第一章 スカビオサ
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それから、約2年の時が経過した。
この10月で私は21歳になる、そして零と付き合い始めて1年とすうかげつが経過していた。2年の記念日は零がライブツアー中で会えないから、私の誕生日にお祝いをしようと言ってくれた。
そして、今日がその約束の日だ。秘密主義な個室レストランで零がくるのを待っていると、個室のドアがノックされ、ガチャリと音を立てて開く。そこには、少し崩した私服姿の零がいた。
『お疲れ様、ごめんね。先に飲んでる。』
零「あぁ、お疲れ」
零は、案内してくれたスタッフに飲み物を注文し、席に着く。すぐに飲み物が運ばれてきて、零は飲み物の入ったグラスを傾ける。私もそれに合わせて飲み物の入ったグラスを傾ける。
零「美羽子、21歳の誕生日おめでとう。それと我輩と2年も付き合ってくれてありがとう。乾杯」
『乾杯。こちらこそ、こんな私と2年も付き合ってくれてありがとうございます♪』
あれから、零とはこうやって個室で秘密を守ってくれる店やお互いの家などでしか会うことはなかった。この2年間、静かに愛を育んでいたといえば可愛らしいが隠れて二人の世界を創っていたのだ。
今のところ、ママにもバレていなければお互いの事務所にもバレてはいなかった。零も徹底してくれていることもあり、パパラッチされることもなかった。
零「そういえば、この間凛月に会ってな。美羽子が元気かと聞かれた」
『凛月さんが…?でも、この間仕事でご一緒した気が…』
零「…やはりか…、凛月にはバレておるかもしれんな」
『えっ…それってまずいですか…?』
2年もすれば敬語や呼び捨ても慣れたものだけど、ふとした時に敬語になってしまうのはもう癖というものなのだとつくづく思う。
零「大丈夫じゃろう…。凛月はあれで気が遣える子じゃ」
『そうですか…なら良かったです…』
すると、再び扉をノックする音が聞こえて料理が運ばれてくる。零は「食事にしようか」と笑い、私もそれに頷く。その後も最近の世間話や近況報告をする。私は、先日公開された映画の話や次のドラマの予定、零は『UNDEAD』の話やライブにドラマに様々な話。
特に、何をするでもなく穏やかな時間が過ぎていく。
零「このあと、うちにこんかのう…?知り合いがいいお酒をくれて初心者でも飲みやすいらしくて一緒に飲みたいんじゃが…」
『一緒にいくの…?危ないんじゃ…』
零「…やっぱりまずいか…誕生日のお祝いにと思ったんじゃが」
『うっ…零がいいなら…行きたい…です…』
零「…じゃあ決まりじゃな」
零はニヤリと笑って帰り支度を始める。私も帰り支度をして向かい合えば零がマスクをずらして唇を重ねる。私は驚いて零を凝視していると、「少し後からおいで」と頭をひと撫でして個室を後にする。私はその場にしゃがみこむ。あの人は、恥ずかしいことを平気でして恥ずかしくないのか。いや、恥ずかしくないからアイドルをできるのか…。なんて、全世界のアイドルさんごめんなさい…。
『あぁ…もう、家に帰ったら覚えてろぉ…』
私は少し時間をおいてから、お店を後にする。お店の前に止まっていたタクシーに乗り込めば、先ほど目の前にいた人物が座っておりタクシーの運転手に「いってください」と伝える。タクシーはドアを閉めて零の家に向けて走り出した。あの時の私は気づいていなかった。これが気の緩みというものだってことは…
零「先に降りてて」
零の言葉にコクリと頷く。私は車内で話すことはしないほうがいいと思い、声を出さず車から降りる。先に降りれば、零は酔いが回っていたのか足元がグラつく。私は咄嗟にそれを支えるが、すぐに離れる。
零「すまん。助かった」
『ごめん、咄嗟に…』
零「早く行こう…」
『うん…』
私は、先を歩く零に大人しくついていく。エントランスを入ってしまえば零は私の手を取り歩きはじめる。少しだけ、心が温かくなる。零の足は心なしか足早で、行き慣れた部屋の前で止まり鍵を開ける。私は先に入れられて驚いていると、鍵が閉まったドアに押し付けられる。なんだなんだと驚いていれば、零の綺麗な顔が私の目の前にあった。
『な…に…んん!』
零「……ん」
零は私を玄関の扉に押し付け、強引にキスをする。私はそれを受け入れようにも急なことで呼吸が乱れる。それを把握したように零は私の顎をクイッとあげて開いた口に舌を入れる。
『んぁ…ん…んんっ…はげしっ…』
零「『天使様』の口内は甘美でな。ついつい…」
『はぁ…はぁ…急にキスしないで…』
零は「すまんすまん」と私の頭を撫でてから靴を脱いで部屋に入っていく。私は呼吸を整えてから、その後を追う。
綺麗に整理された部屋はモノトーンに統一されている。ごちゃごちゃしていなくて、私は座り慣れたクッションの上に座ると、零はグラスを用意して例のお酒を取りに行く。
戻ってきて、お酒をグラスに注ぎ込めばグラスを持ってこちらに寄ってくる。
零「相変わらず、隅っこがお好きか」
『相変わらず、隅っこがお好きです。』
零「意地悪しすぎたかのう…?ほら、飲んで機嫌を治すのが良かろう」
『…乾杯』
零「ん、乾杯」
カシャンっと音を立ててグラスをぶつけてから、口にグラスをあてお酒を注ぎ込む。果物をベースとしたものなのか、口の中には甘い香りが広がって喉をすんなり通って行く。
『美味しい…すごく飲みやすい』
零「そうじゃな。ほれ、もう一杯」
『…いっぱい飲ませて何するつもりですか〜?』
零「ククク、わかっておるじゃろう?ここは『魔王』の城じゃよ…食われる覚悟はできておろう」
『キャ〜!あははは☆』
零はグラスをテーブルに置くと私に飛びつく。私は、クッションに倒れこみその上に零が乗る。二人で「あはは」と笑いあっていれば、ふと静まって見つめ合う。
『零、私幸せです…。あなたに恋してよかった』
零「我輩も幸せじゃ、美羽子を好きになってよかった」
そうして見つめ合ったまま、唇を重ねた。徐々に深くなっていくのにも先ほどとは違い、ゆっくりされれば怖くもないし辛くもない。ただただ、幸せを感じることのできる瞬間だった。
第七話
『貴方に会えてよかった』
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