよくわかりません…』
彼は、私のこの紙袋の中身が誰に宛てたものなのかを知っているに違いない。それなのに、こうやって話してくるのは私からしたらただの意地悪に過ぎない…。
『渡せないことはわかってるんです…。でも、誕生日だって思うと買わなきゃって思って…。』
凛月「ファンの人と一緒だね」
『えっ…』
凛月「ファンの人ってさ…家族でも、友達でもない…でも『アイドル』っていう一人の男を愛してくれて、応援してくれる。
イベントがあると、プレゼントを買ってくれてお手紙を書いてくれて…その一言に俺は勇気や希望をもらえる。そのプレゼントで笑顔になれる。俺のことを見てくれてる人がいるっていう証拠だからね…。嬉しいよ…それと一緒でしょ?応援してる男に買ったんでしょ…?悪いことじゃないし、むしろいいことだと思うけど」
『……そう…ですか…あはは、凛月さんってすごいですね…嬉しいです。そう言ってもらえて…』
凛月「俺は、本音を言っただけだよ。ほら、梱包のやつ呼ばれてる」
凛月さんは私の背中を押す。凛月さんの一言にだいぶ救われた、そうだこれは『朔間零』の一ファンとしてのプレゼントだから、いつかライブに行けた時にプレゼントボックスに入れておこう。そうすれば、彼にスムーズに渡すことができる。朝から悶々と悩んでいた問題が凛月さんのおかげで解決することができた。
私はレジに行き、梱包されたネックレスを確認しそれを入れた紙袋を受け取る。凛月さんのもとに戻れば「目的地一緒だし、一緒に行こうか」と言われコクリと頷く。
そのまま、ふたりで目的地へと向かう車に乗り込んだ。
第一話
『凛月さんは不思議な人ーー。』
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