第一章 スカビオサ
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*凛月said
俺らが20歳になった年に、月ぴ〜は念願の結婚を公表した。女王様はずっと気にしていたけど、今の所ふたりとも幸せそうだしいいことだと『Knights』一同暖かく見守っていた。
そして今年はついに全員が夢ノ咲から卒業し、セッちゃんも女王様も本格的に活動拠点を日本に移し、月ぴ〜は『王さま』を再び賜ることとなる。
そんなある日、俺たち『Knights』は新しいアルバムの収録のためにESの中にあるスタジオに集まっているはずだった…。
凛月「おい〜っす…って、女王様だけ…?」
女王「おい〜っす」
そこには、『Knights』のメンバー全員ではなく新曲の作詞作曲を担当した女王様だけがセンターの椅子に座って寛いでいた。いつも一緒にいる月ぴ〜でもなく、時間通りにくるス〜ちゃんでもなく、女王様たった一人だった。
凛月「珍しいね、一人なんて」
女王「聞いてないの?今日凛月が先録りだよ。全員集まらない日だよ?スケジュール見た?仕事してる?」
凛月「ひどくない…?」
女王「うそうそ、今日はスケジュール合わなくてバラバラの収録なの」
凛月「ふ〜ん…じゃあよろしく♪」
そう言って準備すれば、中で機器の調整をしていたスタッフがそれぞれの椅子に座る。俺もブースに入る。彼女が帰ってきて『Knights』の調子は上々だ。
今年は特に全員卒業しフルメンバーになって本格的な始動だった。くわえて、曲も毎回のように新曲を盛り込むこともできて、順調そのものだったけど、俺の中には『とある問題』が燻っていた。美羽子のことだ、あのドラマ以来よく共演することや番組で一緒になることも増えた。会うたび会うたびにどんどん綺麗になっていくあの女の子に心惹かれると同時に、その理由が『兄者』ってことがとても気に入らなかった。
けれど、彼女への恋心はきっとあのドラマの時からだったと思う。あの時、兄者に惹かれていることも兄者が彼女に惹かれていることも遠目に見ている俺にはバレバレだった。だから、彼女には「やめとけ」と言ったし、付き合ってから兄者へのあたりは今までにないくらい冷たくなった。
けど、昨日そんな兄者から珍しく電話がかかってきた。いつもなら出ない…というか出ないことをわかっているから、かかってもこないはずの兄者からの電話で…珍しさからか、その時は通話ボタンを押してしまった。
凛月「…なに」
零「すまんな、凛月。急に電話をかけてしまって」
凛月「用事、あるんでしょ…?」
零「あぁ…実はな、美羽子とのことを撮られてしまった」
凛月「なにそれ…まずいじゃん…どうするの…?別れるの…?」
零「…あぁ。そのつもりじゃ、きっとお互い今の職から離れることもできん。それに、『天使』と『悪魔』は一生混ざることはできんじゃろう」
凛月「本当に、それでいいの…好きなんじゃないの、美羽子のこと」
零「…好きじゃよ、愛しておる。けど、我輩も美羽子も世間に立ち向かえるほどまだ強くない。それだけじゃ…」
凛月「なんだよそれ…」
零「…そこでな、身勝手なお願いとわかってなんじゃが、あの子のことを頼む。凛月」
凛月「はぁ⁉︎なにそれ、本当に身勝手じゃ……勝手に切るなよ…」
兄者はそれだけ伝えて、通話を切った。俺は通話が切れた画面をただ見つめることしかできなかった。頼むってなんだよ…。
するとヘッドホンから女王様の声が聞こえてきて、ハッと意識が戻る。あ…今収録中だったと思い出す。
女王「凛月…、休憩しようか。」
凛月「ごめん。頭冷やすね…」
俺は、スタジオから出てビルの非常階段にポツンと座り込む。今まで、何があってもこんなに冷静でいられなかったこともない。けど、むしろ冷静なんじゃないかなってほど静かに混乱していた。
昨日の兄者の言葉が頭を永遠にループする。任せるって何…無責任にもほどがあるんじゃないの…
女王「凛月?珍しいね、こんな隅っこにいるなんて」
凛月「女王様じゃん…何?追っかけてきたの?」
女王「…う〜ん、まぁそんな感じ」
女王様は俺の隣に腰掛けて、俺の方を見る。わかってるよ、あんたはいつもそうだ。俺の考えることをすぐに読み取って、気づいちゃう。学生の時からそうだ…女王様はいつも…
凛月「ほんとさぁ…月ぴ〜と別れて、俺のお姫様にならない?」
女王「……はい?何、急に」
凛月「女王様ってさぁ、ほんと俺のことなんでもわかってくれるし多くを語らなくてもいいし、助かるんだよねぇ…一緒にいても苦じゃないし…」
女王「………はぁ〜っ、まったくさぁ…私を都合のいい女扱いしないでくれる?これだから美形は困るよねぇ」
凛月「…そんなつもりはないんだけど…」
女王「…凛月はさ、本当は自分がどうしたいかわかってるんでしょ?それを考えるのが面倒で…踏む込むのが面倒で、それをしなくても大丈夫な私に逃げようとしてる。正直言ってチョ〜うざぁい!」
凛月「…何それ…」
女王「凛月、他人っていうのはさ理解不能だからいいんだよ。だから、相手のことを真剣に考えられる。だから、その人のことを大事に思える。今考えてる人のこともっともっと知りたいってそう思ってるんでしょう?それならもっともっと真剣に考えて見なよ、そうすればその人のために何がしたいか、どうしたいか…答えは出てくるんじゃないかな…?私はそのほうが凛月のためになると思う。『友達』からの助言だよ」
凛月「…そう…そうだね」
俺は女王様の言葉を聞いて静かに立ち上がる。きっと、俺の中で答えは出てたんだと思う。けど、その一歩を踏み出すのが怖くてずっと足踏みしてた。俺よりも前に…その大きな一歩を踏み出したことのあるこの子はそれに気づいて俺の背中を押してくれた。
やっぱり、女王様には隠し事できないな…。今までも…きっと、これからも…。
凛月「収録、さっさと終わらせよう。」
女王「誰のせいで休憩したと思ってるんだ…。まぁいいや、さっさとやっちゃおう。待ってる人がいるんでしょ…?」
凛月「うん…助けてあげたい子ができたんだ」
女王「そう…じゃあ、颯爽と駆けつける騎士になりなよ…『騎士様』♪」
女王様は笑ってスタジオへ戻っていた。俺もそのあとについていく。収録が終わったら彼女に電話をかけよう、どこにいるかはわからないけれどどこへでも駆けつけるよ。女王様のご命令だ、悲しみの海に溺れそうな『天使様』を助けてあげるよ…『騎士』らしくーー。
第十話
凛月「ひどい声だね。どうしたの?」
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