連弾!月光とシンパサイザー
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こんな雨模様では中庭で昼寝も作詞もできはしない…。
きっと凛月は自分の教室かセナハウスにいることだろう。あそこならクーラーも効いてるし、飲み物を冷やすための小さな冷蔵庫がある(私が入れた)
最適も最適…それをわかっていながら私の足が向かないのはまだ凛月に返せる理由を見つけられないでいたからだ。
あれから数日、頭を悩ませたがもう限界だ。悩み事は創作意欲を同時に沸かせるが、どうもこの悩みはその逆…創作意欲の妨げになっている。教室の中で雨が降る空を見るのも嫌になってきた。
先日ニュースで梅雨が明けたと言ったキャスターはとんだ嘘つきだ…。ここ数日は、雨続き。むしろ、梅雨って言っていた時よりも降っている気がする…。
7月になってジメジメして暑さも含んだこの天気にやる気も思考も…霊感(インスピレーション)も奪われいく。気力もなく机に伏せる…と隣の薫くんが綺麗な顔でこちらを見る。
『なぁに薫くん…私は枯れたオアシスだから…もう砂漠を潤すことはできないよ…君は不幸な旅人だね…』
羽風「え…なに急に怖い。ただ紡ちゃん悩み事かなぁ?って俺でよかったら話聞くよ?」
『雨を止める方法って知ってる?』
羽風「…ごめん、それはわからないかも…」
『アドニスくん元気?』
羽風「紡ちゃんって脈略ないって言われない?」
『言われる…特に作曲が滞ってる時は、壊れたおもちゃって言われた…』
羽風「誰に?」
『泉に…』
羽風「あ〜…ちょっとわかるかも…」
『…ごめん、寝る…。授業終わったら起こして…?』
羽風「…うん、わかった。おやすみ」
薫くんは私の頭にポンっと手を乗せると「おやすみ」と微笑んで前に向き直る。私は窓の方に顔を向けて目を閉じる。
この雨はまるでここ数日の自分の心を表しているようでとても不快だ。この雨が止むのが先か、私の悩みが晴れるのが先か…
この悩みを誰に相談していいのかわからない。どう相談してもいいかもわからない。
じゃあどうすれば、凛月といつも通り仲の良い会話ができるのか。…どうすれば、私は私の友達を納得させられるのか…わからなかった。
思考は回れど、気づけば雨音が私の意識を夢へと誘っていった。
2年生のころ、初めて出会った時は不思議な存在だと思った。でも、自分の勘がこの人はいい人だって教えてくれた。私は自分の勘とか感覚というものを信じている節があるので、その勘もしっかり信じ込んでいた。
それから凛月がいった
「俺の名前”凛月”っていうの、凛々しい月って書いて凛月…」
という自己紹介が、何となく頭に残ってる。
美しい例えだと思った。凛々しいにレオと同じ”月”を持っている子だって、それと同時に零さんの弟だと知った。あの時の零さんを思うと真反対の静かな子で、天才と比べられて影で苦しんでいる私と同じ…いや、似ている存在だと思った。
そして、私と同じ太陽の元では息苦しい思いをする人物に私は興味津々だった。
でも違った、レッスンをしている時の凛月は零さんに負けないくらい綺麗な歌声、美しいダンス、挑発的な表情もパフォーマンスの一部になっていた。昼間でもそこらへんのユニットには負けないほどのパフォーマンス力を持っていた。
あぁ、この人も…天才なんだ…そう思うと寂しい思いがこみ上げてきた。
しかし、凛月はそんな私を気にもせず声をかけてきた「今回の歌詞、俺結構好きだよ?」、「王さまに紡と距離が近すぎるぞー⁉︎って言われたんだけど、紡は嫌?」…凛月は私の思いとは裏腹に迷いなく近づいてくれたし、いっぱい話してくれた。
それにだんだんと慣れて、気づけばその距離感に慣れていたし多くを語らなくともお互いの居心地のいい距離がわかるようになっていた。
お互いが太陽の光の下では息苦しくなってしまう人種なようで、ひっそりと夜という時間を共有してきた。その居心地の良さに理由なんてものを探そうとせず、『特殊な友達』という枠に満足していた。
『あの時』もなんとなく凛月ならきてくれると思っていたら本当にきてくれて驚いた。まさか、あんなに怒ってくれるとは思ってくれなかったけど…、それでも心を読まれたかのように叱られてしまった。
友達を傷つけてしまった。
私は、この時初めて凛月との距離の取り方がわからなくなってしまった。それでも、凛月はそばにいてくれたし見守ってくれていた。それはまさに騎士という名にふさわしい存在だった。
凛月は友達であり、ユニットメンバーであり、好きなアイドルの一人であり、騎士の一人である。
羽風「紡…ちゃん…。紡ちゃん!おはよっ…♪」
『ん〜……薫くん…?』
羽風「おはよ♪授業終わったよ」
『終わった…?お昼…?』
羽風「そうだよ。お昼一緒に食べる?」
『いや…行きたいところあるから行ってくる…』
羽風「あら残念……。じゃあ行ってらっしゃい♪」
意外と潔く見送ってくれる薫くんに驚きつつ、手を振り返すと教室を後にする。
廊下を歩いて目的地を目指せば、目的地である教室は電気も付いておらず雨だったこともあり真っ暗だった…。
教室のドアを開けて入り、近くにあったギターを手に取り、棺桶の上に座る。
私は静かにギターを弾き始める。
動き出し
『起きろ〜吸血鬼〜』
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