崖っぷち!続かない五線譜
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ーーーーーあれから、泣き疲れた私は心配する2人を無視して眠りについた。
次に目を覚ますと、外は明るくなっていて泉と凛月のかわりに両親が立っていた。声をかけると母が泣きながら私を抱きしめて、父が母とまとめて私を抱きしめる。
こんなに暖かく愛しい空間でも、私の脳内は音楽を奏でることはなかった。
呪いは一夜明けても私の身体を蝕んだままだった。きっと両親には見えないであろう黒い液体は彼が触った頬といつもペンを持っている部分にこびりついていて…、身体を侵食するかのように覆っている…夢の見すぎで幻覚でも見え始めたのだろうか…、彼がかけた呪いは私には効果的面だったようで…
静かにしている私を不思議に思った両親に、事情を話すと2人とも驚いた顔をしていた。どんなに体調を崩してもピアノの前に立とうとする娘がそんな冗談を言うわけない。そう理解している両親…さすがに夢の話はできなかったが、作詞も作曲もできないと落ち込む私を2人は再び抱きしめた。
それでも音楽が私を満たすことはなかった…。
そのあと、父が医師を呼び軽い診察をする。
どうやら、私は作曲に集中するあまり栄養失調になり倒れた。加えてストレスからくる突発性難聴で耳が遠くなってしまい、一時的に声が聞こえないことがあるそうで休むことやストレスを取り除くことで、症状は徐々に無くなっていくそうだ。
他に何かあっては、と心配する両親の言葉で医師は検査入院を勧めた。私はそこまでしなくても…と思うが両親が検査しないなら作曲部屋を取り上げる。と言われてしまいしぶしぶ3日間の検査入院を決定されてしまった…。
3日間…音楽がない世界で過ごすのは初めてで…この小さな箱の中ではなんの変化も望めないことだろう。不安で仕方なかった。両親は目いっぱい休めばいいと言ってくれるが、きっとこの不安をわかってくれるのは呪いをかけた張本人である彼だけなのだろう。
父は悲しそうな顔をして「また会いに来る」と言って静かに病室をあとにする。
残った母はしょんぼりと下を向く私を心配して声をかける…
紡母「紡ちゃん?大丈夫?」
『…うん、元気だよ。心配かけてごめんね?』
紡母「あなたが元気なら、それでいいのよ。…いっぱい頑張って…ママに何も言わずに倒れるなんて…本当に悪い子ね…」
『…うん…、ねぇお母さん…私悪い子だからさ…ワガママ聞いてくれない…?』
紡母「…もちろんよ、なぁに?言ってみて…?」
『今日一日、一人にしてほしい…』
空気がパリッと凍って母は私を悲しげな目で見つめる。私は自分の意志を伝えるように、母を真っ直ぐに見つめ返す。
そのまま私の頭を撫でて「何かあったら連絡するのよ」と言い残して、外へと出ていった。
1人になって静まりかえった病室は私の頭と同じで、音楽を奏でることの無いまっさらな世界だった。小さな小さな私の世界になっていた。
いつもなら、窓を開けて天気や風景、子供達が遊ぶ声…その全てが脳内で音階や詞を奏でるのに、今の私には到底できないことであった。
呪われた私の身体は起き上がることも許さずベットに身を預けることしかできなかった。
ーーーーーあれから何時間経ったかわからない。
眠っては起きてを繰り返し、看護師さんが言うがままにご飯を食べ検温して指定された場所で検査をする…それを数度繰り返せばいい時間になっていて…、
その間もきっとお見舞いにきたであろう『Knights』のメンバーや学院の友人から連絡がくる…。
しかし、それを全て無視して私は母が持ってきてくれていたメモ帳と五線譜を目の前にボーっとしていた。
作曲はまだしも作詞なら、と向かい合っても呪いがそれを許してはくれなかった。空っぽの頭でもペンを持てば!とペンを持つとノイズが鳴り響き脳内にあった何もかもを削除していく。
誰に言われた訳でもないが、私の存在理由をも削除されていく感覚に襲われ、ペンを乱暴に置いて布団に潜る。
レオはきっとこの数ヶ月をこうやって過ごしているに違いない。自分の存在理由を追い求めレオは私より広い世界で彷徨っている。そう思うだけで私の背中はゾワゾワと震える。
この狭い病室の中で私はもがき苦しんでいるのに、レオはその何倍も広い世界で苦しんでいる。考えが深まるほどに脳内はどんどん暗闇に覆われていく。
彼が苦しんでいるのに私は彼に何もしてやっていない。一緒にいると音楽で溢れる、お前はすごいな…!と小さいレオが笑った記憶がふと頭をよぎる。
きっと…、あの時も彼と一緒にいれば、彼が自分を失うことも音楽を失うことも無かった。そして、『Knights』が王さまを失うことも、私が音楽を失うこともきっとなかった…
これはきっと彼に何もしてあげられなかった。愚かな私に彼がかけた…、とっておきの呪いなんだ…
ならば、甘んじて受けよう。これから一生音楽を奏でられなくなったとしても…、それで彼が戻ってくるなら…彼の気持ちが楽になるなら…
彼が喜んでくれるなら…。
そうして、私の意識は夢の中へと沈んでいくのだったーーーーーーー、
誰かが病室のドアを開けると音と一緒に。
狭い箱の中で
『私の世界は全て彼のもの』
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