第一章 スカビオサ
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ドラマが無事クランクアップを迎えたある日、零さんとドラマの最終回の番宣のために朝のニュース番組の1コーナーに出演した。続けて出演するので楽屋で休憩していると聞き覚えのある声で誰かと会話している声が聞こえる。
零「あぁ、じゃから無事に終わったと言っとるじゃろ。真面目にやっとるよ。全く、我輩の愛し子は相変わらず我輩を信頼しておらんのか?
……あぁ…あはは、そうかそうか。うむ、最後まで仕事はこなすぞい」
そこには、零さんが楽しそうな声で誰かと電話越しに会話していた。今まで見たことない顔…、楽しそうな声…少し冗談交じりな会話。私の知らない零さんだ。きっと、その電話の先にいるのは女性で、ただの『友達』ではないのだと感じる。
すると、頬を何かが伝う。私はただただ零さんを見つめることしかできずジッと見ていると、後ろからスタッフさんが声をかけてそれに気づいた零さんがこちらを見て目を見開く。
『ご…ごめんなさい…盗み聞きのつもりなくて…あの…そのごめんなさい!』
私は局の廊下を走り去る、後ろから私の名前を呼ぶ声が聞こえたけど、正直それどころじゃなかった。休憩スペースにたどり着けば、自分自身を落ち着けようと外を見ながら深呼吸する。隅っこの椅子に腰をかけ、ただただ外を見る。
零「隅っこが好きなのは相変わらずじゃな」
『あっ…零…さん…』
零「なんで泣いておったか聞かせてくれんか…?美羽子ちゃんが泣いて走り去った理由を教えておくれ」
『あれは…目にゴミが入ったんです…大きいやつが』
零「…っ…ククク…あはっははは!そうか、そうであったか!」
零さんは私の返答にこれまでにないほど大笑いして私の頭を乱暴に撫でる。せっかく整えてもらった髪の毛が乱れてしまうのに、頭を撫でられたことへの嬉しさが勝って甘んじて受ける。
すると、零さんが隣に椅子を持ってきて座る。
零「すまんな、嫉妬でもしてくれたのかと思って追いかけてきたのじゃが、的外れだったか」
『嫉妬って…電話の相手が誰かもわからないのに…』
零「女の子じゃよ。可愛い可愛い年下の」
『そう…ですか…零さんが可愛いっていうくらいですもんな。私なんかより全然可愛いんでしょうね…』
零「…のう、美羽子ちゃん。自意識過剰だと思うんじゃが、美羽子ちゃんは我輩のこと好きだと思うんじゃが…。」
『…えっ!』
零「お主は顔に出やすい子じゃな。名女優が泣くのう。…して、それを前提に話を進めるが、我輩も好きじゃよ。美羽子ちゃんのことが」
『えええっ⁉︎』
驚いて立ち上がると、隣に座った零さんが「声が大きい」とまた座らせる。私はそれに従って座ると零さんは私の方を見て微笑む。
零「電話の相手は女の子じゃが、もう相手がおるよ。高校の同級生でな、向こうは海外で朝のこの時間によく連絡が来るんじゃよ。」
『仲良し、なんですね…』
零「…というよりは、自分のドラマの進み具合が気になっておったんじゃろう。仕事の話しかせんかったよ」
『自分のドラマ…?』
疑問に思いつつも、今までの出会った皆さんの発言がピースのようにはまっていく。自分のドラマ、凛月さんの知り合いの脚本家さん、脚本家さんはイタリアに留学中…他にも様々なワードが重なっていけば、零さんの電話相手がこのドラマの脚本家さんだということに気づく。
『じゃ…じゃあ…相手は月永さんだったんですね。』
零「あぁ…勘違いさせてすまんかったな。あの子とはただの同級生じゃよ。それで、返事は?」
『へ…返事ですか…?』
零「…我輩、今美羽子ちゃんに告白したんじゃけども」
『こ…告白…』
零さんはコクンと頷いて微笑む。まさか、告白されるとは思っておらず焦る。どうしよう…。共演者と付き合うなんて、よくない。ママにバレたら怒られるし、事務所にも怒られてしまう。それに、公表できるわけないし…。零さんにも最終的に迷惑をかけてしまうんじゃないだろうか…。とグルグル思考を巡らせていると、零さんが膝に置いていた私の手を握る。
零「迷惑はかけん。公表もできないだろうし、隠す努力はする。じゃから、我輩と付き合ってくれんか…」
『…ひゃ…ひゃい…』
零「…ふふ、じゃあ晴れてカップルということじゃな。」
『…不束者ですが…』
零「あぁ…こちらこそよろしく」
まさか、付き合えると思っていなかったこの恋が実るとは思わなかった。私は、高校を卒業して初めて恋というものを作品の中ではなく、リアルで…。
『零さん、付き合えて嬉しいんですけど…。この関係は内緒にしてもらってもいいですか…?ママに怒られちゃうし、たぶん公になれば事務所にも零さんにも迷惑をかけちゃうと思いますし…』
零「あぁ…わかった。代わりに、と言ってはなんじゃが零と呼んでくれんか?あと敬語はやめておくれ」
『あっ…はい……じゃなくて、うん。わかった…零…さん…』
零「ふふ…、徐々にでよかろう。よろしく美羽子」
『…呼び捨て…』
零「嫌じゃったか?」
『ううん、嬉しい。』
零さんは「そうか」と呟いて、手を差し出す。私はそれに手を重ねて立ち上がる。この後も共演が続く、少しの夢のような時間あったけれどこれからはちゃんと仕事の時間だ。
ちゃんと番宣しないと共演者のみんなにも、スタッフさんにも悪い……けど、もう少しスタジオに到着するまでは浮かれててもいいかな…
『零……大好き…』
零「…!あぁ、我輩も大好きじゃ」
二人はゆっくりと手を離して、次の現場であるスタジオに歩いた。途中で、先ほど声をかけてくれたスタッフさんがやってきて「大丈夫ですか?」と言われて、つい「最終回を思い出したらつい…」なんて誤魔化してしまった。特に泣くようなシーンはなかったのだけど…。まぁご愛嬌ということで…。
案内されてセットの裏に零さんと二人きりになる。零さんの衣装を整えてあげると零さんが「ありがとう」と笑う。
スタッフ「お二人は仲良しなんですね」
『はい…作中でもカップルでしたし、お話しする機会も多くて零さんには良くして頂きました』
零「美羽子さんも、いい子で話しやすくてつい話すぎて監督に怒られたりもしましたけど…」
スタッフ「あははは!不思議ですね、世間では『魔王』と『天使様』って呼ばれているふたりがそんなに仲良くしてるなんて!」
スタッフの声が胸に響く。そうだ、『魔王』と『天使様』と呼ばれているふたりがそんな仲良くしているなんて世間的に見れば面白い図かもしれない…。きっとバレたら格好の的になってしまうんだろうと思って冷や汗が流れる。零さんはそれに気づいたのか、私の肩を抱いて不敵に笑う。
零「仲のいい友人ですよ。天使様が友人な魔王は変ですか…?」
スタッフ「い、いえ!お似合いです!」
そういってスタッフさんは逃げて行ってしまった。最初こそは苦笑いしていた私も零さんと目があうとつい笑ってしまった。あぁ…幸せだ。恋ってこんなに温かいんだ。
第六話
『恋は一度燃え上がれば周りも見えなくなってしまう』
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